第七話「”あの子”に見られてました?」
※今回の楓のメインの服装は、一番気に入っている服だから、また『ゴミ箱行き』が有ります。話変わるけど『ニキータ』は迷作。
※今回の優実って、『ヤンデレ』?それとも『サイコパス』?
。11月に入り冬至が近づいていた。外は少し肌寒い。
楓は車庫の後ろにある小屋からガスガスストーブを自室に運んでいた。
ツバキが運んでいる様子を心配そうに見つめている。
「くぅぅん…」
「だ、大丈夫だよ…!」
楓とツバキは階段を登り始めた。
一方、奏は広間にカーペットを敷いていた。室内の隅っこにはこたつが置いてある。ソファも端に置かれてある。
「よし!あとはこたつを真ん中に置いてソファを小屋に…」
奏の部屋から「ガシャンッ!!」と同時に「ベキッ!!」という物音が聞こえてきた。その後、なぜかツバキが吠えている。
「え!!?何今の!!?」
奏の部屋に駆け込むと、部屋の木の床が折れ、ヒーターが倒れていた。楓はツバキを抱きながら冷めた目をしている。
「…この家もそろそろ寿命ってことかな?」
「それはないわ。」
楓はツバキと初めて会った日と同じ服装で、壊れた床を直すために、楓はホームセンターに行っていた。資材館という店の東側に行ってベニヤ板を探している。
そんな中、楓は、
「(…なんか変な視線を感じる…)」
辺りを見回しても、誰も見ている様子はない。
ちょうど良いサイズの板を見つけて、ついでで色々な所を回ろうと思った。
西側にある棚などがあるコーナーに行くと、見たことのある後ろ姿が見える。楓はてくてくとその姿の主に歩いてく。前にある一メートルのタンスを見たり眺めたりしている様だ。
「修次郎さん?」
姿の主が振り返る。
「あれ?楓ちゃん…意外だね…」
「これを見てるんですか?」
「いや、ちょっとこれ欲しいなって…。
今度“自動二輪の免許”取りに行くから、書類とかをしまう物が欲しいんだ。」
「自動二輪?」
「“バイク”だよ“バイク”。俺来月誕生日だから教習行けるようになったんだよ。」
「…来月誕生日?」
「あぁ。24日。」
「(クリスマスイブじゃん!!)」
「ツバキの様子はどうだ?噛まれたりしてないか?」
「特にはなにも…(なんか気まずい…)」
「こんな事はあんまり言いたくないんだけどさ…メールでのやりとりとか会うのとか…しばらくは止めない?」
「(…そりゃそうだよね…)
え…はい…。免許取れるようにがんばってください…」
「…こんな口調でも許してくれる君は偉い。」
そう言って、見ていたタンスの製品を持ち上げ、近くにあったカートに置いてレジに行った。
楓は資材館に戻ろうと振り返った。
すると、洗剤が置いてある棚から人の影が一瞬だけ見えた。
その影は、なんだか楓を見ていたかのようにも思える。
「…?」
洗剤の棚の後ろを見てみる。誰も居ない。
翌朝。中学校の登校日。
教室での男達の話題は休みの日の出来事とか観たアニメとかが主流で、女の子は休みの日の出来事とか受験の話とか。
楓が自分の席に座ると同時に、後ろの方の教室のドアから英二と橋田が入ってきた。
「う~す、おはよ~」
「おはよ。」
「なぁ楓!」
「何?」
「今週の土日さ、俺たちと一緒にキャンプ行こうぜ!」
「この時季に…?」
「だからこそ良いんだよ!!虫も居ないし川の水も冷たい、炎と光のありがたさを実感をうんたらかんたら」
すると、前の方の教室のドアから優実が入って来た。仲の良い女子生徒達と挨拶を交わしながら自分の席に着こうとする。
優実は何回か楓を見ていた。それには楓は気づいていた。その時の感覚は…
「(あれ…今の視線、店でも感じた様な…)」
一瞬、楓の事を睨んで、顔を緩めて席に着く。
「__!?」
「どうした?」
「へ?…いや、なんでもない…
(気のせい…だよね…?)」
「で、キャンプ行くか?」
一瞬優実が振り向いた。
「(こっ…怖いッ!!!)あ…うん、気が向いたら電話するよ…」
「(帰りたい…こんなに帰りたくなったの初めてだよ…。)」
毎時間毎時間ちらちらちらちら、優実は楓の様子を見ていた。楓の体力が見られる度に減り、見られる度に減る量が増えていく。
給食の時間と六時間目の間、優実が楓に歩み寄ってきた。楓は国語の教科書と古典の辞書を机の中に入れている。
「楓君、今日はなんか具合悪そうだね…」
「(君がちらちらと…)別に、いつも通りだよ」
「そんなに暗いかな?いつもの楓君はさ、もっと英二君とかに積極的に話しかけることが多かったのに、今日は一度も自分から話しに行ってないよね。」
楓はその文を聞いたとたん顔を上げる。
「え…?
