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-女装男子と偽りの想い-  作者: 内田昇
女装男子と愉快な日常
20/20

最終話「レッツ!ドッグラン!」

いつか投稿できたら良いなと思う作品のキャラクター達が登場します。

1



 ある日の土曜日。楓の姉、奏は仕事帰りにとあるスーパーに寄っていた。会計を終え店を出ようと通路を歩いていた。

 すると、壁に掛けられている掲示板に、『第○○回 △×市主催 ドッグラン』という張り紙が貼ってあった。しかも、優勝者には景品が送られるそうだ。

「ドッグランか…よし!」



 帰宅後。ツバキとリビングで過ごしている楓に奏はドッグランの話をした。

「いつやるの?」

「五月の三十日よ」

「ん~…わかった。参加してみる」

「うんうん。ツバキとの絆、試してみなさいよー!」

「うん…」

 楓はツバキの頭を撫でながら頷いた。




 それから二ヶ月。この二ヶ月色々あった。高校に入学したり、バイトを始めたり、弱みを握られてもう一つバイトをすることになったり、したこともないサバゲーをやらされたり…。

 そのサバゲーを持ちかけられた女から、ドッグランに参加するよう言われた。

「あの、僕もうそれ参加済みですけど…」

「そうなの?」

「ていうか、今から参加させるつもりだったんですか?」

「うん。主催者のむすm__」

「やめてください何をしようとしてたのか察しました。

でも、何でアリナさん、急にそんなこと言い出すんですか?」

「フッフッフ…よくぞ聞いてくれた…

この大会の景品、”地元名産超高級ブランド米の米俵二個分“なのよ!!」

「いやそんなのアリナさんならポンと買えるじゃないです__」

「ばかものーーー!!!」とアリナは楓に思いっきりビンタした。

「かーーっ!?」

「いい?いくら金持ちとはいえ、人間として節約は心がけなきゃいけないの!!それに名産品よ?ブランド米よ?これ以上ない万単位の節約のチャンスよ!」

「は、はぁ…」

「ミカエラさんが節約を無視してるから正反対に生きたいだけなんですよ、お嬢様は…」と後ろから貴宏が小声で楓に伝えた。

「というわけで、勝ってきなさい楓!!!アナタは今、妙堂院邸の経済安定剤なんだから!!!」

「いや意味わかんないです」



2



 そして、ドッグラン当日。会場は多くの参加者で溢れていた。ざっと百人は居る。ただ、本来参加者はその内の五十人程、残りは参加者の友人だ。ワケあって居る。小さい犬や大きい犬まで多種類の犬も勢ぞろいしている。

 修次郎や奏が応援に来てくれていた。九葉もハナコを連れ、良平も自分の家のゴールデンレトリバー一家を連れてやって来ている。アリナは居ない。代わりに貴宏がクルミを連れて来ている。一応言っておくが、最後の競技は参加者の友人と三人一組で行なうらしく、申し込みの時期に修次郎と涼花に参加してもらうようお願いしていた。

「いっぱい居るなぁ…この市の人全員来てんじゃないか?」

「いやそれは過疎すぎ」

「それでも、結構多いですね」

「一箇所に集中して集まってるからそう思え__」

 すると、一匹の子犬が楓の足に突進してきた。全然軽くて痛くもない。下を見るとそこには、ツバキよりも一回り小さいビーグルの子犬が居た。けっこう跳ねたり軽く突いたりとヤンチャな子だ。首輪は付いている。

「きゃんきゃん!!きゃん!!」

「なんだこの子?」

「首輪は付いてるから、どこかに飼い主さんが…」

 と思っていると、人ゴミの中からある人物が現れた。

「”マリ~”、どこだ~」

 その声を聞いたビーグルの子犬が声の主に駆け寄って行った。声の主は修次郎と同い年のような濃紺の髪の男だった。爽やかそうな笑顔でビーグルの子犬を抱き上げる。

「全く、もう離れるんじゃないぞ~?」

「あん!」

「すいません、何か粗相をしでかしてませんでしたか?」と声の主は楓達に声をかけた。

「いえ、特には何も…

大会の参加者ですよね?」

「はい。この子とは出ませんけど…アナタもビーグルを飼ってるんですか?」と彼は楓の隣に居座るツバキを見て言った。

「はい、初参戦です」

「そうなんですか…ビーグルって可愛いですよね~。ちっちゃいけど活発で長生きですし、よく動き回るし、でもちょっとおっちょこちょいなところもあって、でもそれが一層可愛くて~」

