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-女装男子と偽りの想い-  作者: 内田昇
女装男子と愉快な日常
19/20

7話「女装少年と懇切な店長」

修次郎に次ぐバケモン。

1



 私の名は”小野原玪実”。この町で『レストランおのはら』という小さなレストランを経営してるわ。元々は亡き祖父の店で父が継いでいたけど、ワケあって私が今継いで働いているの。

 結婚はしてないわ。男なんて汚らわしい生き物と接吻やら()()なんかできるもんか。

 彼に会うまでは、そう思っていた。

「佐倉楓です!よろしくお願いします!」

 え…?この子本当に男の子…?と、初めて会った時は心底驚いた。そしてあまりの可愛さに酔ってしまい、時給を上げると言ってしまった。まぁ、ジョークのつもりで言ったのだが…本当に上げた。



2



「おはようございます!」と楓が元気良く店にやって来て、台拭きをしている玪実に言った。

「おはよう。今日も早いわね」

「はい、開店前までに済ませなきゃいけない仕事がいっぱいありますから!」

「そう…がんばってね」玪実はそう温かい笑顔で返した。

「はい!」

 楓はスタッフルームに小走りで向かい、玪実はその後姿を追った。

 そして台の上に倒れ、楓の可愛さに酔いしれた。

「はぁ~~今日も男とは思えない程可愛いわぁ~~!!男もまだまだ捨てたモンじゃないわね~~!!最近流行ってる男の娘って素晴らしい…!!」

 しばらく経って、着替えを済ませてモップで床掃除をしている楓の尻に、玪実は軽くタッチした。

「ひゃっ!?」

「あぁ、ごめん…手が滑った」

「は、はぁ…」

 肝が冷えた楓を背に、玪実はガッツポーズをした。

(うんうん…!今日も良いさわり心地…!)

(最近よくお尻を触られる気がする…気のせいかな…?)



3



 ある日。夜の開店時間中。

「でよー」「まじかよ~」

 金や赤に髪を染めている頭の悪そうなDQN達が来店した。外には格好の悪い車高短のセダン車が停まっている。

「ここ美味いのか?」「知らねぇよ、初めて来たんだから」

 接客は楓はした。

「いらっしゃいませ!何名様でいらっしゃいますか?」

「お!可愛いじゃん…」「この店は当たりだな」

「四人だ」

「四名様ですね!あちらのお席へどうぞ!」

「どうも」

 楓は四人のDQNを奥のテーブル席に案内した。玪実は心配そうに楓の後を追う。

(あいつら…楓君にセクハラしそう…楓君のお尻は私のモノなのに…!)

 楓は四人分の水を持ってきて置き、注文を取って「しばらくお待ちください」と言った。

そのとたん、金髪の男の手が楓の尻に当たった。

「ひゃぅっ!!?」

「おぉごめんよ」と、男はタバコを取り出す素振りをして誤魔化した。

「っ…!」

 楓は駆け足で厨房に戻った。

「楓君、厨房に居た方が良いよ。あいつらまた何かしそう__」

「だ、大丈夫です…」

「そ…そう…?」

 周りの客や楓以外の店員はDQNを煙たそうに見ている。彼らは気にせずタバコを取り出して吹かしだした。一応喫煙席だが、煙を嗅いで不快そうな女性客が出た。

 しかも、DQN達は楓以外の店員(皆女の子)にもセクハラをした。指で注文する数をジェスチャーするフリをして胸に手を当てたり、手を戻そうとして太ももに触ったり…店員達は急激なストレスを抱えて眉間にしわが寄っている。

(全くあいつら…うちの店員達によくも…)


 すると、

「やぁー」

「おぉ“和繁先輩”!」

 入店してきたのは、楓の知っているDQNだった。

「…えっ!?」

「どうしたの楓君…?」周りの店員が心配そうに声をかけ、様子がおかしい楓に気づいて玪実は入店してきたDQN達を見た。

 彼らは、過去に三度も、男と知らない楓を捕まえて悪戯をしようとしたあのチンピラ達だ。リーダーの男和繁は修次郎に腕を折られたが、治ったようだ。彼らは先程来たDQN達の席に無理矢理座った。ギュウギュウだが、彼らは楽しそうだ。

