エレナ side
やっと書き上げました。小説大変です。次は8月20日までに書き上げるよう頑張ろう。
長時間労働つらい
あたいはエレナ。
年は、22歳。
アンドーラ連邦の片田舎の出身だ。
大好きなものは酒と魚だ。
今は、冒険者をしている。
あたいの家は貧しくて、食うので困ることは日常茶飯事だった。
ただ、母さんがいて、弟たちがいて、それに村のみんなもいるから、貧しい中でも、なんとか助け合いながら過ごせていた。
そんな貧しい村にも娯楽がある。
それは時々、村に立ち寄る冒険者の冒険談を聞くことだ。
貧しい村の子供たちは、大抵、冒険者に憧れていた。
冒険者は、実力の世界。強さ、知恵がものを言う世界だ。努力し、一流の冒険者になれば、金持ちになれる。そんな単純な理由と時々、村に来る冒険者が話す英雄譚。子供たちはそれを聞きたくて、村に冒険者が来ては、冒険者に話をせがんでいた。
冒険者は、気質が荒い者もいるが酒が入ると快く話してくれる者も多かった。そして何より、村を困らせるモンスターの退治。子供たちが憧れるのは必然のことだった。
そして、あたいも冒険者に憧れ冒険者になった。そして、旅をし、旅の中でルイと合い一緒に冒険者をしている。
チーム名は、「疾風の剣」。
ルイはあたいの相方で、相当の美人の冒険者だ。
きれいなブルーの髪。小さくきれいな顔。スタイルもいい。胸もあるし。。。
一緒に冒険をしていて、自分と比べてしまって、たまに、同性としてへこむときがある。
そして、時々、きれいなブルーの髪からふわっと甘いいい匂いがする。
あれは何を付けているのだろう。
ルイと出会ったのは、冒険者を初めて1、2年経った17,8の時だろうか。
あの頃はあたいも自信と希望に満ち溢れていた。
そんなとき、ルイとは町の酒場で出会った。
その頃、あたいはソロで冒険者をしていた。あたいの強みは、他を圧倒すふスピードと剣技。あたいは兎に角、スピードと剣技を持ち味として、名が売れ始めていた。
そのころ、あたいと同様、ルイもその街では腕利きの冒険者で名が通っていてた。剣の腕では、町で屈指の冒険者という呼び声が高い。しかし、そんなルイもソロで活動していて、あんまり愛想がなかったためか、冷淡な冒険者としても名が通っていた。
ルイとは、たまに、同じ酒場で合うことはあったが会話を交えることはなかった。しかし、ひょんなことからもめ事に巻き込まれ、レイと一線交えることになった。
その時、あたいは決死の覚悟で戦った。
あたいのスピード・剣技をフル活用して。
しかし、やはり、ルイは強かった。
ルイの剣は、洗練されていた。
的確に繰り出される斬撃や突き、すきのない佇まい、長年、誰かに習い収めた剣だろう、あたいの剣と比べたら、月と鼈で、きれいな剣技だった。
ただ、その一戦は決着が付かなかった。そして、戦いのあと、ルイがあたいに向かってこう言った。
「野性的で読めない剣って本当に戦いにくい。なのにあなたの剣って案外、柔軟なのよね。あんたの剣もそこまで行けば流派の一つね、勉強になったわ」
切っ掛けはそれ。
それ以来、剣の話をするようになり、酒を酌み交わすまでになっていた。そして、いつの間にか依頼を一緒にこなし、今では同じチームとして活動している。お互いに剣にかける想いは強い。そして、お互いに力量を認めあった。
あたい達は旅をした。もっと、強いモンスターを求めて。そして、高い報酬を求めて。
ある時、ラクトールという町にたどり着いた。帝国の町のひとつ。ここは、周辺に森林などが多く、モンスターが多い。これだけ聞いたら普通の人間は危険な場所だからと言ってすまないが、ラクトールは違う。ラクトールは城塞都市なのだ。古から伝わる、伝説の賢者が魔法で作ったといわれている高い壁がそのまま残っている。その為、町の中は安全で、森林でのモンスター退治が産業の一つとなっている。あたい達はそこに住み着いた。
あたい達は順調に依頼をこなしていった。冒険者ランクも銀ランクになり、町であたい達を知らぬものはいなくなった。
スピードと剣にものをいわせる冒険者チーム「疾風の剣」。
そんな時、今回のラトラス街道付近の森林の調査を受けた。それは、ギルドからのギルド指名だ。指名には依頼者からの指名とギルド指名などがあるが、重要案件等の依頼については、冒険者を把握しているギルドからギルド指名が入るしくみだ。
確かに、ラトラス街道付近からラクトールにかけてモンスターが多発し、狂暴化していという噂があった。
楽な仕事だと思った。報酬は金貨10 枚。かなりの報酬だ。
あたいとルイは調査にでた。
途中、ゴブリンやレッドウルフ群れなどに出くわしたが問題なく撃破してきた。普通の冒険者ならレッドウルフの群れは危険極まりないが あたいたち、銀ランクある「疾風の剣」は伊達ではない。
しかし、奴らは違った。
あたいたちは、ラトラタ近くの森にいた。
最後にそこを確認して調査終了の予定だった。
しかし、そこでオークジェネラルに出会ってしまった。
初めは、調査中にオーガ1匹に出くわしただけだった。
オーガは危険度が高く、オーガ単体でもブロンズ級冒険者がチームで戦うことが基準となっている。
シルバー級冒険者では、1対1での対応が可能いったところだ。
オーガはあたいたちを見るなり、すぐに森の奥へと逃走し始めた。
あたい達は追った。
あたい達は、このオーガを討伐し、必要な部位を持って帰るつもりだった。
しかし、それは、オーガジェネラルによる策略で、囮であることに気づいていなかったのだ。
オーガは、自分の種族に女がおらず、他の種族と交配して種族を増やしていく。
その為、旅人や冒険者などを襲い、他種族の男は惨殺し、女は生け捕り種を残す為交配するのだ。
特に、人間の女は、体がひ弱の為、よく標的にされる。
あたい達は森に入ってから目を付けられていたのだろう。迂闊だった。
あたい達がそのオーガを森奥深く追っていく。
すると、開けた場所に出た。
森の中で昏々と太陽の日差しが差し込んでいる。
あたい達がそこに見たものは、オーガの群れとその群れを仕切るオーガジェネラルの姿だった。
「GHOOOOOOOOOOOOOOO!」
「GHO」
「GHOO」
あたいは、先ほどまでのオーガが囮だったことに気づいた。
「ルイ!やられた!さっきのオーガは囮だ!」
