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-女装男子と偽りの想い-  作者: 内田昇
女装男子と愉快な日常
17/20

5話「破天荒な男と二匹の捨て犬」

珍しく?初めて?カーチェイスがあります。どうしても今回アクション無関係の話を作れませんでした…

1



「さ~て楓くん…何で私が怒ってるか分かってるかな~?」

「えっと…僕が昨日来なかったから…」

 昨日、九葉と別れた後アリナのことをすっかり忘れたまま一晩を過ごしてしまったのだ。楓の顔は真っ青だ。

「正解よ…

理由は何あれ、二度とないようおしおきしてあげないと~」

「え?おしおき?」

 アリナは正座していた楓を立ち上がらせ、引っ張りながら自室に入ってドアを閉め鍵をかけた。

「ふふふふふ…っ!さぁ脱ぎなさい!!そしてこれに着替えなさい!!」「え~~!!?」「早くしないと私が脱がしちゃうぞ!!え~い!!」「うわああああああ!!!」

 廊下で貴宏達三人は楓の無事を祈った。

「生きて帰って来いよ、楓…」

「楓君…()()されても君は良き仕事仲間だよ…」

「にしてもお嬢楽しんでるなー」



 その頃。修次郎は本屋でエアガンと車の雑誌を買って、帰路を原付で走っていた。

 すると、何かに気づいてブレーキをかけた。

「何だあれ…?」

 修次郎の目線の先には、路肩に置かれている段ボール箱がある。原付から降りてその段ボール箱の中を覗いてみた。

 そこには、雨で汚れたと思われる柴犬の子犬二匹が入っていた。

「くぅぅぅ…」「くぅぅぅん…」

「何だお前ら、捨てられたのか?かわいそうに…」

 よく見ると、ダンボール箱の外側に『拾ってください もう疲れました』と書かれていた。

「無責任な奴め…

内に来るか?」

「ぁぉぉぉん…」

「よしよし…」

 修次郎は段ボール箱を持ち上げ、籠に二匹を入れ、段ボールを畳んでしまい、原付を押しながら家に向かった。



2



《子犬を拾ったぁ?》

 電話の相手は良平だ。修次郎は風呂と餌を終えた二匹の子犬達を撫でながら電話をしている。

「あぁ。ワケあって俺の家じゃ飼えないし、楓んちにはもう居るし、とにかく宛が無いんだ。殺処分とかされてほしくないだろ?」

《そうだけど…楓君ちは一匹だけだろ?》

「アイツはアリナのせいで毎日バイト、姉は社会人。余裕ねーだろ」

《あれ?じゃあツバキ君はどこに?》

「知らね。とにかく、ダメか?」

《こっちはもう三匹居て手一杯だから無理。アメリカとかだったら広いから飼えるんだけどねー…》

「そうか…」

《なんだったら、アリナの家に譲ったら?》

「はぁ?!」

《GT-Rに乗せてくれたお礼としてその子をあげれば?》

「なるほど、その手があったか」



 ということで。

「子犬?その子?」

「あぁ」

 修次郎はアリナの家に来て子犬を抱えながら玄関前でアリナと話している。

「そんなチンチクリンを私に?笑わせないで」

「そんなこと言うなよーほら」修次郎はアリナに子犬を一匹渡した。

「うおぉ…!ちっこいわねーアンタ…」

「くぅぅん…」

「…………かわぃぃ………」

「あ?」

「っ…ぜ、前言はて、撤回するわ!それに、い、一匹くらいならか、構わないわよょょ…っ!」

「そうか、助かった。もう一匹は?」

「さすがにそこまでは…」

「こんなに広い家なのにか?」

「広すぎるのよ。どこかに隠れられたらいちいち移動するだけで疲れるわ…」

「そうか…困ったな…

ところで、楓は何であんな風になってんだ?」

 アリナの後ろには涙目になりモップで身体を支えているメイド姿の楓が居る。

「ん…?あぁ、ちょっと()()させたのよ」

「…マジか」

「マジよ」

「うぅ…もうお婿に行けない…」

「楓君、君はお婿さんじゃなくてお嫁さんでしょ!!」

「そんなぁ…」



3



 もう一匹の犬をどうするか考えながら街の中をさまよい、とあるコンビニに入った。ただしペット入店禁止で、修次郎は子犬に「ここで待ってろ」と言い聞かせて店に入った。子犬は言われたとおり店の前で修次郎を待ち始めた。


