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魔王と聖女の遺産  作者: かげのひと
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第2話 『誘いと導き』 ②

2-2


 ひんやりとした夜風が気持ちいい。

 時計台の横から覗く大きな月は、文句のつけようがない美しさだ。その美しい月の下、その月のような美貌の持ち主が、フランマーリと書かれた宿屋から姿をあらわす。

 寝静まったエウルの街を見渡して、息を吸う。

 肺に冷たい空気を送り込み、そして空気を吐きだした。

 アルフォデルに続いて、カラー、ブローディアも、木製の短い階段を下りる。

 夜の冷気を含んだ風がアルフォデルの頬を撫でる。肌寒さによってか、外気に晒されていた腕に鳥肌が立った。

「・・・・・・・こんな冷たい夜に、彼女は何処へ行ったのだ・・・」

 アルフォデルとブローディアは部屋から取ってきた色鮮やかな深紅の外套を前であわせ、留具でもって風を遮断した。カラーは寒さに強いらしく食堂にいたときのままの服装だ。眠たそうな隻眼をアルフォデルの背に向ける。

「あー・・・で、どーすんの?」

 確かに、このまま街中を歩き回るのは得策ではないだろう。しかし行方不明のクサギの手がかりを捜すなら、足で探すしか方法はない。・・・ならば、と、アルフォデルは少し思案したのち、口を開いた。

「まずは情報屋に、クサギちゃんの行方を追わせよう。なにか情報を掴んでいるかもしれんしな」

「そーだな。じゃあ、オレはギルドを当たってみるわ。・・・マジ誘拐事件だとしたら、ギルドもそれなりに動いてくれるだろうし」

 情報屋とギルド。この二つを当たれば大抵の情報はすぐに得られるだろう。システムには多少の差異はあるが、どちらも優秀な事には変わりない。ただ、団体で運営しているギルドは時間が掛かり、個人プレーの情報屋は金が掛かる。普段ならばギルドで事は足りるのだが、少しでも早くクサギの情報が手に入るならば選好みしている場合ではないとの見解だった。

「誘拐だとしたら、見つかる望みは薄い・・・ですわ」

 独り言のようにブローディアが呟く。昼間、ギルドで聞いた例の誘拐事件が関わっているのであれば最悪だ。まだ行方不明になった少女達は誰一人見つかっていないのだから。

「・・・そうだな。だが、例の誘拐事件じゃないかもしれない。なにせ、クサギちゃんのような可憐な少女ならば、どんな悪の手が伸びてくることか!」

「・・・・はいはい。そー思うんなら真剣に探せよ」

 アルフォデルの嫌に力の入った台詞に、カラーが退屈そうに一蹴し、

「じゃ、なんか掴んだらここに集合ってことで。何も掴めなくても、夜中までには一回はここに帰ってくること。そいじゃ、またあとでな」

 と言い放ち、さっさと歩き出す。目的地は、エウルの街一番のギルド――時計台下の酒場だ。

「ちょっと、カラー!」

 ブローディアに呼ばれても足は止めず、ヒラヒラと背中越しに手を振る。好きにしろと言われているようで、カラーの背とアルフォデルの顔を交互に見比べた。

「あ、アル様。私・・・」

「・・・・ブローディア、アイツと一緒にギルドに行ってはくれないだろうか?」

 飄々と狭い路地を進むカラーの後ろ姿を一瞥し、アルフォデルが自分の横に並ぶブローディアに静かに言う。その言葉に「一緒に行きたい」と言いかけたブローディアは口を閉ざすことになった。眉を顰め、非を唱えようとするが、冷たく細められた瞳が選択肢を切り捨てさせる。

「・・・・・すまないとは思っている。だが、アレを一人にしておくと余計な仕事ばかりが増える気がするのでな」

「・・・え、ええ。そうですわね」

「お前が一緒なら安心だ。頼めるか?」

「ズルいですわ。そう言われては、嫌だなんて言えないじゃないですの。・・・本当はアル様と一緒に行きたいんですのよ。でも、でも・・・アル様があの小娘の為に頑張っていらっしゃるのに、カラーを一人なんかにしたら何処で油を売るか分かりませんものね。・・・大丈夫です、アル様の為に全力でカラーと情報を集めてまいりますわ」

 俯いたまま、自分に言い聞かせるようにブローディアは捲くし立てた。

 そして、アルフォデルの顔を一度も見ることなく踵を返す。翻した長い黄金色の髪が鼻先を掠め、駆け去っていく。ヒールの音が段々と小さくなっていき、すぐにブローディアの姿も見えなくなった。

「本当にすまない。ブローディア」

 仲間の消えた路地を見つめ、アルフォデルは風に囁くように呟いた。そして、赤い外套をはためかせ、アルフォデルも情報屋のある街外れへと足を進めるのであった。


知らない人についていくのは危険です。

でも知ってる人も危険なこともあるので自分の身は自分で守りましょう。

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