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-女装男子と偽りの想い-  作者: 内田昇
女装男子と偽りの想い
8/20

第八話「許してもらいましょう」

アイエエエエエッ!!!?

中学校の教室。

「なぁ楓!」

「何?」

「この間言ってたキャンプ、行くか?」

「…ううん、僕は行かないよ。お姉ちゃんと家の掃除するから…。」

「そっか…じゃぁ卒業旅行としてまた今度行こうぜ!」

「うん、行けたらね…。」

その様子を、葛木優実はヒッソリと見ていた。

「それで良い…。」


その日の放課後の夕方。

楓はチャイムが鳴る前に玄関から学校を出ようと廊下を歩いていた。窓から差し込んでいる夕日が廊下を照らしている。辺りに人は全くと言って良い程いない。

すると、

「ちゃんと言う通りに伝えてくれたんだね♪」

前の方の教室の陰から優実がヒョイッと顔出した。素性の知れない者が見たらただ明るく元気な笑顔だが、素性を知っていて今自分がどういう状況なのかが解っている楓にとっては、今の優実の笑顔が恐ろしい。

「…何の用?」

「土曜日と日曜日に、新潟の恋人岬に行こっ♪」

「その口調やめない?ていうかなんで恋人岬?」

「だって私たち恋人じゃん♪」

優実は楓の胸に飛びついて抱く。

「…言った通りブラジャーしてきたんだ?」

「着替えの時バレないようにするの大変だったんだよ…?」

「なおさら良し!!」

「…ひどいね…。」

「うふふ~ふ~♪ さ、学校出よっ!」

優実は楓の右腕を掴んで引っ張った。よろけた楓は仕方なく優実にペースを合わせて走り始めた。

「(なんでこんなことに…)」


一方、楓の自宅では、奏は楓の帰りを待っているツバキの背中を摩っていた。

「…遅いねぇ…」

「くぅん…」

「…優実に絡まれてるのかなぁ…」


「はい、あーん♪」

「いらない。」

「お腹空いてないの?」

「空いてない。」

「もう五時だよ?小腹ぐらいは空いてるでしょ?」

「だからいらないって…」

優実と楓はショッピングセンターの外にあるたい焼き屋でたい焼きと今川焼きを買ってベンチに座っていた。何人かの人達に冷たい目で見られて、とても心が痛い。優実はそれを気にせずに、心が痛んでいる楓の口に今川焼きを入れようとする。

「やめてくれない?」

「も~冷たい~!!」

「本当に冷たいのは此所にいるお客さん達だよ…」

楓は呆れ顔のまま立ち上がって、

「僕は今日帰るよ。」

「え~!!もうちょっと一緒に居よーよ!!」

小走りで歩き始める。

「一緒に私の家に来よっ!!泊まろうよ!!」

「(嫌だ、ツバキが待ってる。)」

楓は歩くペースを速め、優実も歩くペースを速める。

「帰っても五月蠅いわんちゃんとやかましいお姉ちゃんが居るだけだよ?あの眼鏡男は居ないんだよ?」

楓の額に青筋が立つ。そして立ち止まる。

「いい加減にしろ!!」

優実がビクッと震えた。

「僕の家族と修次郎さんを散々こけにして!!!それ以上言うなら、僕にだって考えがある…!!