 すると、一台のバネットが駐車場前に停車した。そして助手席から一人の男が降車し、子犬を凝視した。

「野良か?よしよし…」

 男は子犬を抱えて車に乗ろうとした。そのとたん、身の危険を感じた子犬は店に向かって吠え出した。

「きゃん!!きゃん!!!」

 子犬の声に気づいた修次郎はドッグフードを片手に店の外を出た。

「…?」

 子犬は男に抱えられながらバネットに乗せられていった。

「っ…!!?」

 修次郎はドッグフードを近くに居た客に渡して店を飛び出した。その頃には既にバネットは発車してしまっていた。すると、修次郎の近くにカスタムが施されたスーパーカブが走っており、修次郎は道路に飛び出て無理矢理カブを止めた。

「危ねぇだろうがバッキャロ__」

「このバイク貸せ」

「…は?」

「弁償はする」

 修次郎はカブの運転手を無理矢理降ろしカブに跨り、ニュートラルに入れられたままスロットル全開で一速に入れ、ウィリーをしながら急発進した。

「おぉい…!!誰か警察――!!!」

 修次郎はカブの体勢を立て直してバネットの姿を見失わないよう猛スピードで追っていく。

「くそ…ッ!!もっとパワーを出せ…ッ!!」

 一方、まだ修次郎に気づいていない車内の男達は笑いながらバネットを走らせていた。

「どうせ野良なら誰も悲しまないだろ」

「良い実験体になってくれよな」

 と助手席の男は籠に入れられた子犬を撫でながら言う。子犬は何度も威嚇し撫でてくる男の手を噛もうとする。

 すると、カブがバネットと並走し、ふと外を見ようと窓を開けた助手席の男は修次郎を見つけた。


「 う ち の い ぬ か え せ 」


 修次郎はものすごい剣幕で男を睨みつけ、唐突すぎて怯えた男は腰が抜けた。

「どうした?!」

「あ…あ…!!?」

 修次郎はカブから手を離し、バネットのドアに捕まった。そしてカブから脚を離した。カブは操縦者を失い倒れて近くにあったカードレールにぶつかった。修次郎はバネットの車内にぬるっと入りこみ、助手席の男の股座を踏みつけながら「車を止めろ」と運転手に言った。

「な、何が目的だ?!!」

「犬を返せ」

「の、野良じゃないのか!?」

「んなわけねぇだろ」

「…だったら、首輪くらい付けろバーーーーーカ!!!!」

 運転手は突然ハンドルを左右に回し、バネットのバランスを崩させた。その勢いで修次郎は倒れ、助手席の男の股のあれが更に痛めつけられる。

「うぉッ!??」

「あ゛あ゛あ゛あああああッ!!!!」

 修次郎は運転手の腕を蹴り飛ばした。左腕が折れ苦しむ運転手はうっかりハンドルを大きく回してしまった。余計バネットのバランスが悪くなり、嫌な予感がした修次郎は子犬を籠から大急ぎで出して抱え、すぐにバネットの車外に飛び出した。飛び出した先には軽トラックに積まれたボロボロのマットレスがあり、修次郎と子犬はその上に飛び移り、怪我は無かった。バネットは横転し、火花を散らしながら川の方に突っ切っていき、ガードレールを乗り越えて川にダイブした。

「ふぅ…早く誰かに飼い主になってもらわないとな…」

「くぅぅん…」



4



 バネットの男達は、実は悪徳製薬会社の裏社員で、実験体になる野良の動物を徹底的に確保して回っていたのだ。もちろん、野良と間違って人のペットを盗ったり、危険な実験に貴重な動物を巻き込んだ罪で逮捕され、動物保護団体に訴えられた。カブの持ち主は修次郎の代わりに礼を受け取り修次郎のことは完全に許したそうだ。修次郎は、危うく逮捕されるところだったが、警察に感謝状が送られた。

「すごいですね修次郎さん…強盗のときもそうですけど…」

 楓や修次郎達は学校近くの公園に集まっていた。九葉は子犬を抱えて可愛がっている。

そういえば、まだ九葉という新しい選択肢があったことを忘れていた。

「…九葉ちゃん、その子を飼う気はない?」

「え…?頂いても、構わないんですか…?」

「むしろ歓迎だよ!今回みたいなことがまたあるかもしれないし!」

「で、でしたら…!喜んで…!」

 九葉はうれしそうにニッコリと笑い、子犬と顔を合わせた。

「今日から、よろしくね…!」

「わん!!」

 修次郎は子犬の行く先と九葉の明るい顔を見て安心した。

修次郎、アンタ何者なんや。

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