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唐突に、  作者: 紅
34/35

約定外

 「ある女の子の話をしよう、彼女は唯(片仮名で)キリカとだけ、表記され素性も―キリカというのが‘名字’なのか‘名前’なのか。それすら判然としない―詳細なプロフィールも描かれはしないのだけれど。一つだけ大々的に取り扱われる題材テーマがある、それが“馴染めない彼方”という表題の問題定義につながるんだ。馴染めないというのは家族間に不和を齎す娘の苦悩と追想を回顧録として書している、前世という概念について酷く泥炭を塗りたくったような重厚モノクロームな作者独特の世界・価値観を取り扱っていた。キリカには5歳までの記憶がない、ある日気がついたら忽然と掻き消えてしまったような気がしたと彼女は述中で証言している、しかし当時は幼いこともあり不可思議さを見出すこともしなかったらしい。普通この時点で少しの疑問も差し挟まないのは不可解だ、ある程度物心というか自我の目覚め(兆し)があるはずだから、けれど御都合主義というものだろう主観にとらわれては何も見えてこない。

 キリカには両親がいた。優しい母と、楽しい父、仲の良い夫婦だった。

しかしそれも彼女が11歳までの話で小学校を6年目にあがる頃には度重なる喧嘩と傷害未遂、それで不仲が祟って離婚届けにそれぞれ署名する『今まで有難う此れから頑張って』と泣き腫らした目で母が言うのを除き見た、キリカには『部屋でじっとしていなさい』とだけ言っていたのに。草臥れたような父も何か憑き物の落ちたような顔をして『ああ御前も、な』と一言そう残して、立ち去る間際にふたりはひしと抱擁していたのを幼いキリカは呆然とはらはら涙をながしながら理解した(ああ、もう父には会えないのだと)。

 母も父もキリカに暴力を振るうことはなかったが物言いたげな目で見ていたのを段々と思考が追い付くごとに思い出し、そして少女の疑問は募っていく、私って本当にこの惨めなキリカとか言う女子なのか、と考えるようになってしまった。


 だから悲劇は加速していく、馬鹿げた話でなくキリカにはまったく別人の依頼きせいした記憶が今か今かと隙を待ち侘びていたのさ、彼女のその記憶は時折意識が眠っている時に現れるようになっていたのを母だけは知っていた(ほかは父親以外には誰も知りえない伏せられた話)。ある朝寝苦しく目覚めたキリカは見たこともない天井と自分が横たわる寝台に驚いた、慌てて「母さん俺の部屋が変わっている、ん、だ、けど…」言っている途中でキリカ自身もその口調の可笑しさに気付き、尚且つ自分が‘母さん’と思い浮かべ想起していた人物と全然違う母親を目にするんだ(キリカは常々『ママ』と呼んでいたから)。

 キリカの唖然とした表情が目に浮かぶようだよ、この場面だけはより鮮烈に、鮮やかに景色が閃いたから。読書中ではあったけれどうっかり叫びそうだった、書架は静かに過ごさないとね?そして母親は言ってしまう「また違うのね」と親子関係を擬似としてしまう終止符とどめのことばを。キリカはその瞬間に何かを悟ってしまった。

 これが第一章で第二、第三と続くのだけれど今は此処までで良いよね?長いから―、」


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