話し掛けてルイを見てみると、ルイはバツの悪そうな表情をしている。
普通、オーガは囮を使った誘い込みなどしない。
しかし、何故。
「エレナ、これはまずいわ」
「ルイどうした?!」」
「あそこを見て、オーガジェネラルがいるわ」
あたいは少し角度を変え、オーガの後ろを見るとオーガよりさらにデカいオーガがいることに気づいた。
「まじか!なんで準災害級のモンスターがいるんだ!やばすぎるぞ!」
オーガの上位種オーガジェネラル。準災害級モンスター。
筋肉隆々とし巨大な体、醜悪な顔、巨大なマチェット、あまりの規格外さだ。
オーガジェネラルについては、いろいろの噂を耳にしたことがある。
オーガジェネラルが、町へ侵攻し、一夜にして町を滅ぼした。
銀級冒険者が徒党を組んで討伐に言ったが、誰一人として帰らなかったなど。
非常に凶悪だ。
冒険者の中では、発見したら、すぐに逃走し、ギルドへ報告することが定石となっている。
そもそも早々出くわすことなんてない。
あたい達は、オーガジェネラルに気づき逃走しようと思ったが、既に、オーガに囲まれていた。
「エレナ、これはまずい、撤退よ、しかし、囲まれちゃったわね」
レイの表情が曇っている。
どうすべきか。ここは一点突破しかない。
「ああ、これはまずいな、二人で一点突破で逃げるしかない、レイ生きて帰るわよ」
「そうよね、エレナこそ遅れないでね」
あたい達は、その会話をかわきりに、オーガジェネラルと真逆の方へ狙いをつけて突進した。
「せい!せい!せい!」
「やー!」
あたいは、オーガに切りかかった。
ルイは、コンビネーション攻撃で、オーガへ攻撃を加えている。
ルイの攻撃はオーガに二撃直撃し、オーガが膝をついた。
あたいの攻撃は、初撃と第二撃は防御されたが、第三撃は直撃した。
オーガが膝をついているうちにあたい達は、すり抜けようとした。
しかし、オーガは棍棒を振り回し、邪魔をしてきた。オーガの攻撃範囲の広く、棍棒での攻撃は危険だ。
すると、他のオーガ達がルイに近寄ってきた。
レイはすでに数匹のオーガを相手にしながら戦っている。
オーガ達の攻撃をぎりぎりのところで交わしながら。
既にあたいも囲まれている。多勢に無勢。
あたいもレイもオーガの攻撃を被弾し始めた。
オーガの攻撃を直撃したら人間なんてひとたまりもない。
あたい達は、疲れによりオーガ達の攻撃がかすれてきた。
長年使ってきた愛用の硬革製のレザーアーマーも愛刀もぼろぼろだ。
かなり息が上がり、苦しい。
「レイ、、、埒が、、あかない、突破しなくては」
あたいは、必死に攻撃を避けながら、レイに話しかけた。
「確かに、、、ここは、お互いの得意武技で、、再度、、一点突破と行きますか」
「わかった」
あたい達は、得意の武技でオーガの壁をこじ開け突破することになった。
武技。それは、弱者が強者に打ち勝つために編み出された弱者の牙。
その技を末永く鍛えることで得られること出来る、必殺の一撃。
上級の冒険者になると武器の一つは持っていなければ、この危険な冒険者家業はやっていけない。
人間という弱者が、モンスターという強者に勝つための弱者の牙なのだから。
そして、あたいの得意は突き技だ。
「はー、武技、荒尖突!!」
あたいの武技。
荒尖突。
あたいは、これで死地を何度も乗り越えてきた。
ここ一番に信頼できる技だ。
これを、全力で放った。
荒尖突自体は、武技の中ではよく使われる武技だ。
あたいの剣は、目の前にいるオーガに向かって突き進む。
オーガは、その突きを防ぐため、あたいの剣の先に棍棒を突き出した。
ガキーン!!
剣先と棍棒が激しくぶつかり逢い、棍棒ははじかれた。
しかし、剣の刃先は、衝撃により、折れてしまった。
しかし、それでも、その剣は、オーガに向かい、突き進み、オーガの体に深々と突き刺さった。
そのまま、オーガは後ろへ吹き飛ばされた。
道は開けた。
使い慣れた剣を犠牲にしてしまったが、逃走経路が出来た。
あたいは、素早く、その間を抜けた。
横目でレイを見る。
レイは、得意武技、五月雨を使用したようだ。
同じく、オーガ2体が切られたことにより、膝を折り、手までついている。
オーガに深々とした傷が生々しく残った。
「(流石、レイだ)」
すると、レイが
「エレナ!ここを抜けるよ!!」
そう言って、オーガの間を抜けた。
あたいは、ここで逃げ切ったと安心した。
あたい達は、剣もそうだが、スピードに関してもピカ一。
疾風の剣なのだから。
しかし、奴は、簡単には逃がしてもらえなかった。
「GHOOOOOOOOOOOOOOO!」
オーガジェネラルが咆哮を上げた。
あたいは、その咆哮に恐怖を感じ、身震いした。
余りの恐ろしさにいの中のものをすべて戻しそうになる。
それほどの圧迫感。
しかし、やっとあのオーガの壁を抜けて逃走経路が出来たのだ。
その圧迫を必死に堪え、走った。
すると、凄まじいスピードで何かが飛んできた。
余りの速さに視認できない。
そして、それは、レイに接触した。
「ぐっ!」
気づくとレイの脇腹に深々と傷が出来、血が流れている。
かなりの深手だ。
レイの走っている先には、巨大なマチェットがある。
オーガジェネラルが使っているマチェットだろう。
あいつがレイに向かって投げたのだ。
「レイ!!!」
あたいは、すぐに近寄り、すぐに起き上げた。
「レイ!!大丈夫か?!」
近くで見ると痛々しい。
レイが悲鳴を上げなかったため大丈夫かと思ったが、かなり深い傷だ。
そして、大量に血が出ている。血とはこんなに黒かったか?それほどまでに流れ出ている。
これはまずすぎる。
「エレナ、大丈夫だ、ここは逃げ切らねば」
レイは、やせ我慢だろうか?顔色が悪い。
あたいは、レイの腕を、自分の肩に回し、注意にしながら走り始めた。
ここからは、あたい達の逃走が始まった。
あたい達はスピードには自信があったが、レイが、傷ついているため、逃走スピードは落ちるのは必定。
後ろからはオーガ達が追ってきている。
これはまずい。
風の剣を言えど、深手をおっての逃走は厳しい。
茂みのなかを進むが辛い。
焦っているのもあるが、木々や草が体にあたり痛む。
このぐらいのかすり傷なら、町に戻り、大銀貨1、2枚を払って治せばいい。ちょっと痛手だが。しかし、ルイの傷はそうはいかない。どうしたらいいだろう。くそ!