憶えてろ…」

そう言って、楓は優実を置いて自宅に向かった。

「…何が“僕の”よ…あの男は貴方でも、誰の物でもないでしょ…?」

そう呟いて、優実は楓の家とは反対方向にある自宅に向かった。


楓が自宅に入ると、ツバキと奏が駆け寄ってきた。

「きゃんきゃん!!」

「ただいま!」

「…楓…。」

「…ん?」

「また優実ちゃんに絡まれてたの?」

「……。」

楓は小さく首を縦に振る。奏は溜息をついて、楓はツバキを抱き上げる。

「夕飯作るの手伝って。今日はオムライスよ。」

「…うん。」

楓は広間にツバキを放ち、自室に行って着替えをしに行く。


優実は自宅のマンションに入り、三階に登って本当の自宅に入る。

入ろうとすると、鍵がかかっていた。

「…またか…」

中から優実の父親と三人ほどの男達の声が聞こえてくる。

優実は鍵をゆっくりと開け、静かにドアを開けて、中に入って、静かにドアを閉める。

広間を覗くと、優実の父親とその同僚が五時半だというのにもう酒を飲み交わしていた。

「いよいよ今週ですな。」「寂しくなりますねぇ、葛木さんが居なくなると職場が揺るなって仕事が進みませんよ…」

「それをどうにか来るのが新しい責任者であるお前の役目だ。しっかりやれよ。」

低く重苦しい声のトーンでそう言いながら、優実の怖顔の父親はグラスに入っているバーボン・ウイスキーをちびちびと飲んだ。

「ところで優実、さっきから何してる?」

優実が壁の陰からゆっくり出てくる。

「いや、その…大事な話をしてる様だから静かにしてようかなって…」

「帰って来たらまず“ただいま”だろ?

最近は帰りが遅いじゃないか。放課後にどっかの頭の悪い男と連んでるんじゃないだろうな?」

「(こんな時間から酒を飲んでる人に言われたくないわ…)」

「とにかく、お前は部屋に行ってろ。父さん達は大事な話があるんだ」

「“転勤“の話でしょ?私が聞いても__」

「部屋に行け。」

「…わかりました…」

優実は潔く自室に入って、スクール鞄を父親に聞こえない程度でベッドに叩きつけた。

「(むかつくむかつくむかつくッ!!!)」



次の日の学校。休職後の休み時間。

優実を含む四人の女子生徒達が優実の周りを囲んでいた。

「え~っ!?優実ちゃん“転校”するの~っ!?」「こんな忙しい時期に!?」

「うん、来週の月曜日にはもう埼玉に着いてるよ…」

楓はその様子を自分の机の椅子に座って見ていた。向かいには英二と橋田が真剣衰弱をするために楓の机の上にトランプをばらまいていた。

「埼玉…ネオサイタマ…うっ!!頭が!!」

「ソウカイヤ居るかな?」

「ねーよ。」

楓はヘッズの二人を冷ややかな目で見る。

「(…引っ越すんだとしたら、もう僕の事は尾行しないのかな…?それはありがたいな…)」

と、一瞬だが優実がこっちを見た。

「(…また今日何か言ってくるな…)」

そう考えている楓のバックには、白い“ボイスレコーダー”…



放課後の教室。どこにも生徒は居ない。学校に残っている教師達は職員室に居るのだろう。

楓は自分の席の椅子に座っていた。そして、誰にも見つからないようにボイスレコーダーを胸ポケットに入れた。上から見ないと見えないように押し入れた。優実と楓の身長差なら見られることはまずないだろう。