「腕もう治ったんすか?」

「あぁ、先日やっと完治した。ったく、あのクソ野郎め、恥をかかせやがって…」

「大丈夫ですよ、汚名は先月の全国大会で返上したじゃないですかー」

「そうだな…」

 楓は厨房から出ようとしない。それもそうだ…。だが、何も知らない店員達も行こうとしない。嫌な予感がするからだ。

「楓君、あれ誰?」

「ぼ…僕を捕まえようとしてた人です…!」

「そうなの…?」

「もう近づくなって、僕の先輩が言ってくれたので…何事も起こらないと思いますけど…」

「…念のため、ここに居て。私が代わりに接客するから」

「は、はい…」

 玪実は怖がる皆を厨房に任せて水を彼らに運んだ。先程来たDQN達は、急に目つきが鋭い可愛いとはいえない女が現れて笑顔が消えた。今来たDQN達は普通に美人だと想いながら水を受け取った。

「ごゆっくりどうぞ」

「へいへい……あ?」

 ふと、厨房に目が行った和繁は、壁に隠れてちら見している楓を見つけた。一瞬怯んだが、すぐに笑った。

「あれれ~?君~?」と立ち上がり厨房に歩み寄って来た。

「っ…!」

「ひ…っ!」楓は怯えて厨房の奥に行く。

「逃げることはないでしょ~?それでも接客業?」

 そう言われて楓は戻ってきて、無理矢理作り笑いをして「い、いらっしゃいませ…」と言った。

「ちょっとこっち来なよ!ほら!」

「は…はい…」

 楓は厨房から出て、和繁に歩み寄った。

「か、楓君…!」

「だ、大丈夫です…きっと…!」

 そして和繁は楓を肩から抱いてDQN達が座る席に座らせた。

 DQN達がいやらしい目つきで楓を見てくる。

「この子さー、前に何度も会ってんだ!可愛いぜこいつ~!」と言って和繁は楓を脇腹から抱いた。

「へぇ~」「何だ~先越されてんのか~」

「なぁ、この後時間あるか?」

「え…?」

「久しぶりにドライブ行こうぜ!今度は俺達でよ!」

「へ…い、いえ__」

「そりゃいい!俺達も君と仲良くなりたいな!」「行こうぜ行こうぜ~!」「怖くなんか無いって~」

「あ…あの…えっと…!」

 すると、隣に座っていた和繁の後輩が楓のスカートに手を入れて太ももを擦った。無論男とは知らない。

「っひ…っ!?」

「おーすべすべ…」

「やっ、やめて__」


「お客様」

と、玪実は両手の平を思いっきりテーブルに叩きつけた。

「なっ…なんだよ…?」

 玪実は、顔を上げた。怒りに満ちている。大事な店員、貴重な元から男の娘な少年をアホな連中に奪われそうで…。

「店員への性的行為はお控えください。たとえ事故であっても」

「…あ?」

 DQNにもしわが寄ってきた。他の客の何人かが料理の代金を置いて逃げる準備をし始めた。

「ここはキャバクラでもホステスでもありません。もしこれ以上うちの店員をここに留めておくのなら、営業妨害で訴えさせていただきます」

「…ったよ」

 和繁は楓を離し、楓は玪実の後ろに隠れた。

「じゃあな」

 和繁達は玪実を睨みつけながら店を出て行った。先に来たDQN達も、金を払わずに出て行った。エンジンを吹かし、スキール音を鳴らしながら走り去っていく車の音が聞こえた。

