第九話「そろそろ気持ち伝えましょう。」
投稿、遅れてしまい申し訳ない。
文が詰まっていた上に、マヨイガのらぶぽんが可愛いすぎて夢中で手が回らなかった。本当に申し訳ない。
優実が転校してから数日後。
時刻はもう夜の10時だ。
楓はベッドの上で寝そべっている。
「…怠い…。」
両手で顔を擦る。
「考えすぎて頭が痛い…。」
いつ自分の性別を明かし、いつ自分の正直な気持ちを本人に伝えるか。
学校でも散々考えた。結局考えがまとまらなかった。
「今度のお出かけの最後にでも…最初に性別を?気持ちを?」
すると、部屋の出入り口のドアが「コンッコンッコンッ」と小さく叩かれた。
「入って良いよ…。」
楓は唸り声を混じらせながらそう言った。
奏がツバキを連れてきた。
「ほーら、主様の所へお戻りなさーい。」
「くうぅん」
ツバキが楓のベッドに登って、隣りに座って寝る体勢に入った。
「…何してたの?」
「お風呂よお風呂。あぁ、あと…」
奏は右手にペットボトルに入った水を見せ、ポケットから頭痛薬を取り出して両方とも楓に渡した。
「お大事に。」
「…ありがとう…。」
「フフッ…おやすみ。」
「お休みなさい…」
奏は楓の部屋を出て自室に向かい、楓は渡された頭痛薬を口に入れて水で胃に流し込んだ。
そうこうしている内に約束の日の土曜日になった。
その日の朝の広間。二人とツバキは朝食を取っている。
「…ねぇ楓…。」
「…ん…?」
「いっそのこと股にぶら下がっている物切り取っても良いんじゃない?」
「しないよ。」
朝食を終えて、歯を磨き顔を洗って、自室に行って、タンスからジーパンと濃い赤の生地のTシャツとチェック柄のシャツを取り出し、着た。
すると、ツバキが駆け寄ってきて、座る。
「くぅぅ…」
そのツバキの声を聞き、楓はしゃがんでツバキの頭を右手で撫でる。
「心配してくれてるの?…心配しなくても大丈夫だよ。例え不仲になったとしても、修次郎さんとの短い間の日々は、きっと僕の心の中に良い思い出として残るよ…。」
楓はツバキの頭から手を離して立ち上がり、財布やスマホが入っている鞄を左肩に掛けて部屋を出た。
いつものショッピングセンター前。
腕時計を定期的にチラ見しながら数十分待っていると、スクーターの様な少しやかましい音が聞こえてきた。
ふと聞こえる方を見ると、ホンダのトゥデイに乗ってこちらに来ている修次郎の姿が見えた。
「(__ふぁっ!?)」
トゥデイは楓の前に停まり、修次郎は被っていたヘルメットを外す。
「こうやって会うのは久しぶりだね。元気してた?」
「えぇ…まぁ…。買ったんですか?これ…」
「あぁ。免許取得の記念に。」
「これに乗ってどこに行くんです?」
「君の行きたい所ならどこでも良いよ。」
そう言って修次郎は外したヘルメットを楓に渡し、首に掛けていたゴーグルを耳に掛ける。
「(う~ん...行きたい所か...もう冬近いし、海はさすがに...。)」
ヘルメットを着用しながらそう考えていると、修次郎への疑問が浮かんだ。
「あの、バイクの二人乗りって大丈夫なんですか?」
「これ二人乗りも出来るヤツだから大丈夫。それに50ccまでなら違法じゃないらしいよ。」
「へぇ...」
楓は安心した顔でトゥデイの後ろ側に乗り、修次郎に後ろから抱きつく。
「(うわぁ...緊張する...修次郎さんに抱きついてるよ僕…!)」
「で、どこに行こうか。」
「あっ…えっと…山とか…」
一度ガソリンスタンドに入って給油し、二度コンビニに入って飲み物を買ったりしながら走ること数時間後。
目的の峠の入り口に到着した。その入り口の左脇には『熊出没注意!』と書かれている錆びた看板が立てられてたり、閉店しているかの様にボロボロな外観のうどん屋が一軒建っている。セダン車が二台停まっている。ちゃんと店は開かれている様だ。
修次郎が操るトゥデイは峠を登り始める。
が、途中で登らずに後退し始めた。
「…楓ちゃん、ちょっと降りてこいつ押さえてくれる?」
「はっ…はい!」
楓はトゥデイを降りて、後ろ側をしっかりと両手で押さえる。
「よし、そのまま…」
修次郎はそう呟いて、楓に右足が当たらないように大きく跨ぎながらトゥデイを降りる。
修次郎はハンドルを掴んで、トゥデイを前に押す。
そうやって峠を登ること三十分、ようやく頂上に到着した。
二人はへとへとになりなっていた。空気が冷たいから汗はかかなかったが、腕はツりそうな程痛み、呼吸が荒くなる程疲れていた。
「原付って意外と重いんですね…」
「まぁね…」