(な…何でそんなの知ってるの!!?)
べ…別にただ話すことが無いだけ」
「さっきキャンプに行くとか行ってたよね?」
「ま、まだ決めてないだけ__」
優実の顔が右耳の近くまで来る。
と__
「そりゃぁまぁ、“女の子の服”を着て“眼鏡男”と楽しく会話したり、その人と仲良く飼ってる子犬と遊んでる方が良いわよね…」
いつも会って話す時の声とは違い、小声で低く尖ったトーンでそう言った。
「…え…何でその事…」
右肩を右手で掴み、公園の近くで見たあの闘っているときの顔をして、
「今言ったことバラされたくなかったら、今日の放課後、女装して私の家に来て…場所は知ってるでしょ?」
「う…うん…」
楓の声が震えている。
優実は言いたいことを全て言ってスッキリした人の様な顔をして、教室を出て行った。
「(な…何で!?いつからバレてた!!?)」
放課後。一旦家に帰り、駆け寄ってきたツバキを撫で回す。
自室に行って制服を脱ぎ、タンスを開けて『SNAZZY GIRL BE CUDDLY』などがピンクの文字でプリントされている黒く薄い長袖Tシャツと女物のジーンズを履いて、髪を整えた。
「…多分、服屋の帰りにバレてたのかも…」
すると、隣でお座りしていたツバキが歩み寄ってくる。
「くぅぅん…」
心配そうな声を出している。ツバキは飼い主である楓の心を読んでいる様だ。
「…心配しなくて良いよ…行っても死ぬわけじゃないんだから…」
しゃがんでまたツバキを撫で回す。楓とツバキの表情は少し明るくなったが、楓がまた曇った顔をして、ツバキがまた心配そうな顔をする。無限ループというものは本当に怖い、楓はそう感じた。
携帯と財布を尻ポケットに入れ、自室を出る。
優実の家は楓の家からはそう離れていない、マンションの一室だ。三階にある。建物の横には、強盗の事件を彷彿とさせるゴミ捨て場がある。思い出しただけで体が震え上がる。
建物の横には、そのゴミ捨て場に繋がる日本では珍しい“ダストシュート”が全ての階に設備されている。映画観賞が趣味の楓は、リュック・ベッ○ンの『ニ○ータ』を思い出した。震えるだけで無く、嫌な予感がし始めた。
三階に行き、『葛木』のプレートが貼ってあるドアの前に立ち、インターホンを押した。
『どちら様ですか?』
普段の声の優実の声が聞こえてきた。
「か…楓…」
『…入って。』
急に声が低くなった。
楓はドアを押して、中に入った。ドアを閉じる。
進んでいくと、優実が半笑いして立っていた。
「…なんでそんなに笑ってるの?」
「ん~?だって、これからすることが楽しみなんだもん…」
楓は一歩後退した。そのとたん、
「逃げるの?逃げるとバラすよ?
