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知識馬鹿  作者: よもぎ
2/8

続きです。

 それから知識馬鹿との付き合いがはじまった。


「お前、名前は何という?」

「・・・・アールヴです」

「うむ、俺はローランドという。ついでに言えば、ランド王国の第2王子だ」


 王子はついでですか。


 なんというか、彼はものすごく変わっていた。


 痺れていた翌日に同じ場所で出会った彼は、初対面から痺れ草のことをあれこれ聞いてきた。しかも、私が森の民であるということを全く気にしていないのか、あれやこれや他のことも聞いてきた。


「・・・・うむ、これは食べられるのだな?」

「はい、けれど決して種は食べてはいけません。・・・・ローランド王子、出してください」

「むっ、何故食べてはいけないのだ」

「お腹の調子が悪くなります。・・・・ローランド王子、ご自分で試すのはお止めください」

「むっ、解毒薬はないのか?」

「ありません。・・・・・ですから、ローランド王子、ダメです」


 というような会話が永遠続くのだ。私より子どもっぽい。


 なんと、こんなでも彼は14歳だという。15で成人を迎えるこの国では、すでに大人に近いはずだ。が、精神年齢は私よりも低い。猛毒をもつ蛇をみては捕まえようとし、果物をみては片っ端から口にいれようとする。木に引っかかった服は、平然と破る。


 なんだこの子どもは・・・・・。


 子どもの割に私は忍耐強い方であった。それでも、苛立つ。けれど、彼の相手をし続けられたのは、村には自分より小さな子どもがいなかったから。大きな弟が出来た気分だったのだ。


 それに、人間とはいえ彼は王子だ。仲が悪いとは言え、この森で怪我でもしたら大事(おおごと)だ。ただでさえある種族間の溝が、埋めようのない物になってしまう。


「・・・・・・ローランド王子、護衛の皆さんが見えましたよ」

「むっ、今日は早いな」


 彼は気づかない。いつも適当に森の入り口(普通の人間からしたら深い)を案内して、適当な時間で護衛が来られそうな森のさらに入り口近くに彼を誘導していることを。


「明日は来ることが出来ないが、明後日はまた来る!!」

「分かりました」


 だが、そもそも彼に撒かれる護衛もどうかと思う。たぶん、森に入るのを躊躇している騎士たちをよそに、彼がずんずん奥に行ってしまうからだとは思うが。


 そんなこんなで彼との交流がはじまって数週間。


「アールヴ!!友人というものは、互いを名前で呼び合うものらしいぞ!!」

「・・・・・はい?」


 会って第一声がこれだ。


 よくよく聞いてみると、最近森に出かける彼を兄が心配して声をかけたらしい。で、私の事を聞かれなんと答えて良いか分からなかったらしい。結果、いつものやりとりを説明したところ、友人という関係だと言われた、との事。


 一国の王子が、森の民と友人って、外聞悪くないのだろうか?


 兄は彼より2つ上らしい。ということは既に成人されているのか。


「だから、これからは俺をローランドと呼ぶといい!!」


 それは、ちょっとまずいだろう。ただの森の民が、一国の王子を呼び捨てはまずいだろう。


 でも、たしかにいつもローランド王子、と呼ぶのは長ったらしくてうざかったのも事実。ふむ、ならどうするか。


 そうこうするうちにまた彼が色々物色しだした。


「ローランド王子、それはいけません。毒です」

「ローランド王子、それは花に擬態した虫です」

「ローランド王子、水は飲んではいけません」


 あっちへふらふら、こっちへふらふら。名前で呼べって言ったのに、呼んでいないことに気づいてもいない。


 ふと、ならばもっと短い名前で呼んでしまっても気づかないのではないか。


 名前として認識さえしてくれれば、どんな呼び方でも彼は反応すると思う。


 いいかげん、ローランド王子という8文字も呼び疲れた。


 そして、彼がある植物に手をかけようとしていることに気づいた。


 ダメだ、あれはまずい!!


「ローラ!!それから離れて!!」

「!!!」


 勢いよく腕を引く。こちらに倒れてきた体を避け、ひらりと彼の前にたつ。


 食人植物、通称ジンカ。


 植物なのでその場から動けない。美しい花を咲かせながら、その美しさに近づいてきた動物や人間を栄養分にする植物だ。その蜜は、人の血の味がするという。


 飛んでくる触手を鞭で叩き落としながら彼の腕を掴んで走る。飛んでくる触手はムチで落としていく。


 ここまで来れば安全という所で手を離し、彼を見れば、なんとも言えない表情をしていた。


 目を大きく開き、その中の瞳を輝かせ、口は三日月のように弧描く。


 例えるなら、飼い主に初めて名前をつけてもらった犬――――――――。


「ローランド王子?」

「そうだな!!友人なら愛称で呼ぶ方がよいな!!」


 あ、さっきの―――――――。


「これからは俺の事をローラと呼ぶと良い!!」


 いや、ふつう嫌がりませんか?


 ローラというのは普通女性につける名前で、普通の男性はそう呼ばれることをいやがるはずだ。女性のように弱いのか、と侮辱されていると思うくらいだろう。下手したら激昂している。


「・・・・・わかりました」


 まあ、いいか。華奢だし、中性的だし。顔綺麗だし。本人気に入ったみたいだし。


 こうして、私とローラの友人関係ははじまったのだった。

回想編終了です。

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