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唐突に、  作者: 紅
32/35

約定外

 「まぁ、綺麗な人。」ほぅと溜め息を吐く母のミーハーなことよ、妹も招待(強制)の最中ずっと先輩の腕をはなさなかった(おいおい笑って許してくれているが表面上取り繕っているだけかも知れないのに)。こそこそと耳打ちすると「てか、妹」鳴音めいろだと辛辣な訂正ツッコミがはいった、「う…、鳴音何でこんなこと、若しかして先輩に一目惚れとか?」ハッと鼻で笑い「まさか」と小馬鹿にするのが常の妹である。では何故?

 「くれと言います、鬼灯あかりさんとは年も違うけれど気が合って」と爽やかに不可思議な母をながす先輩は流石だ。「あ、あら!私ったらお客様を持て成さないで!!さぁさ、上がって下さい。鳴音ちゃん、夕時に買っておいた菓子ケーキ御出しして」はぁーいと階段をかけあがって行った妹に言いたい(御前は何がしたかったんだ?!)。

 てっきり台所併設の居間リビングに先輩を招くのかと思えば、案外私の部屋にふたり押し込まれた「す、すみません先輩、家いつもは静かなんですけど…。」如何にも高級そうな嗜好品ケーキはあんまり我が家に似つかわしくない、普段はもっと安価で手頃な値段プライスであるのに。対客仕様の皿もとても上品だ(おや紙切れが私の皿の下にだけ存在している)、ああなるほど合点が行ったあの二人また私をのけ者にして「霧花さんは食べないの?」男装も様に為っているくれまち 巳御みおのは今日も神々しかった。

 大人しく咀嚼しつつ表面下SNSでは―ぴこん「姉はあの男の人捕まえてないともう一生縁無い気がする!」至極失礼な妹は以前の話をまったく記憶して無さそうだし…。母に限っては「そうよ、鬼灯あかりは何だか手に負えないから。あれくらい極上の彼氏に婚約してもらわないと―!?」婚約してもらわないと、貰わないと何だよ?キーボードを連打している間に母が新たにメッセージを送信した「先行きが心配、ほろり」涙する表記につづいてスタンプまで悲愴だった、『この野郎…』腹に据えかねた私が母を追い回す想像をしてしまうのも頷けようと言うもの―スライドしていた画面を消しても続く着信音、ぴこん、びこん、ぴこん、ぴこ、ぴこ…。

 あいつらどれだけ暇なんだ、くっ、こんなことなら操作とか諸々慣れて置くんだったと今更悔やんだところで意味の無い話をやにわに呑み込みつつ、少し涙目になって味のしないケーキをむぐむぐと噛み砕く私。良いんだ、母が何気なく妹の鳴音贔屓だったのなんて今にはじまったことではない、遠い昔母と父が笑い合っていた頃だって「そんなこと無いわ」と否定しながら鳴音の頭を撫でていた(私は段々と、母から心が離れていく気がした)。


 妹は母と父、どちらにも似ていない。しかし私鬼灯は父に似ていた、感情表現が素直じゃない父に。食い掛けそれは味以前に苦く感じた「御腹一杯で」と皿をおいたけれど三分の一も減ってはいない、「鬼灯ちゃん、ちょっと‘それ’貸して貰える?」と先輩は言った。


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