その時、ルイが話しかけてきた。
「エレナ、恐らく、もう私は助からない、私をここにおいていって」
ルイの傷からは血が出てきている。
かなりひどい。
せめて、上位体力ポーションでもあれば、どうにかなったかもしれない。
しかし、体力ポーションは非常に高価でこの時は持っていなかった。
ぬかった。
これを治すとしたら高位の神官に回復魔法を行使してもらわなければならない。
この危険な状況を抜けだしたとしてもルイの助かる道は僅か。
無駄になることはわかっている。
しかし、あたいには置き去りにできない。
最期にレイ一緒に戦ってが死ぬのならば、あたいもここを墓場とすることは本望だ。しかし、奇跡を信じたい。
「何言ってんだ、お前を置いていけるか!」
「エレナ、現実を見て。二人では助からない。私を置いていくんだ!」
エレナの顔色が真っ白になっていく。
「ふざけろ!あたいは、絶対にお前を置いて行かないからな!」
あたいは、そんなレイの合理的な考え方にイラっとすることがある。
そんなのはわかっている。しかし、そんなことは、やらない。
恐らく、あたいが切られたとしてもレイはあたいと同じ行動をとったはずだ。
「ほんと、あんたは馬鹿だよ、しかし、ありがとね」
ルイはそう言うと気をうしなってしまった。
あたいにかかる体重がズシリと増す。
それから、どれくらい、逃げたんだろう。
かなり苦しい。
息が上がる。
足が重い。
助けてほしい。
しかし、心を奮い立たし逃げた。
「もう少しで森を抜けれる。そのあとは、道を通る商人でも話を付けて急いで帰ろう、戻ったらうまい飯でも食おう!、そうだ、ルイも聞いたことあるだろう、リ・トゥルーサ王国の黄金食堂!あまりの旨さに死人がでるってさ!そこでたらふく食べようぜ」
言葉も出すのもつらくなってきた。
涙が込み上げてくる。
大切な相棒。
力が抜けているルイ。
気絶していると信じたい。
木々がぶつかる。
何もないところで地面に足がとられる。
そんな些細なことなのに、疲労を感じる。
でも走るしかない。
走っていると、少し先に光が見えてきた。
やっと、道に出れる。
頼むから誰かいてほしい。
そんな軌跡を望んでしまう。
森から抜け、道に出た。
あたいは、周りを見渡した。
暗いところから出たせいか、まぶしくてあたりが見にくい。
すこし、すると、目が慣れてきて、馬車の影があることが分かった。
「(これで助かった。これで助かった。これで助かった。)」
あたいは、歓喜の心で震えた。
これで逃走の可能性が出てきたし、ルイが助かる可能性も出てきた。
あたいは、力の限り叫んだ。
「助けてくれ!オーガの群れに追われている!」
すると、馬車の方から男の声だろうか、声が聞こえてきた。
「早くここまで避難するんだ!」
声の感じは、若い。
馬車を持っているということは、恐らく、商人なのだろうか。
通常、冒険者で馬車を持っているのは、ある程度ハイクラスの冒険者でないと持っていない。
馬の維持費、馬車のメンテナンス費、また、冒険者は危険と隣り合わせのため、馬車をモンスターに破壊される可能性がある。その為、お金に余裕がない限りあまり持たないのが普通だ。もし、行きたい町があったとしたら、行きたい町へ行く商人の防衛任務に随行すれば事足りることが多い。馬車に乗り楽に移動でき、金も稼げる。時には三食の飯もついてくる。冒険者の中ではそれが普通なのだ。
あたいがふっと考えていると、男が急にあたいの前に現れた。
あたいは驚いた。
さっきまでの遠くで話していた男が瞬時にここに現れたのだ。
正直、あの男がどうやってここまで移動したのかわからない。
ただ、さっきまで、馬車のそばにいて、そして次の瞬間こちらに来ている。
高位の魔法か何かなのか。
ただ、もし、あの速度でただ移動したのであれば、人間業じゃない。身体能力系の武技を使っているのかもしれないが、これだけの距離を一瞬にして移動するのだ、化け物だ。もしかしたら、オリハルコン、いや、アダマンタイト級冒険者なのかもしれない。そんな冒険者なんてあまり見たことがないからわからない。
あたいは、この男の異様さに恐怖した。
そして、思わず、口にしてしまった。
「お前、今のはなんだ!?」
あたいは、その言葉を口にしたことを一瞬、後悔した。
この男に関わっていいものなのか。
この男からは、オーガジェネラルとは違う、別の危険なものを感じる。
すると男は、あたいに口を開き、話しかけてきた。
「それは後ででいい。あんたの相棒は俺に任せろ。馬車のところまで避難させる」
そう言うと、ルイを大切なものを扱うかのように優しく、受け取り、前で抱えた。
あたいはその時にやっと気づいたのだが、この男、なんときれいなことなのだろう。きれいな人形が生を受け、動いているかのように美しい。
瞳は、きれいなブルー、キリッとした目元、鼻筋が通っていて、どちらかと言うと女性的な美しさを感じる。また、赤い髪が似合っている。加えて、身長も高く、傷ついた武具の間から見える体は、しっかりと鍛えられたくましい。これほどにかっこよく、美しい男は、帝都でも見つからないだろう。それほどまでに美しい。こんなに美しい冒険者は見たことない。そして、ルイを受け渡した際に男から香る匂い。男なのにいい匂いがした。大体、男の冒険者に限らず、女の冒険者でも臭い。それは致し方ない。野宿などをすることは頻繁で、また、力のない冒険者は貧乏で体など洗えない。あたいは、一瞬自分が臭くないか気になって恥ずかしくなったが、男は、ルイを受け取るとすぐに馬車の方へ移動し始めた。その時の移動がなんと表現したらいいのだろ。川の上を水切りされる石のように軽快に移動していく。その移動は、先ほどと違い目視でき、ルイの体にも影響しない程度だが、それでもあたい達よりもはるかに速い。直ぐに、馬車の元へ就いた。
あたいも、我に返り、馬車へ向かった。これでレイが助かるかもしれない。その可能性が出てきたことに非常にうれしかった。
あたいも、馬車へ到着し、男に礼を言った。
「助かった、すまない」
あたいも正直どっと疲れている。息も上がっている。
「礼はいい、傷を見る」
男は、あたいにそう告げるとルイの鎧を素手で破り、傷口を見始めた。
おいおい!もっと優しく破れよ!女の子なんだから。
ちょっと、見てはいけないものを見ている気がする。。。
