4話「気弱な彼女とマジカルバナナ」
多分捨て回。
1
私は…昔から弱虫で、ずっと根暗と、からかわれていました…親から心配されても、何があったのって聞かれても…答えられませんでした……からかいはエスカレートして、いじめに変わりました……人生が…自分が嫌になって、何度か命を絶とうと、思ったこともありました…。
高校に入ったら、こんな性格を治して、もっと明るくなって、虐められないようにしないと…と、思いました…。
2
「ねー聞いた?二組にすっごい可愛い男の子が居たらしいよ!」「男の子?」
入学式から少し経った教室で、仲が良さそうな女子生徒達がそんな話をしていた。
(可愛い…男の子…?)
そう思う少女の名は”彩河九葉”。短めの黒髪で片目が髪で隠れている小柄な子だ。
(どんな人だろう…)
気になった九葉は立ち上がって荷物をまとめ、教室を出て行った。帰るついでで見に行くのだろう。
一組の教室を覗くと、例の男の子が二人の男子生徒と話していた。楓だ。
(…可愛い…)
すると、
「ねぇ君」と誰かが後ろから突然声をかけてきた。
「ひゃっ!?」
「おぉ、驚かせてごめん」
九葉の後ろには、真面目そうな背が高い綺麗な男子生徒だった。
(かっ…かっこいい…!)
「君、新入生?」
「は、はい…!」
「僕は二年の”富樫文緒”。よろしく」
「あっ…えっと、彩河…九葉です…っ!」
「彩河さんか。よろしく。
君と仲良くなりたいな…バスケとか興味ある?僕バスケ部所属なんだ。良かったらどう?」
「えっ…あ、すいません…運動は、苦手で…」
「そっか…じゃぁプライベートで会わない?」
「プ…プライベートで…?」
「明日の昼、食堂で友達と集まるんだ。君もどう?」
「っと…あの!(どっ…どうすればいいんだろう…っ?)
えっと…じ…じゃぁ…よろしく、お願いします…っ!」
「はい、こちらこそ。じゃぁまた明日」
「また明日…っ!」
文緒は待っていた友人のところに駆け出して行った。
その会話を聞いていた三人の生徒が居た…。
翌日の朝。
九葉は登校中、文緒の後姿を見つけた。
「あっ…ふ、文緒せ__」
「っにしてもさー、あんなヒョロそうな女で良いのか?」
(…?)
「あぁいう女は騙しやすいし捕まえやすいから楽なんだよ。力があって押さえつけてる時に解かれたら嫌だろ?付き合わずに童貞卒業するんだったらあぁいう気弱な女がやりやすいんだよ」
「へっ、それもそうか。まぁ処女で顔良ければ誰でも良いや」
九葉は立ち止まっていた。まさか、もし彼らが言っている女の子が、自分だとしたら……。
(そんな…?!)
すると、
「アナタ達、陰口もそれまでにしておいたら?」
「あ゛?」「何だ涼花?お前のことじゃねぇぞ?」
文緒達の前には涼花と修次郎が立ち塞がっていた。
「女の人をそんな目で見て、言って、考えて…未成年でありながら、学生でありながら悪徳な計画、先生は目を背けても生徒会役員の私が許さない!!}
「あーはいはい__」
涼花は文緒の胸倉を掴んだ。
(__!?)
