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あと一話!!
「ふむ、お前は先祖返りか」
「・・・・」
「耳の形が森の民とは少し違う」
「・・・・」
「かつては森の民も人間と生活していた。人間に緑の瞳を持つものが生まれたのも、そのためだ」
「・・・・」
「耳がとがってはいるが、森の民ほどでもないお前は、おそらく先祖にいた森の民の血がたまたま顕著に表れたのだろう」
「・・・・」
大人しく待っていなかった。
指定された場所に向かえば、そこには両手を後ろで縛られ、床に座らされた知識馬鹿と、相対する男。
知識馬鹿を拘束したいなら、手よりもまず口を塞がなければ。
「・・・・来ましたか」
「・・・・王子を、解放しなさい」
男が、こちらに目を向ける。窓から差し込むわずかな光に映し出されたその顔は、自分の予想通りで、顔をしかめずにはいられなかった。
「・・・アデル、あなた自分が何をしているか分かっているの?」
「・・・・ああ、分かっているよ。アールヴ」
笑む男。
汚い部屋のせいか、ほこりが充満して鼻が利かない。
「アールヴ!!口を塞げ!!」
知識馬鹿が何か言っているが、ここは無視させていただく。これは、森の民の問題だ。
「・・・・あなたは、あの花を持ち出した」
「ああ」
「しかも、それを人の世にばら撒いた!!」
「くくくっ、面白いくらいにすぐ広まったよ」
懐から出したのは、確かに星見草。
けれど、星見草に魔の成分はなかったはず。
「・・・その色は?」
「知ってるだろ?この花は、森の民の血で育つ」
そう。だから持ち出したところで育つわけがない。
「だからね、僕の血を与えてみたんだ」
「なっ!!」
袖をまくるアデルの腕には、深い傷跡が。
「でも足りなくてね。試しに人間の血を与えてみたんだ」
「なんてことを・・・」
床がなくなったような気がした。
アデルは、かつで同じ森の里で暮らした少年だった。
先祖返りのせいで、人の世を追われ、たまたま森に迷い込んだところを保護した少年。
人間不信で、でも、彼に森の民の能力はなかった。
姿だけが、森の民のもので。
けれど、それも森の民とは少し違って、人間とも違って。
少しずつ、心を病んでいたのは知っていた。
けれど、救えなかった。
「人間も、たどれば森の民の血が入っているだろう?だから、緑の瞳を持つ人間を集めたんだ。随分苦労したんだよ?森の民よりたくさん血がいるんだ」
「ふむ、いくら緑の瞳を持つとはいえ、その中に血が残っている可能性は低いな」
「ローラ。少し黙っていてください」
おかしい。なんだろう?目がかすむ。
「そしたら色が変わってね?そしたら、魔の成分をもつようになったんだ。不思議だろ?人の血を吸って、人を毒する花になったんだ」
笑う。
「一石二鳥だったんだ。僕はね、人間が大嫌いだから」
笑う。
「人間を使ってこの花を育てて、この花で人間を破滅させる」
笑う。
「ね?効率的でしょ?」
「やめて!!」
耐えきれなかった。
「あなたは人間でしょ?なぜ、人間を憎む?」
笑みが、消えた。
「僕が、人間?何言ってるの?」
ことり、と傾げた首。その瞳に、狂気が宿っている。
ああ、駄目だ。
そう思った瞬間、私の足が崩れた。
「うっ」
この視界の悪さは、ほこりじゃ、ない。
「アールヴ、口を塞げ!!」
もう遅いですよ、ローラ。
「星見草・・・」
「ふふふっ、やっぱりアールヴは森の民だ。体が、動かないでしょ?」
近づいてくるアデル。必死に下がろうとしても、体が言うことを聞かない。
「僕に賛同してくれる仲間もいっぱいいるんだよ?」
「アールヴ!!」
情けない!!助けにきた自分がこの有様。
「ね?アールヴも一緒に行こう?」
差し出される手。
「人間のいない世界へ」
王子の過去とか、番外編書きたいなぁ。