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「あ、師匠! ただ今戻りました!」

 事件から数日後。京の大路を歩いていた隆善は、声をかけられて振り向いた。そこには、男物の旅装束を着た紫苑が、機嫌良く立っている。

「おう、帰ったか。葵や惟幸達の様子はどうだった?」

「はい。皆、元気そうでした! ……あ、師匠からの伝言、ちゃんと父様に伝えましたよ?」

 数日前に隆善が言った、「呪い殺してやる」云々の事だ。背後で虎目が、

「まさか、本当に言うとは思わにゃかったにゃー……」

 と呆れ顔をしている。別に伝えても、隆善自身は問題無いと思ったのだろう。腕組みをしながら、面白そうに問うてくる。

「そうか。……何て言ってた?」

「えーっと……呪詛返しで友達を殺したくないから、やめて欲しいな、だそうです」

 それを聞いた途端、隆善の顔がヒクリと引き攣った。拳を握り、不機嫌そうな顔で宙を睨む。

「俺に勝つ自信満々か、あの野郎! 京を出てから、すっかり良い性格になりやがって……!」

 隆善の怒りが高まっている。そう感じた紫苑は、急ぎ話題をすり替えようと決意した。

「ところで、呪詛と言えば……栗麿と君影草の君、あの後どうなりました?」

 恐らく何も発展していないだろうが、万が一という事もある。すると、意外な事に隆善が「あぁ……」と少し考える素振りを見せた。

「アレか。……馬鹿が逃げた」

「……はい?」

 意味がわからず、紫苑は首を傾げた。すると、意味が伝わらなかった事に苛立ったのか、やや荒い口調で、隆善は再度言う。

「だから、馬鹿が逃げたんだ」

「いや、あの……師匠? 意味がよくわからないんですけど……」

 その言葉に、隆善はため息をついた。栗麿が絡むと、本当にため息が増える。

「あの馬鹿、あの後君影草の君に想いを伝えようと、一応殊勝な事は考えたらしいんだがな」

「……だが?」

 嫌な予感しかしない。

「伝える前に、今までよりも君影草の君の近くに行く機会があったらしい。そうしたら、「何か思ってたのと違う」とかほざいて、アッサリと身を引いたそうだ」

「え……えーっ!?」

 あまりの声の大きさに、隆善と虎目が耳を塞いだ。近くを通りかかった通行人が、何事かと視線を寄せてくる。それすらも気にする事無く、紫苑は隆善に詰め寄った。

「何ですか、それ? 思ってたのと違うって……一体何が……」

「まぁ、あの馬鹿の事だからにゃ。思ったよりも歳を食っていたとか、イメージしてた顔と違ってたーとか、にゃんと自分よりも背が高かったとか……そんにゃところじゃにゃーか?」

「……まぁ、大体そんな感じだ」

 頷く隆善に、紫苑の顔は増々険しくなった。

「何それ、そんな事で!? サイッテー!」

 今にも何かに当たり散らしそうな紫苑の頭を掴み、隆善は紫苑を宥めた。

「落ち着け。あいつが最低なのは、今に始まった事じゃないだろう?」

「……まぁ、そうですけど……」

 紫苑が落ち着いたところで、虎目が話題を変えようと口を開いた。

「今に始まったと言えば。ここ数日、にゃにか物騒にゃ事件が起きているらしいにゃ?」

「あ、そうそう。帰って来る途中で聞いたんですよ、それ。妖が出てきて、夜な夜な人を襲うって」

 すると、隆善は顔を引き締めて頷いた。

「知ってたか。なら、話が早い。今からちょうど、夕べ事件が起きた現場へ行くところでな。……ほら、あそこの辻に見える邸だ」

 そう言って、隆善が前方を指差した、まさにその時だ。

「ヒーッ! 麿は悪くない! 麿は悪くないでおじゃるよぉっ!!」

 叫び声と共に、件の邸から栗麿が飛び出してきた。彼は紫苑達の存在にも気付かず、まっすぐ目の前を通り過ぎていく。

 二人と一匹は、その後ろ姿を眺め。視線を交わし。そして、同時に大きく息を吸った。

「またお前か!!」

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