しかし、傷を見るということは医学の知識があるのだろうか。
ここは、この男に任せるしかない。
ただ、この男には、伝えなければならないことがある。オーガジェネラルがここに向かっていることをだ。
オーガジェネラルが危機は過ぎ去ったわけではない。
あたいは、この危機を男に伝えるためにも、あたいは、男の肩を引いた。
「ルイはオーガジェネラルに切られた、ルイの手当てを頼みたい!そして、奴らは直ぐにここへ来る、早く馬車に乗り避難し、軍を呼ぼう」
男は、あたいを一瞬振り向き、あたいの言葉を聞くと、また、すぐに、振り向き、ルイを見ながら左手をルイの傷口の前に当てた。
何をするのだろうか。
止血か。
「ハイヒール」
すると、男の手から、あたたかな光が発生したかと思うと、次の瞬間、辺りが明るい光で見えなくなった。
あたいは、あまりのまぶしさに腕を上げ、目を覆ってしまった。
光りは一瞬だけだったようで、あたいは、ゆっくりと腕を下ろした。
そして、男を見ると、なんと、ルイにあった脇腹の傷が跡形もなく消え去ってしまっていた。
あたいは驚いた。
「お前、高位の神官だったのか?!傷跡がない!」
確かに、神秘的なまでにきれいな男だと思ったのだが、まさか、高位の神官だとは思っていないかった。
通常、ある程度の傷であれば、回復魔法職を中心に覚えている冒険者や町にいる神官などでも治すことが出来る。ただし、命に係わる大きな傷は、それらのものでも治すことが出来ないため、大きな町にいる高位の神官や上位のポーションを使用するしかない。しかし、それらは、人材の数や数量などに限りがある。なので、高位の神官や上位のポーションとは非常に貴重なものなのだ。
あたいは、この男に驚かされてばかりだが、男は淡々としている。
「セシリア、二人の手当てを頼む、俺は、奴らを狩る」
男が少女にそう告げた。
あたいが、また、男に声をかけようとしたとき、森からオーガ達が出てきた。
あたいは、回復魔法で驚いた。
しかし、重要なことを忘れていた。
あたい達に迫る危機は去っていないことを。
オーガ達は、全部でオーガが10体出てきた。
あの醜悪な姿が憎らしく。
しかし、ここは撤退の一択しかない。
なぜならば、あの準災害級、モンスターオーガジェネラルがいるからだ。
もう、軍を出動させ討伐するしか道はない。
幸い、この男が持っている馬車は非常に立派だ。
とくに、馬は、普通の馬ではない。まず、普通の馬より一回りはでかい。そして、きれいな赤色の毛並み、男の髪の色も赤茶色の色できれいだが、馬の毛並みはさらに美しい。また、凛とした佇まい。駿馬であり、天下の名馬であろう。それだけではなく、馬車も大きく、しっかりとした作りをしている。これは逃げれるはずだ。
あたいは男を見た。男はオーガを眺めている。こいつにはオーガに対する危機感が全くなさそうだ。こういう現場を知らない神官は危ない。神官がまず戦闘などできるはずもないのだから。
「おい!お前、オーガだけじゃない、その後ろにオーガジェネラルがいる!神官のお前ひとりでは無理だ、ここは一旦撤退し、改めて数を揃えて挑んだ方がいい!」
あたいが話しかけて話が終わる前に男は消えてしまった。
どこに行ったのだろう。
ふと、オーガの方を見ると、男がオーガの首を一刀両断している。そして、一瞬の間に2、3体と首を狩っていった。
あたいは、まず、剣の切れ味に驚いた。あの頑丈なオーガを一刀出来る剣だ、恐らく、魔剣の類だろう。男の持っている剣は、普通の剣ではなく、刀身が白く光っており、刃の背は黒く光っている。なんと美しい剣だろう。恐らく、多くの冒険者を虜にするはずだろう。
そして、男の剣技にも驚かされた。淀みがなく、流れるように繰り出される剣技。
余りの速さに目で追うので精いっぱいだが、洗練された剣技だ。
なんという剣技なのかあたいは知らないが、見るものを魅了する。
あたいも剣には自信があるが、あの高みに到達することはまず無理だろう。あの剣技もまた人外と言っていい。
「「「「「GYUUUUUU」」」」」
周りのオーガ達も硬直しているようだ。恐らく、男から発せられる殺気に動けないのだろう。離れたこの場所にいてもわかる。もし、あの殺気があたいに向けられたら恐らく、あたいは、気絶してしまうかもしれない。それほどまでに危険だとあたいの体が警告してくる。
そのとき、ある1匹のオーガが動き始めた。殺気から逃れ逃走し始めた。それを皮切りに他のオーガも逃走し始めた。あの男のことだ、さらに素晴らしき剣技や強烈な武技を発動させるのかと思いきや、動かず、左手を上げオーガに向けた。
たいは瞬時に何をするのか分かった。この男のすごさがでたらめすぎたからだ。
恐らく、魔法を使うのだろう。あたいは男を注視した。
「ライトニング」
すると、男の腕から、電撃が放たれ、4体のオーガが瞬時に感電し、倒れた。
「ライトニング!?ライトニングと言えば中級魔法だろ!?あの威力で且つ!無詠唱で!!どれだけなんだ!!」
男の魔法にさらに驚かされる。
ライトニングと言えば、雷属性の中の中級魔法。常人が到達できる最高位の魔法だ。
驚異的な身体能力、それに伴う洗練された剣技、無詠唱での高度魔法使用と回復魔法のおまけつきだ。この男はいったい何者なんだ。
あたいは、この男の底なしの強さに驚嘆せずにはいられなかった。
これは、おとぎ話に出てくる英雄の域に達している。いや、もうそれを超えているのではないか。
あたいが男の強さ驚いていると急にモンスターの叫び声が聞こえた。
「GHOOOOOOOOOOOOOOO!」
オーガジェネラルだ。
あたいは焦った。本来逃走するはずの予定が、男の強さに逃走することを忘れていた。いくらあの男が強いといってもオーガジェネラルには勝てるはずがない。
あたいは、その巨大な咆哮に恐怖した。
凄まじいまでの圧力。息が止まりそうだ。
オーガジェネラルは男に向かって走っていく。そのスピードは速い。
50メートルはある距離を瞬時に詰める。
あたいは、男の魔法に期待した。あの威力、何かあるかもしれない。
そのオーガジェネラルは、早いスピードで男に迫る。
ドシン、ドシン、ドシン
しかし、迫るオーガジェネラルに対し男は何もしない。
さっきまでの強大な魔法は使わないのだろうか。
一度しか打てないのか?