「そうですね__」


「まぁ、人になるとめっっっっちゃむかつく性格ですけどね。犬だから許されるんですよ、こういう性格は…」

 そういう彼の笑顔はドス黒く、何かを感じ取れと言わんばかりだった。そのせいか、初対面でお互いのことを全く知らない楓達に、異様な説得力を感じ取らせた。

「は、はぁ…(何だろう…経験者から感じ取られる説得力っていうのが漂ってる…)」

「それじゃぁ、お互い大会頑張りましょう」

「は…はい…」

 彼は名乗らずにその場を去って行った。向かった先には、妹さんらしき女の子とその子を囲むドーベルマンの子犬と柴犬やゴールデンレトリバーが待っていた。

「いっぱい飼ってるなぁ…」

「お金持ちかな?」

 すると、参加者に集合のアナウンスが鳴った。



3



 さっそく、最初の競技にいく。

 最初の競技は、『ボール取り』である。ルールは、三十秒以内に飼い主が投げたボールをいち早く持ってきた犬が勝ち。十人ずつで行う。

 すると、司会の会話であることが分かった。先程マリというビーグルの子犬を連れて行った濃紺の髪の男の名は”時田幹生”。十九歳の高校三年生にして三匹の犬を飼っており、なんと…。

「前回の大会の優勝者?!」

「そうらしいわね…これは強敵よ…」

「頑張って、楓君…!」

 幹生は柴犬を連れて参加しているようだ。彼が前の優勝者だと知った楓は緊張が増した。

「よくよく考えてみたら、飼い主が投げるボールを取ってくるんだから、近くに落とせばすぐに取ってこれるんじゃない?」と素で分からないような顔の良平が聞いた。そして修次郎はそっとパンフレットを差し出した。良平はそれを受け取り中を開いた。

「五十メートル先にある壁に当たればペナルティ無し。たとえ投げるのが下手でも()()()下り坂だからよく転がっていく」

「ペナルティ?」

「十メートル毎に五秒減らされるんだよ」

「五秒か…三十秒に対してだから意外と多いわね…」

「もし投げるじゃなくて落としただったら三十秒オーバーかな?」

「かもな」

 楓は赤いチェック柄のシャツの袖を捲くり、テニスボールを握り締め、ホイッスルが鳴るのを待った。

「さ、ツバキ。準備は良い?」

「あん!」

 その頃、幹生も柴犬に声をかけていた。

「“キリエ”、去年よりも早くな」

「くぅん」

 そして、「スタート!!!」という声と共にホイッスルが鳴った。参加者達がテニスボールを投げた。楓も思いっきり投げる。だが、飛行距離が良くない。四十メートル程で落ちた。だが、楓は自信があった。

「行って!!」

 ツバキが猛スピードでボールに向かって駆け出した。小柄ながら強固な身体能力をしているビーグルにとってこれは好都合な競技だ。ツバキの速さでペナルティを返上する作戦だ。


だが、

「ゴー!!」

 幹生の投げたボールは五十メートル先の壁にぶつかって落ち、キリエがツバキ以上のスピードで突っ走って行った。修次郎達の目が追いつかない。

「速ぇ!?」

「!!?」

 まだツバキがボールに辿り着いていないというにも関わらず、キリエはあっという間にボールに辿り着き一瞬で咥えて幹生の下に戻っていく。キリエが彼に着いた頃、ツバキは折り返しの中間地点に居た。その後、十人中二番目に早く飼い主の下に着くことが出来た。ペナルティは返上できただろうが、キリエの早さには皆驚きが隠せなかった。



 二つ目の種目は、『人間ディスク』という競技だ。ルールは、飼い主がディスク代わりになり、五十メートル先にあるパイロンをタッチし犬が来るのを待ち、共に折り返してゴールする。犬が先にパイロンに着いても可。これも十人で行なうが、今度は幹生とはやらない。

「飼い主がディスクか…疲れるだろうな…」

「ねー…」

 楓は捲くった袖をしっかりと固定し、走る準備をした。

 そしてホイッスルが鳴り、飼い主と飼い犬達が一斉にパイロンに向かって走り出した。楓はツバキに追い越された。ツバキはすぐ近くに居るようペースを保っているが楓は追いつけない。パイロンに着いた頃、何人かに越されていた。全速力を出し切り、ゴールに辿り着いた。全速を出し切り、楓は息切れが激しくなっている。