「あの…あの人達お金…」

「どうせ食ってないんだからいいわよ」

 玪実は表情や服を整えて他の客達に声をかけて回った。一組ずつに謝罪をしているのだ。だが皆すっきりしたのかすぐに許した。



 その日。ネットでのレストランおのはらの評価が一気に下がった。レビューには有りもしないことなどを好き放題書かれている。どうせ彼らの妨害行為だろうが。



4



《チンピラ?》

「はい…」

 次の日。楓は修次郎に電話をかけ昨夜のことを話した。

《ったく…学習しない奴め…

とにかく、外に出るときは気をつけろ》

「はい…」

 電話を切り、楓は出勤の支度を始めた。



 店に行くと、まだ玪実しか居なかった。

「おはようございます」

「あぁ、おはよう。

ネットのレビュー見た?」

「はい…言いたい放題でしたね…」

「うちの店は延びきった麺なんて出さないし店員も皆良い子達なのに…」

「…で、でも、きっともっと偉い人が来て良い評価をくれるかもしれませんよ!」

「そうね…そう願うわ…」

 楓はロッカールームに行って着替えを済ませ、掃除道具を取ろうとした。


 すると、外で車が急停車したようだ。それも、店の入り口…。

「…?」

 店の入り口の方に行くと、

あのチンピラが乗っていたバンが停まっていた。

「__!?」

 スタッフルームに駆けつけ玪実を呼んだ。

「て、店長さん!!あの人達が__」

 突然、店の扉のガラスが割れた。和繁の仲間の一人が金属バッドで破ったのだ。体当たりや蹴りで無理矢理ドアが開けられ、和繁達がズカズカと店の中に入っていく。

「てーんちょうさーん!!いーませーんかー!!」

 玪実と楓はスタッフルームに隠れている。

「昨日の仕返しにでも来たのかしら…器が小さい奴…」


 すると、玪実は立ち上がって腕時計を外し、それを指に巻いてメリケンサックの様にし、髪をヘアゴムで縛った。

「店長…さん?」

「楓君は警察を呼んでここに隠れてて。私はあいつらを食い止める…先に手を出してきたら私の勝ち…それに器物損害で逮捕は確実よ…」

「で、でも、店長一人で__」

「私は大丈夫。“一時期慣れてたから”…」と、玪実は振り向きざまに笑った。

「っ…?」

 玪実はスタッフルームを後にし、時計を巻いた腕を隠して入り口に向かった。

「何をしてらっしゃるんですか?」

「アンタ店長?」

「はい」

「へぇ~…アンタがねぇ…客よりも店員を大事にしてる接客業失格者だな?」

「いいえ、私はお客様も店員の皆も大切にしてますよ。

アナタ達みたいな汚物とは違うわ」

「ッだとゴルァァ!!!」

 和繁は玪実の頭部を近くにあった椅子で殴り飛ばした。

「店長…っ!!?」と、陰で見ていた楓は思わず声が出てしまい、和繁に気づかれた。

「おやおや、君来るの早いねぇ~?でもさでもさ、こんな人の下で働くよりもさ、俺達と働いた方が絶対得だよ~?」と和繁はスタッフルームに近づいていく。

「っ…!」

「こんな目つきの悪いババアの下で朝っぱらからさ__」


「おい、私の大事な子に近づくな」

と、玪実は頭から血を流しながら和繁の腹を掴んだ。

「…あ?てめぇ今なんつった__」

「私の店員に近づくなって言ったんだこのクズ!!!」

 玪実は時計を巻いた手をしっかりと固めてから和繁の顔面を殴り飛ばした。和繁はあまりの威力で吹き飛び、椅子やテーブルの上に転がって悶絶した。

「いっだあああああああああっ!!!!何すんだゴルァ!!!!」

「あの子に近づいてみろ…泣いたり笑ったりできなくしてやる…」

「ほぅ?やってみろオルァアアアッ!!!!」

 そして、和繁の仲間が次々と玪実に襲い掛かった。金属バッドや鉄パイプで殴られる。


だが、玪実は屈しなかった。むしろ、和繁の仲間よりも大いに強かった。

 金属バッドを奪い取り持ち主の鼻っ面を殴り、バッドで鉄パイプを押さえつけて弾き、バッドでパイプの持ち主を殴りつけ、ナイフを取り出した者の腕を薙ぎ払い、落ちたナイフをバッドで潰し、後ろから襲い掛かってきた男に気づいてしゃがみ、その男は躓いてナイフを持っていた男と共に倒れた。バッドを起き上がろうとする和繁に投げつけ、バッドは和繁の鼻っ面にぶつかって彼の鼻の骨を砕いた。

「ぬああああああぁぁぁぁぁっ!!!?」

 次々と男達が玪実に襲い掛かり、玪実は死に物狂いで反撃する。

「てっ…てめぇ!!!せっかく腕が治ったこのオレに…!!!くっそったれぇぇぇ!!!!」

 和繁はバッドを拾い上げ玪実に突撃した。玪実は男の一人を盾にしながらもう一人の男に馬蹴りをした。和繁が振り降ろしたバッドは自分の仲間の背骨を砕き、その男を踏み越えてまた振り被った。ところが、天井に掛かっている網の吊り下げ灯に引っ掛かり、玪実に胸部を蹴り飛ばされた。

 玪実の拳が自分の血と男達の血で赤く染まる。

 その玪実の顔は、まるで、餌にありついた野生動物__。楓は薄らと恐怖を感じた。

(あれが…いつも温かい笑顔をくれた店長…!?)