せめて先手でも取れれば奇跡が起こるかもしれない。
このままではダメかもしれない。
しかし、男は何かを見通すかのようにオーガジェネラルを見ている。
もしかしたら、何かあるかもしれない。
あの男の落ち着いた雰囲気と佇まい。
何かがあるのかもしれない、そう思わせるものが男にはある。
オーガジェネラルは、男を攻撃範囲に入れると持っていたマチェットで男を薙ぎ払った。
凄まじい剣速。
剣を振った時におこった風圧がここまで飛んでくる。
なんで力だ。
しかし、男は、その剣を交わした。
その男の動きとはあたいには見れなかった。
剣の腕には自信があるあたいだが、辛うじてオーガジェネラルの攻撃を視認できるレベルであり、男の動きが視認できなかった。
しかし、オーガジェネラルの攻撃は続いており、すぐに左の裏拳が男へ飛んできた。
しかし、男はまた裏拳をしゃがんで交わした。
それでもオーガジェネラルの攻撃は止まず、流れるように右足のローキックが飛んできた。
男はその蹴りをぎりぎりの距離で交わした。
「GHOOOOOOOOOOOOOOO!」
オーガジェネラルが雄たけびを上げた。
オーガジェネラルのなんてコンビネーション。
あれは、本当にモンスターなのか。
戦闘が洗練されている。
野性で生きているのにだ。
恐らく、知恵があるのだろう。以前、冒険者仲間に聞いたことがある。
強力なモンスターや特殊なモンスターが知能が高いものがいることを。
恐らく、オーガジェネラルもその一つだろう。
あたいがそう考えていると男は、距離をとり、オーガジェネラルを見た。
そして、男は、左手をゆっくりと構え、オーガジェネラルに向けて魔法を打った。
「ライトニング!」
すると大量の電撃がオーガジェネラルにぶつかった。
ドドドドドドド、ドーン、!
先ほどよりも比べ物にならないぐらいの電撃と音。
豪雨の際に起こる雷が一瞬にして目の前に落ちた感じだ。
心臓が止まるかと思った。
オーガジェネラルは真っ黒焦げになって片膝を地面についた。
先ほどオーガに打ち払ったライトニングと比べ物にならない。
あの魔法はもう、中級魔法の枠を超えている。
あたいは、胸が躍った。
あのオーガジェネラルが黒焦げになり、地に足をついている。
こんな光景はみるとは噂き聞く、オリハルコン、やい、アダマンタイト級冒険者でないと難しいのではないだろうか。
アダマンタイト級冒険者。
それは生きる英雄。
全ての冒険者があこがれる、一握りの冒険者。
男にはそれと思わせるだけの実力を感じた。
あたいがそう思っていると、先ほどまで真っ黒だったオーガジェネラルの皮膚が少しずつ元の色に戻っていくことに気づいた。
「どういうことなの!!?」
あたいは、動揺した。
あれだけの魔法を受けたら普通では生きていられない。
しかし、目の前のオーガジェネラルはみるみる回復していく。
先ほどまで膝をついていたオーガジェネラルが立ち上がった。
これでは、どうしようもない。
はやりオーガジェネラルを倒すなって無理な話なのだ。
準災害級モンスター。
あれを倒せると思ってしまったあたいは馬鹿だ。
あたいがあきらめかけたとき、回復したオーガジェネラルが手放していたマチェットを握り、男に向けて吠えた。
「GHOOOOOOOOOOOOOOO!」
どんどん回復していく。
すると男は、次の瞬間、オーガジェネラルへ前に現れ、そのあと、オーガジェネラルの首とマチェットの剣先が宙に浮いていた。
あたいは驚嘆した。
何があったかもわからない。
恐らく、あの男は、あたいが視認できない速さで動き、そのなでオーガジェネラルの首を狩ったのだろう。
なんと人外の攻撃。
胴体から切り離された首とマチェットの剣先は地に転がり、胴体は、大木が倒れるかのようにゆっくり地面へ倒れた。
その時あたいは、体の底から震えが起きた。
それは恐怖ではない。
生への希望、人類が凶悪なモンスターへ挑み、そして打ち払う勝利の歓喜、言葉では表現できないものがこみあげてきて涙が出てきた。
今、あたいが見ている男は、恐らく、伝説の英雄、いや勇者となる男なのかもしれない。
そんな期待をさせてくれる。
心が躍る。
すると、男は、オーガジェネラルの近くに行き、死体へ視線を落とした瞬間、瞬時にしたいが亡くなった。
「(あれは、噂に聞く、マジックバックか?!どこにもバックはないような気がするが)」
オーガジェネラルの体が急に消えたのは恐らく、男がオーガジェネラルの死体を格納したからだろう。
オーガジェネラルをマジックバックに格納した男は、ゆっくりとこちらの方へ帰ってきた。
人間が一人で挑み、そして、準災害級の魔物を打倒す。それに触発されたあたいの興奮は冷めることがない。
あたいは、男に今までの疑問をぶつけずにいられなかった。
「お前、何者だ!高位の治癒魔法を使ったかと思えば、超高速で移動し、オーガ達を瞬時に切り伏せ、高位の攻撃魔法を使用した後、あのオーガジェネラルを一太刀で瞬殺するとは!そして、最後のはなんだ!?マジックバックか?!お前は、オリハルコン!いやアダマンタイト級の冒険者なのか!!?」
すると男は
「いいや、駆け出しの冒険者だ」
っと答えた。
「それはないだろう!?どこの国にいたんだ?お前ほどの者ならば知らないはずはない!名前は何という?!」
「徹という」
「(トール?!聞いたことがない名前だ。あれだけの技量・力があれば、あたいならば名前に心当たりがあるはずなのだが)」
これでもあたいは、名のある冒険者を覚えているつもりだ。
あたい達は、あたい達より上のクラスの冒険者と一緒に仕事をすることがある。
やはり、あたい達の剣技とスピードに関しては、シルバーランク冒険者の域を超えており、それを必要とした依頼が来るためだ。
上級の冒険者になると情報を重要視する。下級の冒険者は、情報を軽んじるところがあるが、情報は生命線だ。冒険者は、情報に精通しないことには命を落としかねない。あたいたちも定期的に情報屋から情報を仕入れている。その中には、上級冒険者の情報も含まれている。