私写真も持ってるの。」
「__!!?なんで…!!?」
「いいから、私の部屋に入って。」
「……。」
楓は仕方なく、右の手前にある優実の部屋に入った。
そこには、ガムテープ、睡眠薬の瓶とハンカチがテーブルに置かれてある。ベッドにかなり近い位置にある。
「(何をする気なんだ!!?)」
すると、優実が入るのと同時にドアを閉め、
鍵をかけた。
「!?」
優実は黙って、楓をベッドに突き飛ばす。
「き…ッ!急に何を__」
優実は楓に当たらない様にベッドに飛び乗り、楓の両手を掴んで頭の後ろに置いた。ガムテープを取って、両手に引っ張って出して手で千切った部分を、両手にぐるぐると巻き付けた。そして両足を両足と尻で押さえられ、楓はほぼ動けなくなった。
「何をする気…?」
「楓君さ、今私の事どう思ってるの?」
乱れた髪を直しながらそう訊いてきた。
「ど…どうって__」
「怖いとかうざいとか気持ち悪いとかさ…もしかしてそういう感情無いの?」
「あっ…あるよ!!人間だもの__」
「そのわりにはさ、躊躇無く女装して、あの眼鏡男と軽々声をかけるよね…」
「…男だってバレるのが怖いよ…」
「じゃぁスリルを味わいたいの?」
「味わいたいワケじゃないし、今の君とこの状況の方がもっと怖い…」
「ありがとう…」
優実は楓の胸板を触る。
「僕は男だよ!?触ったって得は__」
「男のわりには私より膨れてて柔らかいね…あの眼鏡男に揉まれて成長したの?」
さすがにイラッときた。
「いい加減修次郎さんを眼鏡男って言うのやめろ!!」
「あーあ、聞こえない聞こえない…」
プリントされている部分を左手の人差し指でなぞりながら、右手の親指を楓の口に無理矢理入れようとする。楓は顔を振って抵抗するが、服から離れた左手が顔を押さえ、右手の親指が楓の口に入る。
下を押すと「はふうっ!」と息を漏らしながらくすぐったそうな顔をし始める。
親指を口の中で暴らせようとすると、親指に付いた液体が歯に付いて、滑りが良くなって思っていた以上に暴れやすくなった。楓はどんどんくすぐったそうな反応が高まっていき、呼吸が荒くなった。
Tシャツの袖の所から濡れた親指がある右手でゆっくりと入れた。
手の平から、楓の体が火照っているのを感じる。
手を抜き、瓶とハンカチを取り、瓶の中の液体をハンカチに付けた。
「な…何を…?」
「フフフッ…」
瓶をテーブルに置き、尻ポケットからデジタルカメラを取り出した。
「本当に何する気!!?」
「もっと“口封じ“を作らなきゃいけないの。協力して♪」
「口封じって僕のでしょ!?」
「と・う・ぜ…んっ!!」
ハンカチを楓の鼻に押しつける。
「ッ!!?」
睡眠薬が鼻を通っていく。
「さぁ、眠って!眠って楓君の恥ずかしい写真を撮らせてよ!!」
楓はどんな言葉でも良いから叫ぼうとした。
「無駄だよ。この建物、前に再建築されて防音加工が良くなったの!どんなに大声を出しても、シュト○ハイムの叫び声ぐらいじゃ無きゃ隣りに聞こえないよ!!!」
「(こ…こうなったら…!!)」
上半身を無理矢理起こす。優実はベッドから転がり落ち、楓はベッドから降りてドアの所に行く。
縛られている両手で鍵を外そうとすると、優実が後ろから強く抱きついてくる。
「逃がさない!!逃がさない!!!あのダメ鏡男と別れない限り逃がさない!!!」
「そんなに僕を修次郎さんから離そうとするの!!?」
「…だって…
私、小学校の頃から、楓君のこと…
好きだったのに…あんな姿見たら、あんな…」
「ゆ…優実ちゃん__」
「憎い…」
「!?」
「あの男が憎い、楓君の浮ついた心が憎くて憎くてしょうがない!!!!!」
楓を力一杯引き、楓は優実の足につまずいて倒れる。
優実は楓の尻をさすり始める。
「楓君の携帯どこ?」
「あげないよ!!!」
縛られている両手で優実の脳天を殴る。
「__!!?」
「カメラ、貰うよ!!」
頭を抱えて悶絶している優実を差し置いて、左手にあるカメラを取って部屋を出た。