「聞き流すな。さっきの会話は彼が録音していた。もしこれが出回ってしまったら、君は危険人物と見なされ、少なくとも停学、最悪退学だな」
「っ…わかった、わかった、絶対やらないから、ジョークだから…!」
涼花は胸倉から手を離し、文緒達は逃げるように早歩きをして学校に向かった。
「フーっ…」
「かっこつけたのか?」
「いえ、生徒会として当然のことをしたまで」
「こんなことしてか?アリナしかり、何でこの学校は人の弱みを握って利用する奴バッカなんだ」と修次郎は録音機器をポンポン投げながら言った。
「まぁちょっと度が過ぎたかもしれないけど、こうでもしなきゃアイツらはあの子に手を出してたわよ」
「そうかい…」
涼花は九葉に気づき、微笑んでから修次郎の後を追った。九葉はうれしくなった。危うく酷いことをされるかもという時に、すぐに解決してくれる人が居て…。
3
その後九葉は食堂には行かず二年次の教室に向かった。探している人物がどこに居るかわからず、周りの人に声をかけた。
「あっ…あの、すいません…」
「何?」
「っ…す…涼花さんは…いらっしゃいませんか…?」
「涼花?ちょっと待って。
おーいすずりーん!!」とその人は隣の教室に向けて言った。
(すずりん…?)
「おー、何?
…って、あなた…」
「ど、どうも…」
二人は屋上に行った。誰も居らず、せいぜい小鳥が数匹留まっているくらいだ。
「朝は、ありがとうございました…私、鈍くて、騙されやすくて…」
「別にあれくらい良いわよ。むしろ、悪い奴の弱みを握れてラッキーだったよ。えへへ」
「……あの…」
「ん~?」
「生徒会は、生徒の悩みも…聞いてくれるんですか…?」
「何?悩み事?カウンセリング?ドンドン言っても良いよ?」
「あ…えっと…私、昔から弱くて、根暗で、虐められていて…あんまり明るくなれないんです……この学校に入ったら、少しは変われるって、思ったんですけど…何か…良い方法は、ありませんか…?」
「う~ん、そうねぇ~…
…だったら、私の友達になる?」
「友達、ですか…?」
「私ね、色んな人と友達なの。乗り物好きな幼馴染と変態だけど漫画を描くのが上手い奴と、女装するとすっごく可愛くなる男の子とか。その人達のおかげか、最近自分が明るくなったなって自覚できたんだ。もしかしたら、君も私みたいになれるかもよ?」
「……あの…と、友達になって、くれますか…?」
涼花は九葉の両手を手に取った。
「もちろん。これからよろしくね」
「は…はい…っ!」
4
放課後。九葉や涼花達は良平の家に集まった。楓も居る。
(あの人…涼花先輩のお友達だったんだ…)
「楓君、アリナさんの所行かなくて良いの?」
「出勤時間はいつでも良いらしいので夜に行きます」
「へぇ~。
さーて、皆ちゅうもーく。この子が、今日友達になった彩河九葉ちゃんだよー」
「よ、よろしく…お願いします…っ!」
身体が小刻みに震え声が出にくかったがなんとか言えた。
「こちらも、よろしく。僕は良平だよ」「俺は修次郎、よろしくな」「楓です。よろしくね」
「は、はい…!(皆さん優しい…)」
「…で、ちょっとしたお祝いに何かゲームでもしましょうか」
「ゲーム…ですか…?」
良平はテレビの下にある引き出しを引いた。そこには大量のテレビゲームのソフトが収納されている。どれも九葉はやらなそうなモノばかりだ。
「内にあるのじゃむりだな…」
「そういうのじゃなくて、電気を使わず、頭を働かせるゲームよ」
「麻雀?」「人狼?」「TRPG?」
「一気に難易度上がりすぎよ…
″マジカルバナナ″をやりましょう。九葉さんはルール分かる?」
「は、はい…一応…」
「マジカルバナナか…子供っぽいな」
「そこ、文句言わない!」
順番は凉花から始まり九葉、楓、良平、修次郎に決まった。
「じゃあいくわよ。マジカルバナナっ!バナナといったら長いっ!」
「な、長いといったら…は、箸…?」
「箸といったら木」
「木といったら本」
「本といったらエロ本」
「どうしてそうなる…
エロ本といったら薄い」
「う、薄いといったら、紙…?」
「紙といったら軽い」
「軽いといったら布」
「布といったらエロい」
「何が?(半ギレ)
エロいといったら楓君」
「へ?!」
「か、楓さんといったら…可愛い…」
「ちょっ…九葉ちゃん?!」
「可愛いといったら犬」
「犬といったらメス犬」
「修次郎いい加減にしないと殴るわよ?