あたいが考えていると後ろから声が聞こえてきた。
「エレナ!」
あたいは、すぐに後ろを振り向いた。
そこには、相棒のルイが少女に支えられあたいのそばに来ていた。
「ルイ!気が付いたのか?傷は大丈夫なのか?」
ルイの顔色がすごくよくなっている。驚異的な回復力だ。
うれしい。
言葉にできない。
これでレイと冒険が続けられる。
体の芯から込み上げてくる感情が抑えられない。
「ごめんね、大丈夫、こっちのセシリアちゃんが回復魔法をかけてくれたから」
すると、ルイは徹の方を向き、頭を下げた。
「私たち、疾風の剣を助けていただきありがとうございます。私はルイと申します、そしてこっちが仲間のエレナです」
ルイは礼儀正しい。深々と礼をしている。
「エレナもお礼を言って」
ルイに促されあたいはトールに挨拶をした。
「エレナだ、お前のお陰であたい達は助かった、ありがとう、お前がいなかったらあたい達はとっくに死んでいた」
あたいも頭を下げた。
すると、
「トール様!」
ルイを支えていた少女がトールの名を読んだ。
「ん、おっほん、いいや、別にいいんだ、礼には及ばない、俺らも冒険者だから、モンスターを狩ることが出来てよかった」
徹がそう言うとルイが頭を上げ徹に話しかけた。
「いいえ、それはいけません。命のお助け頂いたのですから、お礼をさせてください」
なんと、気前がいい男だ。
人を助けておいて見返りを求めないとは。
冒険者が他の冒険者を助ける場面はそう少なくはない。
しかし、中には、高額な謝礼を吹っ掛けられることがある。
命に代えられないが、しかし、外道としか言えない者たちがいることは確かだ。
しかし、剣を志しているものとして非礼は出来ない。
「そうだ、あたいもトールに礼がしたい!」
礼を欠いては剣士の名折れ、また、剣に腕のある「疾風の剣」だからこそ、あたいたちには、誇りとプライドがある。
「本当に礼はいい、ちなみにお前たちは、なぜ、ここにいたんだ?オーガジェネラルに追われることは普通、あることなのか?」
徹があたいたち尋ねるとルイが答えた。
そうだ。そもそも、あたい達は調査に来ていた。
まさかこんな羽目になるとは思っていなかったが。
するとレイが説明し始めた。
「はい、まず、私たちは、疾風の剣と言いまして、ラクトークを拠点とする銀級冒険者です。あの森にいたのは、最近、国のあちこちでモンスターの動きが活発になっており、その調査の為、この周辺一帯を確認しに来ておりました、その中で、あのオーガジェネラルに見つかり切られ逃走する羽目になりました」
思い出すだけで腸が煮えくり返る。
あのオーガジェネラルめ!
「くそー、あいつら、あたい達が逃げるのを楽しんでやがった、狩りでもしてるつもりだったんだろう、くそ!くそ!」
あたいは勢いよく拳と手のひらをぶつけた。怒りがこみ上げてくる。
「そうだったのか、大変だったな」
徹の声は優しい。
若さ、強さ、ルックスの全てがこの男にある。こんな男はそうそうにお目にかからない。いや、恐らくこの大陸のどこを探してもいないんじゃないだろうか。
「しかし、トールさんには助けていただき、本当に感謝しております。ありがとうございます」
「ありがとう!」
「事情は分かった、それは苦労したな、俺らも同じく冒険者で、帝都に用がありそこへ向かっている。今は、次の町のラトラタを目指している」
徹がそう言うと、ルイが徹にお願いをした。
「よろしければ、私たちをラトラタまで同行させて頂けませんか?ラトラタは私達が帰るラクトークまでの中継地点でもあります。そして、私もエレナもこのありさまで防具はぼろぼろ、武器すらありません。ラトラタまで行き、そこで武器防具等を揃えたあと、ラクトークへ戻りたいと思います。ラトラタについたら、必ず、お礼はさせて頂きます、なので、よろしくお願いします」
今は、武器も防具もない。ここに置いて行かれてしまっては、危険極まりない。
あたいも必死にお願いした。
「トール、お願いだ!」
あたいたちは頭を下げた。
「トール様、いいじゃないですか?馬車も空いてますし、食料も余裕があります」
そう言ってきたのは少女だった。
この少女もまた美しい。
年は、12.13ぐらいだろうか。美しいブロンドの髪に、瞳はきれいなブルーをしている。とてもかわいらしい顔だ。
「わかった、わかった、別に2人増えたところで問題ない、ラトラタまでは一緒に行こう」
これであたい達は、無事、町に帰れることになった。あたいたちは歓喜した。
あたい達は、その日、適当な野営地を見つけ、食事の準備をした。
通常、冒険者の旅において、鍋や食材は最小限に抑えている。
通常なら、乾パンや干し肉が中心だ。
また、馬車等を持っている冒険者でも、鍋を使った込んだ料理などしない。その匂いにつられてモンスターが余ってくる可能性があるからだ。
しかし、トールのパーティーは、お構いなしに料理をしている。
「セシリア、お前のパーティーはすごいな、旅が快適だな、うらやましいぜ」
「すべてトール様のお陰なんです。インベ、いや、マジックバックに食材が入っていて、いつも新鮮なのですごく助かるんです、あと、強いモンスターをよく倒してこられるのでお肉がすっごく!おいしいですよ!いつも、食事が楽しみになりました!」
あれからセシリアといろいろと話したが、この子は本当にいい子だ。
何をするにも一生懸命だし、ルイの傷を一生懸命に見てくれた。
本当にセシリアにも頭が下がる思いだ。
「因みに、夜は二人で交代しながら見張りをしたりするんですか?」
「いいえ、トール様がずっと見張ってくださっています。最初は、私も見張ります、って言ったんですけど、必要ないっておっしゃってくれて。トール様は危険を察知する能力が秀でているだけではなく、普通の人間ではないくらい体力がある方なんです。あまり、眠っているところを見たことがありませんし」
「やっぱり、英雄のクラスの人物なんだろうな!流石、トールだ」
トールはやっぱりすごい。格好いいし、強い。
なんか、少し、心が苦しくなる思いだ。
これは何だ?
