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完結済みなので、どんどん掲載します。
友人というか、これって護衛じゃないだろうか?
先日の戦場での彼の暴走を誰も止めなかったせいで、私は戦場で手当り次第に医療行為をするいう知識馬鹿の命を必死に守ったのだ。命を救う人間の命を守るといえば響きはいいが、怪我人を見つけては敵地に突進する人間を守るなんて、こちらの命が危うくなるというものである。
「アールヴ、今日は森にはいかぬ」
「そうですか」
それでも見捨てられないのは、初めに刷り込まれた印象のせいだろうか。
手のかかる弟。
その印象は今も変わらない。
「カインに呼ばれていてな、そちらに行かねばならないのだ」
「分かりました」
いつからだろうか?王子が森に来るのではなく、私から城に出向くようになったのは。
毎度護衛を巻いているのではなく、護衛が仕事をしていないことに気づいてからだろうか。
カイン様の部屋につけば、中には婚約者のウリエルもいた。
とある事情で男装していた彼女だが、それをやめた今は、どこからどうみても美女だ。というか、男装しているときから気づかない王子の目がおかしいのだ。一度診察してもらった方がいいだろう。まあ、気づかないという点では、知識馬鹿も同じなので、彼に診察してもらうのはやめたほうがいいだろう。
「ああ、ラン兄!!待っていたぞ!!」
「俺は忙しい。要件を早く言え」
「そうだな!!早くこんな事件片付けないと、たくさんの犠牲者が出る!!俺は、絶対犯人を・・・」
「ええ、カイン様。事件については私が説明しましょう」
紅茶を手際よく用意し、二人を椅子に座らせる彼女の手並みは鮮やかだ。にこりと微笑む彼女の顔は、女の私でも見惚れるほど美しい。
「・・・・よろしければ」
「・・・・いただきます」
私も席に着き、事件とやらの説明が始まった。
「ここ最近、街にある薬が蔓延しているのですが・・・・」
「ほう、薬ね・・・」
「はい。それが、薬というより香に近いもののようで・・・」
人間は不思議だ。毒と知っていながら、一瞬の快楽のためにそれを求める。
森の民には考えられないことだ。植物から作られた毒は、森の民を害すことはない。
「使い続けると、幻覚症状が進み、最後には発狂。自傷行為などに走ったり、飛び降りなどで自害する場合もあります」
「ふむ、いわゆる魔の薬の一般的な症状ではないか?」
「そうです。が、今回のものは摂取する形状ではなく、火をつけてその香りで効果が出るようなんです」
「ふむ・・・」
「そのため、比較的簡単に手が出しやすく、けれど従来のものに比べて常習性が高いため、やめることが難しく、堕ちて行ってしまうようです」
「しかも、燃やして使うから、証拠も手に入りにくい、と」
うなづくウリエル。
「だがな、そこは俺のエル。奇跡的にそれを手に入れることができたんだ!!」
そういって机に置かれたものを見て、私は声も上げられなかった。
先のとがった五角形の花弁が何枚にも重ねられた花。茎はなく、花の部分のみで、ドライフラワーにされているせいで色褪せてはいるが、その色は真紅。
この形、色こそ違えど、見間違えることなどありえない。
「ふむ、形は絶滅した星見草に似ているが、色が違うな」
王子の声が、耳をすり抜ける。
ありえない。これがここにあるなんて。
いや、あってはいけない!!
「・・・・まさか・・・」
ある可能性が浮かぶ。信じたくはない。けれど、これが人の世に出回っているということは、その可能性が限りなく高い。
「どうした。アールヴ?これがなにか知っているのか??」
キラキラ。好奇心に輝くこの瞳が、一瞬でも厭わしく思ったのは初めてかもしれない。
私は椅子から立ち上がり、その場に膝をつく。
「ローランド王子、申し訳ありません」
「?どうした?」
「この一件、私の手にゆだねてはいただけないでしょうか?」
「・・・・どういうことですか?」
ウリエルの言葉にも、私は顔を上げない。
「これは、森の民の根源にかかわる問題です。これは、森の民の問題。人の手を借りたくはありません」
「・・・・・この花は、森の民のものか?」
「・・・・・はい」
「なに!!森の民がこんな危険な植物を・・・」
「王子!!」
ウリエルの窘める声に私は拳を握りしめて耐えた。
危険な植物??
毒と知りながら手を出したのは人間の方ではないか!!
「・・・・・わかった」
「・・・・ローラ!!」
顔を上げれば、彼の瞳に好奇心の輝きが消えて、はいなかった。
「俺はこの花の毒性を研究をする」
「・・・・もう、この花が人の手に堕ちることはありませんよ」
「それでも、この一輪は俺の手の中にある」
彼の求めるものは知識のみ。
未知のものがあれば、飛びつかずにはいられない。
そこに打算や計算などはなく、ただ己の知識だけを求める知識馬鹿。
彼が、これを悪用する気がないことは、自分がよく分かっている。
だから、今まで彼のそばにいれたのだ。
けれど、彼の周囲は彼の研究を放っておいてはくれないだろう。
「申し訳ありません」
私は懐に手を入れ、一つの瓶を取り出す。
彼を信用していないわけではない。けれど、人をすべて信用できるほど、私は人を知らない。
「ローラ、今までありがとうございました」
瓶を床に叩き付ける。
「アールヴ!!何を!!」
「ウリエル、口をおさえろ!!」
「カイン様!!」
一瞬で部屋中に満ちた甘い匂い。
「ただの睡眠薬です。体にはなんの影響もありません」
崩れ落ちていく3人をよそに、私は机の上の花を回収する。
「・・・・さよならです」
「待て!!」
いくら戦狂いといわれても、不意打ちをくらってはただの人。それでも常人とはかけ離れた動きをするカイン王子を避け、私は窓から身を投げる。
「アールヴ!!」
もう、人とかかわるのは終わり。
さよなら、ローランド王子・・・・。
怒涛の展開スピードです。