花落ち、香る。2
少々の悲劇と、物語の真実...
「花落ち、香る。」と誰かが呟きます、すると青と黒の世界を構成する靄―霧のような、もしくは煤けた膜のような不確かなモノ―が言の葉を拾いクルクルとまわり始めました。現象を絡め取って、糸を紡ぐように…
あの日、カルファシアだった物体は事切れました。自殺だと判断され、慎ましやかな弔いと為りました。けれど誰一人、カルファシアを責めませんでした。陰鬱な式は悲しみを物語っていました。薄々カルファシアの言動から勘付いていたのかも知れません、
土を被り地中に埋まる彼を『如何して、』涙ながらに縋る人影は宵闇に紛れ誰のものか判然としませんでした。月が明け平穏を取り戻した町は、知らず、知らず彼の存在を忘れて行くのです。
哀しみに浸る人間を、花朽は呆れながら見ていました。
*花朽は妖精に近しい存在ですが、なかでもより不確かな者として誕生しました。便宜上、面倒なので花の精として置きますが実際には違います。
約束の履行として、灯火の尽きかけた赤子の身に宿り。(逞しく育つ予定が)前の年の冬が厳しく家族で路頭に迷いそうになり。少し裕福な医者の家に拾われました、幼子の記憶が確立しないうちに引き取って実際の子供のように育てたかったのでしょう。しかし、その幼子は残念な事に唯凡庸とした人間の子ではありませんでした。
花朽は彷徨していた時、存在の端を小さな手に鷲掴まれ―物々をすり抜ける悪癖が有ったが故に―存外の力強さに払うことも出来ず不承不承遺言に頷くしか有りませんでした。赤子と言っても、まだ生れ落ちても居ない弱者に為すすべなく屈したのです。
「このままだと、おかあさんまで死んでしまう」悲壮な思念が伝わります。明確な意思を口にする言葉も目の開いていない赤子には有りません。だからこそ、より必死なのが伝わって来ました。花朽は不思議とその子の願いを叶えてやろうと、安直に決意しました。うだうだ考えるような複雑な脳(思考回路)を有していない為か、赤子の望みに頷きます。
幾つかの条件を呑むと、赤子の灯火は完全に消え―最後はまるで線香花火のようでした―花朽はその姿に感動すると。気負う事無く赤子の残した器に己の存在を載せました。この時、花朽は自分の記憶を封じて束の間の温もりにまどろみました。
子が願ったのは、母親の命を救うこと。
2015.06.03 11:25改訂