 ヘトヘトになりながら修次郎達の下に行き、腰を落ち着かせた。

「お疲れ」

「うん…」

「次は例のアイツだ」

 次の出場メンバーには幹生が居る。余裕な感じが漂う表情だ。腕と足のストレッチをしホイッスルが鳴るのを待ち、鳴ったとたん誰よりも早く突出して走り出した。そして何故だか、ボール取りの時よりも早く見える。

「おいおい、なんかさっきの競技の時よりも早くねぇか?!」

 即座にパイロンをタッチし、砂嵐を軽く巻き上げながらターンしゴールラインに向かっていく。折り返した頃他の九人はまだ三分の二しか走り終わっていない。そして幹生はまた一位でゴールした。なんと、()()前回のタイムを塗り替えたらしい。



 一度アリナに電話して大会の状況を伝えた。

《はぁ!?まだ二種目でしょ!?そんなに早くから弱音吐いてんじゃないわよ!!》

「うっ…それもそうですけど…このままだと…」

《~~~とにかく全力を出し切りなさい!!!》と怒鳴ってアリナは一方的に通話を切った。

「……。」




 昼の休憩を終え、競技に戻る。

 三種目めは普通に『二十メートル走』だ。二十メートル先に居る飼い主の下まで走ってきて、座れの合図で座ったとたんストップウォッチが止まる。今回も幹生とは違うメンバーでの参戦だ。二十メートルなら余裕だ。そう感じた楓の予想通り、始まってすぐにツバキは二十メートルを完走し楓の「座れ!」の合図で座った。十人中最も早い記録で終えた。だが、もう一つの予想通り、幹生とキリエのタイムはそれを遥かに上回った。

 四種目めは『椅子取りゲーム』だ。飼い犬が座っている間に飼い主達が椅子を奪い合う。だがこれは…。

「うわっ!!」自分よりも体格の大きい人々の力に押されて楓は椅子を取れなかった。

 これは幹生も苦戦していたが、何とか勝ったようだ。



「じゃ、そろそろか」「えぇ」修次郎と涼花は軽くストレッチをして楓とツバキの下に向かった。

 最後の競技。五種目めは『ハードルレースリレー』だ。飼い主含む三人の内一人がハードルを飛び越え、しばらくしてもう一人に飼い犬の首輪の紐を渡して、渡された人は走り、それをもう一度繰り返してゴールを目指す。その間飼い犬は各三人と並走する。飼い犬と最後の人がゴールに着いたら終わりだ。

 そして残念ながら、幹生と同じ組になってしまった。幹生は大人しく気弱そうな金髪の女の子と、銀と黒が混じったような髪をしているちょっと怖い顔をしてるがハンサムな男を連れていた。

「何だあの男の髪…」

「染めてるわけじゃなさそうよね…?」

「とにかく、これで最後…!優勝はできないかもしれませんけど、全力を出しきりましょう!」

「「あぁ」」

「じゃ、俺が最初」「私が次。楓君は疲れがあるだろうから少しでも体力を温存させた方が良いと思うから最後で」「はい!」

 ギブスを着てそれぞれの位置に着き、修次郎はツバキの首輪の紐を持ってスタートラインに着いた。

 楓の横には、幹生が居た。彼はまた余裕そう、と思われたが、自分の仲間の男を見て不安そうな顔をしていた。その後ろの女の子も同様、しかもキリエも見ている。二人と一匹から見られていることに気づいていない男は何かを考えているのか黙っている。