 玪実は男の顔を掴みながら持ち上げた。

「いいか?二度とこの店に近づくな!!!私達とも関わるな!!!いいな!!?」

「は、はい!!!誓います!!!約束します!!!だから許してぇぇ__」

「許すわけ無いだろぉぉぉっ!!!!」

 玪実は大きく振り被って男を片手で店の外に放り投げた。放り投げられた男に続いて和繁を除く男達は大急ぎで車に乗り込み、和繁を置いて急発進した。

「お、おい待て!!!まだ俺が__」


 車が店を出て、置いていかれて道路に飛び出た和繁は、通りかかった制限速度ギリギリで

走っていた原付バイクのヘッドライトにぶつかった。そのぶつかった場所は、股間…。

「■■■■■■■■■■■■!!!!」

 言葉にならない悲痛な声が辺りに響いた。バイクは停車し、股間を押さえて酷く激しく悶絶している和繁に歩み寄り、ヘルメットを外した。修次郎だった。

「またお前か…」

「てっ…!!!てめぇあの時の!!?」

「あの子に近づくなって…言ったよな?」

 修次郎の目が、怒りに満ちた玪実の様に鋭くなっていく。怯え果てた和繁は這いずりながら逃げ出した。

「芋虫みたいに轢いてやろうか__」

 すると、パトカーのサイレンが聞えてきた。

「…ダメか」



5



 和繁達は後に警察に特定され器物損害や殺人未遂で逮捕された。玪実は一部が正当防衛と認められたが、過剰防衛の面もあった。今回は、とある人物のコネのおかげでもみ消せるそうだが…。

 店は臨時休業をすることになり、楓はバイト仲間の皆に電話で伝えた。玪実はスタッフルームで修次郎から怪我の手当てを受けている。

 連絡を終え、楓は玪実の隣の席に座った。

「災難な一日でしたね…」

「そうね…ま、もう二度と来ないでしょ…」

 玪実は考え込んだ。特に、今後のことを…。

「…私ね、昔、“族”だったの」

「族…!?」

「そう。バイク乗り回して街を走り回って…家の人や近所の人に迷惑かけまくってさ…嫌いな奴が居たらボコッて、未成年のくせにヤニ吸って酒飲んで…

ある日、友達と二人乗りしてたら、他の族の男達が事故を起こして、倒れてる友達を犯し始めたの…酷い怪我をしてるのに、容赦なくね…私はその男を殴ったけど、別の男に捕まって私も…ね…それで、性にしか興味の無い男が嫌いになって、族辞めて社会復帰をするために親父の仕事を継いで…今に至るの…」

「そうだったんですか…」

「でもね、楓君は特別。それに楓君のおかげでね、男もまだまだ捨てたモンじゃないって思えたよ…だからね楓君…

バイト、辞めてほしいの」

「…え?」

「嫌でしょ?こんな怖くて汚い女の下で働くの…私はね、楓君が私みたいに汚れてほしくないの…だからお願い…他のバイト仲間の皆にも、辞めるよう言って…私はきっと、一匹狼がお似合いだから…」

「そんなことありません…!僕は店長を怖くなんかありません!確かに、さっきは少しは思いましたけど…でも、あれは店長が僕を必死で守っていてくれていたから、僕のために危険なことをしてまで守っていてくれたから、安心してました…!

かっこよくて、頼もしくて、僕らと働いているとき、明るく温かい笑顔を振りまいていて、楽しそうだったじゃないですか!一匹狼の方が全く似合いませんよ!

僕は辞めません!心の底から辞めたいと思わない限り、店長が本心の根っこまで辞めてくれって言わない限り絶対に!!」

「…本当に?…本当に、こんな私の、仕事仲間で、居続けてくれるの…?」

 玪実の目に、涙が溢れてきた。自分の愚かさへの悲しみと楓が居続けてくれるということへの嬉しい感情で湧き上がった涙だ。

「はい!!約束します!!」

「っ…ありがとう、ありがとうね…」

 店長はそっと、楓に泣きながら抱きついた。楓は震える玪実の背中を柔らかい手で擦った…。



6



 翌日。ネットの書き込みは消え、正当な評価のみが残った。店は三日間の臨時休業を経てオープンし、再び良い意味での活気に溢れた。楓も、玪実も、皆、明るい笑顔で接客を続けている__。

「ある人物のコネとは?」(ヒント)つ一期四話のラスト辺り

次でまた一度ピリオド打ちます。

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