五分後。立って外の景色を眺めていると、階段から誰かが駆け登ってきている。軽い音、聞き慣れた吐息と同時に発声する声…

十秒後に、音と声の主である優実が、楓の居る教室に入ってきた。

「大人しくしてた?」

「…うん。」

優実は楓に歩み寄ってくる。五十センチまで近づいて立ち止まった。

「昼休みの時の会話、聞こえてたでしょ?」

「うん。埼玉に引っ越すんだってね…」

「そうそう。最近はニンジャのイメージが強くなってるあの地に腰を落ち着かせようって…」

「小学校の頃は確か、お父さんの仕事の都合で千葉から此所に来たんだったよね?」

「うん、そこで楓君と出会った…。

あの頃の楓君は今よりももっとはしゃいでいて可愛かったなぁ…」

「…もしかして、今回もお父さんの仕事で?」

「うん…本当は何ヶ月も前から決まってた事なんだけど、中々言い出せなくて、ね…」

そう言って、楓の机の椅子に座って、足をばたつかせる。

「喜んで良いよ。もう完全に引っ越しが決まった以上、楓君の事はつけないから。」

「そっか、それは良かった__」

「ただし、」

優実は立ち上がって、楓の顔面に急接近する。

「__!!?」


「キスして♪」


「…は?」

「だって、ただカメラに納めた写真を渡して、今回の私達の騒動を無理矢理収めるなら、キスをするのが妥当だと思わない?」

「…僕は何も得をしないね、それ。」

「私は大きな得をするから良いの♪」

「…本当にやったら見逃してくれる?」

「うん、その上、カメラを返してお互いの土を封じて、さらにあの眼鏡男との接触を許す!!」

二人は少しの間心の準備をして、

「…嘘ついたら荒川に沈める。」

楓は小さな声でそう呟いた。

「ふふふっ…お互い様じゃないの。私は貴方を騙して、貴方はあの眼鏡男を騙して…きっと何かで結ばれてるんだよ、私達…!」

「だとしたら同族嫌悪だ・・」

そう言って二人は、互いの唇同士の距離をどんどん縮めていく。

「今度会った時、あの男とカップルになってたら、貴方とあの男を全力で殺しに行く…」

「それは心配しなくて良い。その頃には、僕は修次郎さんに本当の性別を明かす…」


二人の唇が触れ合い、

両者とも自分達のファーストキスをくれてやった。


十秒ぐらい経ってから、二人は離れ、優実は教室を出ようとする。

「それじゃ、楓君!土曜日の昼頃に、私の家の前に来てね!!」

「あぁ、」

楓は胸ポケットから白いボイスレコーダーを取り出して、優実に見せつけた。ボイスレコーダーはまだ録音をしている。

「君は、嘘をついちゃダメだよ?」

優実は楓のその言葉と行動を理解して、

「…ひどい人…でも、貴方だから嫌いじゃない…」

ニッコリと笑って、自分のバッグを持って、階段を降りていく。



言われた通り、楓は土曜日の11時前に優実の家であるマンションのドアの前に来た。

しばらく待っていると、優実の父親が出てきた。相変わらず顔全体が怖い。

「こっ…こんにちは!!」

「あぁ、楓君か。随分久しいね。」

優実と話していたときの様な態度と声ではなく、近所に居る明るいおっちゃんの様な態度だった。

「…優実に来てくれと頼まれたのか?」

「えぇ、まぁ…」

「…今までありがとう、優実と仲良くしてくれて…感謝するよ。」

「…はい、ありがとうございます…。」

楓は最近の優実の事は黙ったままにすると決めた。だから何も言わない。

すると、優実が両手にボストンバッグを持って出てきた。

「あっ!楓君!!本当に来てくれたんだ!!」

「うん、まぁね。」

優実の父親は、

「俺と母さんは先に車に居る。12時なるまでには来い。」

「そんなに長くは居ないよ。」

一人階段を降りて駐車場に向かった。

父親が駐車場に着いたとたん、ボストンバッグから二枚のメモリーカードをペンケースから取り出して、楓に手渡す。

「…これは…?」

「“証拠の写真”。約束通りあげるよ。」

「…ありがとう。じゃぁ僕も。盗んでおいて何日も返してなかったから…」

楓はポケットから、優実から奪ったデジタルカメラを取り出して、優実に手渡す。

「…ありがと…」

優実は手渡されたカメラからメモリーカードを抜き出して、楓に手渡した。

「…ちゃんと約束守ってよ。」

「大丈夫、今年中には修次郎さんにうち明けるよ。そうすれば…」

言葉が詰まった。

__そうすれば、どうなる?

__修次郎さんに見捨てられて、一生会えなくなる?

__たとえ会えても罵倒されるだけだとしたら…?

「…楓君?」

「えっ…!?」

「顔色悪いよ?どうしたの?」

「…いや、なんでもない…。

さ、お父さんとお母さんの所に行こう…。」

「…うん。」


二人は階段を降りて、優実は父親が運転する黒い『メルセデスベンツ・G500』に乗った。

「…じゃぁね、楓君。」

「うん…さようなら…」

そう言うと、優実の父親はベンツを発車させた。

数十秒後。ベンツは高速道路に向かっていき、いつしか見えなくなった。

「…これで、一件は落着か…。」

すると、楓のスマホが鳴ったメールが届いた音だ。

取り出して画面を見てみると、

修次郎だ。

「わぁ…!!」と、喜びの声を漏らして、届いたメールを開こうとする、

が、指が止まった。

「(…いつ打ち明ければ良いんだろう…。

…まぁ、後で考えればいいか…。)」

指を動かして、メールを開く。


『免許取れたよ。

今度どこか遠出しないか?

来週の土曜日辺りに。』


文が思いつかない。詰んだ。なので次話はだいぶ遅くなります。下手したら別のシリーズ始めるかもしれません。ご理解とご協力をお願いします。

※5月8日。第九話は15日投稿。

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