原付を白枠の中に停め、二人は深呼吸をしてから、広い所が見える場所に向かう。そこは自分達が住んでいる街や、幅広い川や広大な海……
「…こうやって自分達が住んでいる街を見ると、結構綺麗に思えますね…。」
「あぁ…そうだね。夜だったらもしかしたらもっと綺麗だったりして…。」
「あり得ますね…」
二人はそのまま、目の前に広がっている光景を眺めた。
楓はコンビニのビニール袋からペットボトルに入っている暖かい(少し冷めてる…)緑茶とミルクティーを取り出し、緑茶を修次郎に手渡す。「ありがと。(ぬるい…)」
蓋を開け、両者共ぬるい飲み物で体を少し暖める。
「…これからどこに行きます?」
「そうだなぁ…。」
すると、修次郎は何か思いついた様な顔をした。
峠を降りてから数時間、二人は一軒の店の駐輪場にトゥデイを停めた。
店はペットショップだ。
「ツバキが喜びそうな物あるかな…。」
「行って見てみなきゃわかんないさ。」
店に入ると、ゲージに入っているフクロウが出迎えてくれた。店を見回すと、犬や猫、ハムスターに金魚、とにかくペットに最適な動物達がいる、遊び道具や水槽用の飾り物も売られている様だ。
一人の女性店員がこちらに歩いてきた。
「いらっしゃいませ!」
二人に柔らかな笑みを見せた。
「あの、ビーグル…いえ、そんなピンポイントじゃなくても良いんですけど、犬の遊び道具ってどこにありますか?」
「はい、こちらですよ!」
二人は女性店員に付いていく。
と、
「お二人は…ご夫婦ですか?」
楓はむせた。修次郎はビクッとなっただけ。
「ちっ…ちっ…違いますよ!私達はまだ…」
__…まだ? あ、忘れてた。
「あらあらごめんなさい。」
やがて、犬の遊び道具が売られているエリアに着き、女性店員は「ごゆっくり。」と言って去って行った。
「さーて、ツバキは何が好きそうかなぁ~。」
「あ、あの…修次郎さん。」
「ん?」
「か、帰りに河川敷に行きません?」
「あぁ、良いよ。」
修次郎はそう言ってピンクのふにゃふにゃなボールを手に取った。
先程のふにゃふにゃなボール、そして青いフリスビーと普通のドッグフードを買って店を出た。
「ツバキ、喜ぶといいな。」
「はい…。」
トゥデイにカゴが付いていて良かった。無かったら抱いたまま走らせなければならなかった。
時刻は4時近く。寒い時期になると空の変わり具合が早く、今の空は少し赤くなっている。
「そろそろ帰る?」
「えっ…。」
「河川敷には行くよ。」
__ホッ……。
さらに数十分が経ち、河川敷に着いた。
「私、ここからなら歩いて帰れるので、荷物降ろしてもらっていいですか?」
「ん?…あぁ、わかった。」
カゴに入っていた荷物を全て降ろした所で、
「あの、修次郎さん…。少しお話ししても大丈夫ですか?」
「…いいけど。」
河川敷の階段を登り、川を眺める。夕日で赤く染まっている。
「綺麗だね。」
「…そうですね。」
楓の胸が恥ずかしさで圧迫され、顔は火照っている。
そして、少し息を吸い、
「あのっ…修次郎さん…!!」
「…?」
「修次郎さんのことが…私、とっても好きです!!
これからも、私と付き合ってくれますか!!」
__いっ…言った…!!言っちゃった…!!
修次郎は固まっている。そしてゆっくりと口を開き、
「それでその…」
__恋人としてじゃなく、友達として…!!
「恋人__」
「ごめん。
俺は君とは付き合えない。」
場の空気が凍った。
「…え?」
「頑張って告白してくれたのに、断ってごめん…。」
修次郎はそう言って、トゥデイに向かう。
「詳しいことは、後でメール送るから…。
じゃあね。」
修次郎は固まっている楓を置いて、トゥデイを自宅まで走らせ始めた。
「…一体…。」
そのまま荷物を持って自宅に帰った。
家に入ると、ツバキが歩いて来た。いつもの様に駆けよって来ない。
ツバキは楓の前に座り、「何かあったの?」と言わんばかりの顔をした。
楓はしゃがんで、ツバキを持ち上げて抱く。頭や背中を撫でながら、不可解な気持ちを和らげる。だが落ち着かない。早くメールが送られて来て欲しくて仕方がなかったのだ。
更に数時間、風呂から上がってパジャマに着替えて自室に入って再びツバキを撫で始めた。
すると、
充電していたスマホが鳴る。
楓は直ぐ様スマホを取って、届いたメールを開く。
『再来週の土曜日に、いつものショッピングセンターの喫茶店に来てくれ。
どうしても会わせたい男が居る。』
多分また遅れるよ。次回が最終回みたいな物だからね。仕方ないね。
6/8:今月中に10話目投稿出来るようにします。