メス犬といったら首輪」
「く、首輪といったら…ペット?」
「ペットといったらツバキ!」
「ツバキといったら飼い主に従順」
「従順といったら性奴隷__」
「いい加減にしろやお前ーーーッ!!!」と凉花は修次郎をグーで殴り飛ばした。
「さっきから卑猥な単語ばっか出しやがってッ!!!九葉ちゃんに性知識与えてどうする気よ?!!」
「お前もエロ本といったら薄いとかメス犬といったら首輪とか言ってたじゃねーか!!!」
「んもう!仕切り直しよ!
マジカルバナナっ!バナナといったら黄色!」
「黄色といったらレモン…」
「レモンといったら酸っぱい」
「酸っぱいといったらレモンを掛かけた唐揚げ」
「唐揚げといったら下○絋」
(下○絋…?)
「下○絋といったら梶○貴」
「(続けた…?!)か、梶さんといったら…か…か…」
隣で楓が「神谷○史」と言ってくれた。
「(あ、ありがとうございます…!)か、かみやひろしさん…!」
「神谷○史さんといったら小野○輔」
「小野○輔といったら○山潤」
「○山潤といったら阿澄○奈」
「阿澄○奈といったら喜多村○梨」
「き、きたむら…む、無理です…!ついて、いけません…!」と九葉は跪いた。
「九葉ちゃん、今度から喜多村○梨といったら野中○と答えな。そしたら楓が悠木○と言い良平が水橋か○りといい俺が斎藤○和と答える」
「まぁ声優さんは知らなそうだしね…
じゃあ縛りをしましょう。中の人ネタや役者ネタは無し。
さ、マジカルバナナっ!バナナといったら旨い」
「う、旨いといったら…ケーキ…?」
「ケーキといったら甘い」
「甘いといったらマジパン」
「おい待て、マジパンは甘くないだろ」
「はぁ?十分甘いだろ?!」
「甘くねぇよあれ!!苦げぇよ!!」
「鈴○貴之も悶絶してただろ!!舌おかしいんじゃねーの?」
「あれは甘いの無関係でも十分苦しいわ!!口いっぱいに物入れられてんだから!!」
「とにかくあれは甘い!!」
「苦げぇ!!」
「甘い!!」
「苦げぇっつてんだろ!!」
「お前らいい加減にしろーーーッ!!!」と涼花はもめ合う修次郎と良平にドロップキックを喰らわせた。
「お゛ぉう??!!」「グロし!!」
「楽しい雰囲気にしようとしてるのに卑猥な方向に持ってったりどうでもいい話題で口喧嘩始めやがっーーーッ!!!」
二人を説教している所を他所に、九葉と楓はその様子を眺めていた。
「あわわ…!だ、大丈夫なんでしょうか…?!」
「大丈夫大丈夫。すぐ仲直りするよ。
それよりどう?ちょっとは気が楽になった?」
そう楓に聞かれた九葉だったが、彼女にはあまり分からない。
ただ、これだけは言えた。きっと、これだけバカ騒ぎができるのは、相当仲が良くないとできないということだ。
「…はい。騒がしいけど、どこか…温かいです…はい…」
「…そっか」
5
夕暮れ時。皆、各々の家に帰宅していった。
「じゃぁまたねー九葉ちゃん!!」「絶対あれは甘い…」「まだ言うか!」
「はい、また…!」
九葉と楓は途中まで同じ道で、その後別れ、彼女は一人で河川敷に寄り道をした。丁度綺麗な夕日が見れるからだ。
そして河川敷で、赤々と照る夕日を見れた。ただ、この日は気分が良くて、楽だったからか、その夕日は、いつもより綺麗に見えた…。
「…綺麗だなぁ…」
清々しい笑顔で、九葉はそう呟いた。
九葉のキャラが何かに似てると感じたらその勘は当たっている。