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唐突に、  作者: 紅
33/35

約定外

 他人に携帯型端末を差し出すのはきっと勇気のいる事だったろう、けれど彼女は何の戸惑いも無くそれを差し出した、外では何時の間にか篠つく雨が降り始めていたサラサラとして音も無く(だけれど晴れやかな光だけ奪い去って)。

 施錠ロックもしていなかったが為に操作するのは簡単だった、先ず音を消した―後で戻せば構わないだろうし―彼女もきっと必要性をあまり見出せないのかも知れないかから。ほかに彼是と確認を取りつつ設定を操作して仕様を変えた、それだけで不可解な介入は途切れてしまうものだ、寧ろ何故今まで彼女 霧花キリカはやらなかったのか?「簡単に説明したけれど判からないのであれば質問して」と言って渡した、無事返却されたというのに彼女の顔は曇ったまま。


 「先輩、私」と言ったきり黙りこんでしまった彼女を待つのは別に吝かではない。

けれど「馴染めない彼方」とつぶやくと霧花はビクッと肩をゆらした、恐らく図星であったのだろうけれどこれは彼女の境遇ふこうどを指摘したくて言ったのではない「馴染めない彼方とは『刹那同胞せつなはらから』の原作の小説だ、あまりに知名度が低くて絶版したらしいが―」腕を組んで(心理的には保守的な構えらしいが、あくまでもそんな積もりはない)顔をあげた彼女を見詰めた。

 「そして『刹那同胞』のepilogueでもある」そう言うと紅茶で一服した、幸いにも未だ霧花 鬼灯あかりの好みまで忘れるには到っていないようだ、沈黙が臨場感という奴を相乗していた「エピローグって」彼女は刹那同胞ゲームタイトルには理解があるようで。それは世界の事情もすこし齧っているというわけだ「その前にずっと気になっていたことから明らかにしよう、君はゲームがはじまる以前から(私を)恋人候補ヒーローたちを知っていたようだ。だからくれまち 巳御みおのという異質イレギュラーな私を抛っておけなかった」慄いている彼女キリカのおとがいを固定する。

「そうだろう」と耳朶に吹き掛ける様に囁くと頬を赤くした、けれど身体が震えるのは止められないらしく大分混乱しているのは目に見えている、「先輩は…何で、そんな、こ、と、知って…」カタカタと震える姿は可哀想だ。


 「何で、って?」そりゃ呉 巳御は理解していて上下じょうか世界を行き来したのだから。だから「私は君を見殺すわけには行かなくなったというわけさ」さり気無く不自然さを伴って急接近して来た彼女は私の目にはとても目立って映った。

 別に本来は原作通りにキリカという少女が自殺に辿り着いたとしても、それは偶発的な因果と事故でしかない、と割り切った勘定をしていた呉 巳御に彼女は教えたのだ(拙い感情の起伏の美しさを)。「可愛らしい友人に手を差し伸べようじゃないか」

 雷鳴がふたつの陰をてらす、照明も灯らぬ部屋の有様の、せきららを―。



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