「そう言っているうちに出来上がりました。今日は、野菜一杯お肉一杯の汁物とパンです!早く食べましょう!」
「そしたら、私がトールさんを呼んできますね。少しお待ちください」
ルイがそう言うとトールがいる方へ歩いて行った。
トールだがあいつは何をしているのだろうか?
食事のことしか考えていなかったからちょっと見ていなかったが、何かを作っていたな。
ルイとトールが戻って生きた後、あたい達は食事をし始めた。
やはり大勢で食べると飯はうまい。しっかりと具がはいり味がついている。
この国では食い物が基本的にまずいし少ない。帝国では軍備の拡張に力をいれており、食料事情が悪いのだ。兵糧として使用されことが多い。どの家庭も調味料を入れる余裕はない。
あたい達は、楽しみながら、飯を食べた。
食事を終えるころ、トールがあたい達に話しかけた。
「そういえば、セシリアとルイとエレナに渡したいものがある」
トールはそう言って立ち上がった。
そして、バックから取り出して、鎧を取り出し、セシリアとルイとあたいの前へ置いて行った。
「今日、仕留めたオーガジェネラルの革で作った鎧だ。二人の防具はすでにぼろぼろで見ていられなかったから俺が作った。そして、セシリアはいいものへのクラスチェンジだ」
「トール様ありがとうございます!」
「お前武具も作れたのか!そして、オーガジェネラルの革だって!高級素材じゃないか!いいのかもらっても!?」
あたいは興奮した。素人が作ったと思えないクオリティ。
こんな武具はお目にかかることはまずない!
だいたい、造ったってのは本当なのか?
ますますこいつの底が見えない。
「いいんだ、もらってくれ」
あたいは、うれしかった。
ずっと使っていた剣と防具が亡くなったのは悲しかったが、ルイの命が助かった。ルイさえいれば、また一からやり直せる。
「トールさん、ありがとうございます。この輝き、トールさん、これは、自動修復の能力がついていませんか?噂で聞いたことがあるのですが、オーガジェネラルの素材を使った武具は、作成者の腕が良ければ自動修復の能力が付与されると聞いたことがあります。この感じ恐らく自動修復が付与されているのでは?」
ルイは頭がいい。ルイは武器や防具に詳しいだけではなく、いろいろなことを知っている。
「ああ、少しだが、自動修復の能力が付与されている」
あたいは驚愕した。
「マジか!そんなもの、本当にもらっていいのか?あたいは買い取れるだけの金は持っていねーぞ!」
「いいんだ、やるよ」
これは、どんでもない代物を手に入れてしまった。
「ありがとー!トール、大好きだ!」
本当にトールはすごい。
すごすぎる。
こんな男と一緒に入れたらどれだけ幸せだろう。
「トールさん、何から何までありがとうございます」
「トール様ありがとうございます」
徹が続いてそれぞれの前に武器を置いて行った。
「まだ、終わりじゃない、短い間だが、俺たちはこれから旅する仲間だ、武器も渡しておこう、セシリアはいいものへのクラスチェンジだ」
そう言い、3人の前に武器を置いて行った。
ルイとあたいの前に剣をセシリアに短剣を置いた。
「これも、オーガジェネラルから作った剣だ」
「お前、武器も作れたのか!!それも、オーガジェネラルが素材ということはこれも相当の代物じゃないか!」
「特質級の剣だ」
「特質級!!どんだけだよ!家が数軒買えるレベルじゃねぇか!」
「トールさん!このような高価なもをいくつも頂きありがとうございます!」
「これにも、自動修復がついている、自動修復がついている為か武具が不滅の鎧、剣が不滅の剣という、まぁ大切に使ってくれたらうれしいが、武具も剣も消耗品だからそんなに気にするな」
「「「ありがとう!」ございます!!」」
不滅の剣。恐らく、オーガの骨から作り出されている剣だろう。
刀身がすべて純白。
柄や棟は武骨に見えるが、一級品であることは容易に判別できる。
素晴らしき剣だ。
以前、剣に名を与え、剣が昇華し、進化したという伝説を聞いたことがある。
おとぎ話の話だが、そうなるかもしれないと思わせるだけの一振り。
少し名前でも考えてみようかな。
そう思った自分が馬鹿らしいが、しかし、うれしい。
トールが作った最高級の武具に名剣。
大切にしよう。
一生。
ふと、ルイとセシリアを見ると、武具や武器をみて笑みを浮かべている。
ルイ、お前の顔、少し怖いぞ。
そして、トールだが、作り手のトールも自分の作品が喜ばれて相当ご機嫌だ。
あたいは我慢できずここで着ることにした。
たぶんこれヤバいぜ~。
「トール様だめですよーー見ちゃ」
「わかっているよ、俺はあっちを向いておくからみんな着てくれ」
そう言うとトールはみんなとは反対側を向いた。
あたいたちは防具を着始めた。
少し前まで、こいつに追われていたんだよな。
考えたら少し、イラっとするが、キレに仕立てられ、磨かれた防具を見ると忘れてしまった。この武具も美しい。生きているときは青色だったが、今は茶色に近い色に近づいている。なぜそうなったかわからないが。
トールの腕は相当だな。
そう思わせるだけの技を持っている。
「ちょっと、胸がきついな、あれ?自動で調節されたのか?すげーな」
着てみたが自動的に調整されるようだ。すごいなこの防具。
「さっきの方が強調されて良かったと思ったのですが、残念です」
レイは何か意味の分からないことを言っている。
まぁ、無視しておこう。
「トール様、ちょうどいいです」
みんな大満足だ。
「じゃあ、飯も食べたし、みんな、武具を新調したし、最後に風呂に入ってから寝るか!」
トールが言い出した。
