第2話 『誘いと導き』 ③
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アルフォデルと別れたカラーとブローディアは薄暗い路地から、表通りに抜けた。
時計台に行くならば、こっちの方が早いというカラーの提案だ。
先を歩くカラー。その後に無言でついてくるブローディア。さぞかし不思議な組み合わせに見えることだろう。一定の距離をとったまま、無言で通りを歩く男女二人。しかも、後ろから付いてくるのは、目も覚めるような美女だ。
だが寝静まった夜、夜中。
幸か不幸かこの二人を見ているのは、野良犬と夢と現の境を彷徨っている酔っ払い達くらいなものだ。
「お前ってさ」
ふいに、前を歩くカラーが足を止める。時計台を背にし振り返った。
「・・・そんなに、クサギちゃん嫌いなの?」
図星を指したらしく、ブローディアの動きも止まった。その表情は影になっていて、読み取れないが花弁のような唇が動いた。
「・・・アルフォデル様に気にいられている女なんてみんな嫌いよ」
そう突き放すような口調で言い放つ。嫉妬深い女の言葉なのに、まるで子供のわがままのように聞こえてしまうのは何故だろう。
「・・・・わたくしのことは、全然見てくれないのに」
紅色の目が潤んでいることに気付いたが、青年は何も言わない。表情を変えることなく、ただ彼女が吐き出す言葉を静かに待っていた。
「でも、でもね。バカな女だって分かってるけど。・・・でもあの人が悲しい顔をなさるのはもっと嫌なの」
「そんなにアイツが好きか?」
「自分でもよくわからないわ。でもカラーに対してはこんな気持ちにならないんだから、恋なんでしょうね」
「・・・そこでオレを引き合いに出す意味が分からねぇ」
「あら、分かりやすいでしょう?」
勝ち誇ったように笑う美女に、カラーはお手上げといわんばかりに肩を竦めた。
「ほら、カラー行きますわよ」
ブローディアが歩き出す。
すれ違いざまにカラーの肩を軽く叩くとニコリと笑った。迷子の子供のような雰囲気を霧散し、代わりにいつもの不敵な彼女だ。
「・・・早くあのペッタン娘を見つけてあげなくちゃでしょ」
行方知れずの少女の為ではなく、その両親の為でもない。ただ、その娘を思い心を痛めているアルフォデルの為だけに。
「・・・・そーだな、早く見つけちまおうぜ」
柄じゃないなんてことは百も承知。だいたい年齢も一回りも違わない。しかし、彼女を見ていると娘を思う父親のような気持ちが分からなくもないような気がしてくるのだから、困ったものだ。
「こりゃ片が付いたら、アルフォデルのバカを一発でも殴っとかないと気が済まねぇな」
黄金色の髪を揺らしながら、先を歩くブローディアには聞こえないように、小さな声で呟いた。バリバリと頭を掻き、カラーもまた止めていた足を一歩踏み出した。
視線を上げれば、時計台はすぐそこだ。
「さぁて、お仕事しますかね」
冷たい風が家の間をさらう。
「・・・っ」
ツキン、と、左眼に刺すような痛みが走った。