「に…が、さ…ないっ!!」
楓が両手で家のドアの鍵を開けようとしていると、
後ろからカッターの刃を出している音が聞こえてきた。
「!!?」
「逃がさ…ない!!」
鍵が開いた。ドアを開けたとたん、優実がカッターを構えて走ってきた。
家を出て右側に出口、左側にダストシュートの口がある。
が、楓は間違って左側に行った。かなりの距離を歩いた所で、
「あ!!出口あそこ!!?」
戻ろうとすると、優実が通路を塞いでいた。
「出口はゴミ箱だけってこと?」
「勇気があるなら入るところ見せて♪」
「…仕方ない!!」
楓は戻って、ダストシュート目がけて走った。後ろから優実が追ってくる。
楓は両手からダストシュートに飛び入った。落ちていく。
真下は、強盗の時と同じような光景があり、同じように入った。
優実はその光景を見下ろしている。
「…そうやって勇気を振り絞って立ち向かっていく姿…好きだよ…!」
そう呟いて、後ろに振り向いて自宅に戻った。
楓の両腕には、ゴミが詰まっている黒いビニール袋が挟まっていた。足で抜こうとするが、強盗の時よりもゴミの量が多く、足が動かしづらい。
「僕は、ニ○ータやエミ○アンじゃないんだぞ…」
五分ぐらいゴミ箱の中にいると、足音が聞こえてきた。
「そうだね。楓君はフランス映画の登場人物じゃないもんね♪」
「ゆ、優実ちゃ__」
優実がカメラを覗いてゴミ箱を覗き、シャッターを押す。フラッシュが楓の目に刺さる。
「わっ!!」
楓は目を瞑る。
その間に、優実は色んな角度から、ゴミだらけな楓を撮影する。
「カメラ返して♪」
「じ…じゃぁガムテープ切って…」
優実は首を横に振る。
心が痛くなってきたのか、楓の目から暖かい水が溢れそうになる。
「ん~、そんな目をされたらねぇ…」
「ねぇ…お願いだからだして…」
「う~ん…」
すると
「あれ?優実ちゃん?」
二人が聞いたことのある声が聞こえてきた。
「かっ…奏さん!?」
「おっ…お姉…ちゃん?」
「楓!?」
奏の右手には、ツバキの首輪の紐。
ツバキは優実に向かって吠える。
「キャンッ!!キャンッ!!」
「あらあら、相変わらず情けない声。
それじゃ、明日学校で会おっ!あ、バラすこと忘れないでね♪」
そう言って、優実はどこかへ走り去っていった。
奏は首輪の紐を手から離し、楓をゴミ箱から引きずり出した。奏が手でガムテープを千切り取る。
「ありがとう…。」
「怪我は無い!?」
「うん…」
出された楓は、体中に付いたゴミを手でちまちまと取る。
「くぅぅぅん…」
「心配しなくて良いよ。前にも同じ事に遭ったから…」
楓と奏、ツバキは自宅に帰り、楓は服を着たまま風呂場に行き、バケツを出して、40度のお湯を入れて、ゴミの付いた服を脱いでバケツに入れた。洗剤を入れ、手で洗う。
一時間後。髪と体を洗って、洗った服をもっと綺麗にするために洗濯機に入れ、柔軟剤も入れて、蓋を閉じ、電源を入れた。
体を拭いた後、新しい服を持ってくるのを忘れていることに気づいた。
仕方ないから全裸のまま自室に行った。水色のショーツと、前に服屋に行ったときに買ったピンクの長袖Tシャツ、黒いスカートを着た。
広間に行くと、奏が仏頂面でこたつに入っていた。
「あ~あ。」
「どうしたの?」
「楓、あの服気に入ってた?」
「…黒いTシャツのこと?」
「当然!!」
「まぁ…二番目に気に入ってはいた…」
「だよねーー!!私もサイズが合ってた頃ちょー気に入っていてよく気に入ってたの!!」
「は、はぁ…」
ツバキが駆け寄ってきた。
抱き上げると、頬を舐めてきた。
「フフッ…くすぐったいよ…」
「くぅぅん」
その日の午後8時半。
奏が風呂に入っている時、楓がパジャマ姿でツバキと戯れている頃、
インターホンが鳴った。
「はーい!(誰だろう?こんな時間に…)
玄関のドアを開けると、
優実が携帯と財布を持って、ニッコリと笑いながら立っていた。
「楓君!忘れ物だよ!」