「お風呂ですか?徹さんそんなことが出来るのですか?」
「風呂っちゃ、貴族が入るもんだろ、水がもったいなくて、見ていられねぇぜ」
ルイとあたいは驚いている。
風呂なんて貴族が入るもの。
この水を確保することが大変な世の中で風呂に割ける水など普通の家庭にはない。
出来るのは貴族や一部の裕福な商人などぐらいだ。
「あぁ、魔法でできる、まぁ、見とけ」
すると徹は、土魔法と水魔法と火魔法を駆使し風呂を作り始めた。
それを見てあたいたちは驚愕している。
「お前、何種類の魔法が使えるんだ!」
トールは三種類の魔法を使用していた。
土に水に火、戦闘の時に見せた、雷と回復を含めると5種類の系統の魔法を使える。
なんと珍しい。
普通、冒険者の場合は1つか2つの系統を使うのが普通だ。
先天的に1つか2つしか使えないというのが多いが、たとえ複数使えたとしてもあまり複数の系統を使わない。
みんな、1つや2つを極めるのだ。
魔法の取得や訓練には時間がかかる。あまり、いろんな系統へ手を出してしまうと練度が上がらず、器用貧乏となり魔法職としては使えなくなってしまうことがある。
生半可な魔法はモンスターへは効かないのだ。
それほどまでに魔法とは難しく奥深い。
「トールさんと一緒にいたら驚いてばっかりです」
あたいがそう言っている間に完成した。
「これが、僕流、露天風呂だ、相当気持ちがいいから、気が向いたら来たらいいよ」
そう言うと徹は、風呂に向かい、服を脱ぎ、風呂につかり始めた。
あの鍛えられた体つき。
見ていられない。
男の裸なんて今までいっぱい見てきたのに何でこんなにドキドキするんだろう。
適度に鍛えられている体もきれいだ。
風呂につかっているトールを見ながら、あたいはルイへ話を始めた。
「ルイどうする?お前は行くか?あたいも一様、女だし、ちょっと、トールと入るのは少し恥ずかしい」
ちょっと一緒に入りたい気はするが、あたいも女だし。。。
すると、ルイが答える。
「エレナ、ここは行くべきよ、せっかくトールさんが、作ってくれたんですもの、ここは入らなければ礼儀に反するわ」
そう言うとレイは服を脱ぎ始めた。
それは礼儀にあたるのか?
レイは大胆である。
レイに促されるがまま、あたいも服を脱ぎ、風呂に向かおうとした。
するとセシリアが話しかけてきた。
「お二人とも待ってください」
セシリアが露天風呂に行こうとする二人を止め、急いで馬車へ向かい、バスタオルを取り、その後二人のもとに行き、バスタオルを渡した。
「これを使ってください。トール様はすごくエッチですから、気を付けてください!」
っとセシリアはふくれっ面であたいたちに話しかけた。
「おお!気が利くなセシリア!ありがとう!これで心置きなく入れるぜ!」
これで少しは安心できる。
「私は別にいらなかったのですが。。。」
「ルイさん、何かおっしゃいました?」
「いいや、なんでもありませんわ」
ルイがにっこりとセシリアに笑顔で答えた。
そして、3人が、バスタオルに身を隠しながら露天風呂に入っていった。
「星がきれいだな」
トールが独り言を言う。
「本当にきれいですね、こんなにゆっくりと夜の空を眺めたのは何年ぶりでしょう」
トールの独り言に反応してルイも話す。
「確かに、仕事の依頼をこなす毎日でこんなに夜空を見ることはなかったな、ありがとよ」
きれいな夜空。
こんなに、ゆっくりと落ち着いた気持ちで夜空を見上げたのはいつぶりだろう。
小さなころ弟たちと草原に寝ころび夜空を見たっけ。
あの時の夜空もきれいだったな。
ビビやデンポは元気にしているだろうか。
リントの奴、勉強する!って出ていったっきり帰ってこなかったがあいつは元気にしているだろうか!
まぁ、あいつのことだ。昔から頭がよかったから大丈夫だろうけど。
「満足してもらってよかったよ、造った甲斐があった」
「ほんときれいです、トール様のお風呂はいつも最高です!」
4人が湯船につかり夜空を見上げている。
「ありがとうございます」
「ありがとな!」
その後、セシリアとトールは風呂から上がった。
残ったのはあたいとルイだけだ。
「気持ちいいない、ルイ」
「・・・そうね」
「いろいろあったが、お前と一緒にいれてうれしいぜ」
「私こそ、あのとき、私を置いて行かなかったこと、本当に感謝している」
ルイは急に立ち上がり、あたいに頭を下げた。
「おおおい!急になんだよ!そんな」
「いいえ、本当にあなたのお陰だわ、ありがとう、エレナ」
「いいよ、別に」
ちょっと改めてこんな言われると恥ずかしい。
しかし、ルイが隣にいること、それだけで幸せだ。
「ルイ。お前とは戦友だ。恩などない。」
「そうね、あんたとはこれからも長くなりそうね」
レイは、再度、湯船につかり、空を見上げた。
美しき、夜空。良き戦友。ここに酒があれば最高なんだがな。
そのときレイがあたいに話しかけた。
「話は、変わるけど、トールさんはいいひとね。あの人、すごい人よ」
「そうだな、冒険者としても男としても凄みを感じるぜ」
「エレナとは戦友ではあるけど、トールさんを狙うという観点から言うとライバルね!」
あたいは思わず動揺してしまった。
「トールをねらう!?何言ってんだよルイ!」
「エレナも満更じゃないでしょう」
「(言われてみれば、そうかもしれない。あんなに強くて格好いい男、そういない。出来れば、初めては、あんな男に抱かれたい。いやいやいや、何を考えているんだあたいは)」
「ほら、赤くなってる!」
「いやいや!。。。そうかも」
「ほらね」
その後二人のガールズトークは続き、長風呂をした後、床に就いた
今日から長時間労働がんばります