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唐突に、  作者: 紅
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揶揄遊び、2

 「あの!」勢い込んで言った声は大きくて更に聴衆をふやした(それで しのつ の顔も曇った気がしないでもない)、「良かったら、友達に為って下さい!!」一世一代の告白みたいになってしまったが実際は唯の交友の申し込みだ、面白いなんてこと全然…、‘ない’と覇坩はるは思っていたのだけど―。

 呆れ顔の しのつ は頬まで染めて苛々とした様子だし、何故か差し出した手にそろって男子諸君が似たように覇坩のほうに片腕を突き出していた「こら、阿呆ども(茶化すなよ)。逢瀬は色々打っ飛んでいるけど海士のほうはそうでもないんだから」確かに寸劇とか嫌いそうだ。「「「へいへい(母ちゃん)」」」男子たちの悪びれない返事に、落花らったは何かを察したのか一目散に逃亡するそれらを健脚で追い掛けて行く(平和な風景であった)。


 落花が往なしていたのは男子だけれど、その言葉は愈々うかつな覇坩の身に今になってじわじわと染みてきた。途端に不安が込み上げてくる覇坩のまえで海士睡あまたれ しのつ は背をむけてしまう―颯爽と距離をあけて(邪魔者以外何でもない)覇坩を突き放して歩き去るようにみえた―「待って!!」以前女子達は衆目をそらしていないのに心底後悔して涙に暮れてしまいそうになる。ああ、自業自得だ。再び廻り逢えたことが嬉しくて此処が何処なのかをわすれてしまった、しのつ は女子なんかじゃない!海士睡あまたれなんて名字なんか似合わない!!悔しくておいおいと年甲斐もなく号泣してしまいそうになったとき、廊下じべたにしゃがみ込んでいた覇坩のうえに大きな影ができた。

 「わすれてた」久しく聴き慣れていない、しのつ の声が覇坩の耳朶を震わしたとき。純粋におどろきが過ぎて呆然としてしまった、間抜け顔に序収拾のつかない涙も目端にたまっている(急に頭が冷えてきて己の醜態にひどく無様だと思った)。

 落ち込んでいるのか俯いた逢瀬に しのつ は手を焼いた、如何すれば泣き止むのだろうか、と。そして‘わすれてた’と言ったときに(込み入りそうだから、物理的に連れ出すのをすっかり忘れていたのだが)、しのつ の脳裏には閃くものがあったのだ― 一瞬の刹那に掻消かっきえたけれど―それは彼女が偶発的に公園に紛れ込んだ当時の話ではない。

 もっと遠い昔のはなしだ、そう しのつ 自身もゆめと片付けたあの記憶にるいするもの。

 こん窮まって「ほら」と乱暴に しのつ は逢瀬の顎をもちあげた、毀れる雫がゆるせなくて指先で拭って遣った、羞恥に顔を赤くさせる逢瀬につられて自分も茹だった頃―はて自分は一体何処の気障りな男と入れ替わったのか…と―愕然と己に寒気が涌いて首をふった しのつ は戻って来ていた落花と数名の男子に妙なものを目撃したと言わんばかりの白い視線に晒されて。改めて血が沸騰したのを言い訳に豪快に不思議な転入生を浚ったのであった、入れ違いに「海士ぁー、転入生はお肉じゃないから喰っちゃだめぇ」と気の抜けた担任の声がした(後日「海士が熊にみえた」と担任が言っていたらしい)。


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