 幹生は楓に気づき、微笑んだ。少しでも余裕を見せてプレッシャーを与えるつもりだろうか。楓も微笑んで返した。

「お互い最後頑張ろう」

「はい!」

 そして、開始のホイッスルが鳴り響き、修次郎とツバキは一気に駆け出した。

その一方で、幹生が連れていた男は…。

「バカ走れ!!!」

 男はホイッスルや周りの状況に気づいていなかった。

「ん?おぉ!もう始まっていたのか__ぐぇ」と男は躓いて転んだ。

「おい何してんだ!!?」

「焦るな幹生、これでも俺は余りょ__あ゛ぅ!!」男の後頭部に後続のチワワの突進が命中した。

「うぉぉお!今のは痛かった!!痛かったぞ!!」

「いいからとっとと走らんかい!!!」幹生はキレ気味に言った。

 修次とツバキは二つのハードルを飛び越えており、あと二つで涼花に辿り着く。幹生達は今危機的状況だ。このままならこの競技だけでも勝てる。

 男は体勢を立て直して走り、ようやくハードルを飛び越えた。

 修次郎はハードルを飛び越え終わり、涼花の近くに辿り着いた。紐を涼花に渡し、受け取った涼花は走り出した。

 男の方もしばらくしてハードルを飛び終わり、女の子に渡した。


そのとたん、女の子の目つきや姿勢が変わった。そして、地面の土がややめり込むほど力の入ったクラウチングをして走り出した。キリエは何とか追いついている。

「何だあの子!?見た目に反してすげぇ早ぇ!!」「すごぃ…っ!」

 素早くハードルを飛び越え、他の走者達を一瞬で追い抜き、まだ二つしか飛び終えていない涼花も追い抜いた。

「ウソ…っ!っ…!!!」

 全速力を出し始め、涼花は最後まで走り終えた。だが、女の子は紐を幹生に渡し終えていた。すぐに楓に紐を手渡した。

「いくよツバキ!!」「わん!!」

 楓もツバキも全速力を出して走り始めた。

 キリエの体力が先程の女の子についていくために使いきったのか動きが遅い。幹生はキリエとペースを合わせている。

「しまった…!頑張れキリエ!!あともう少しだ!!」

 すると、キリエが楓達がすぐ近くに居ると分かってスピードを上げた。楓とツバキはすぐに追いついた。

「せめてこの競技だけは勝たせていただきますよ!!」

「トラブルを利用か!!せこいねー君も!!」

「へへっ!」

 楓とツバキは幹生達を追い抜き、幹生達はスピードを上げなかった。

なぜなら、楓達のスピードで行くとハードルを上手く飛び越えられないからだ。楓はハードルを飛び越えようと足を上げたが、スピードがありすぎて勢い余ってハードルに足を引っ掛けて倒れてしまった。

「あぅ!!」

 倒れた楓を他所に、幹生達はハードルを飛び越え始めた。

「まだだ…まだ終わりじゃない!」

 楓は勢い良く立ち上がり、今度はハードルとの距離を考えながら走り出した。

 幹生が三つ目のハードルを飛び越えた時、楓は二つ目を飛び終えてすぐに三つ目に辿り着いていた。

「うおおぉぉぉ!!!」

 三つ目も飛び越え、更に速さを増して走っていく。そしてまた幹生に追いついた。

「タフだね君!()()()にしては!」

「あ…はい!!!」

 そして同時に最後のハードルを飛び越え、残りの三十メートルの直線で幹生は余力を出し始めた。楓はもう、これ以上の力は無い。すぐに抜かれ、幹生達が一番にゴールに着き、楓達は二番目にゴールした。



4



 幹生は優勝し、過去四度連続で優勝したことから殿堂入りを果たした。楓は三位に終わり、賞品として三千円分の商品券を貰った。

「いやぁ~それでも三位はすごいよ!」「うんうん!」「しかも初参戦でな~」

「でも…アリナさんにどやされる…」

「まぁまぁ…」

 すると、細長いトロフィーを持った幹生がマリやキリエを連れて楓に歩み寄って来た。

「お疲れ様。三位入賞おめでとう」

「あ、どうも!優勝と殿堂入りおめでとうございます!」

「僕は次の大会はもう参加できないけど、君は参加する?」

「もちろん!次こそ優勝します!」

「まぁ、今回で三位だったから、優勝できる可能性は高いね。

じゃ、次の大会では、僕の妹と良い勝負をしてくれよ」と、幹生の後ろに同じ髪色のポニテの女の子がヒョコっと現れ楓達に笑って手を振った。彼女はもう片方の手でドーベルマンの子犬を抱えている。楓は振り返して幹生に向き直った。

「それじゃぁ、また機会があったら。またね」

「はい!さようなら!」

 幹生達は駐車場に行き、初心者マークが貼ってある日産リバティに乗り飼い犬達を乗せ、どこかへ走り去って行った。

「…さて、俺達もアリナのとこに行くか~」「最後の競技でまだ自分の体力の限界を知っちゃったし…家の廊下借りて練習しようかな?」「なんだったら荒らして帰るか」「ははっ…」

 各々、大会の疲れを感じながら、帰宅したり、アリナの家に向かっていく。

「それじゃ、また明日」

「はい…!」



 その後、やっぱりアリナにどやされたが、大会の話を聞いて納得し三千円の商品券で許してくれた。

今回で一旦終わります。ネタ切れだったり、作者の就活や普通免許取得で忙しくなるので。結局第二部は女装要素薄かったですね~…。

読んでくれていた方々がいらしたら、本当にありがとうございました。

ちなみに、四月から新シリーズの投稿が始まりますが、そっちはもう書き上がってるのでリアルの生活には影響しません。

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