揶揄遊び、1
揶揄遊び、と読む。
海士睡 しのつ に幼少期児童共と遊んでいた記憶はない、ゆめのなか―苔生した山奥で育てられたと当人だけは憶えている―両親も、友人も兄もそれは唯の幼児期に起きる現の境がわからなく為っただけだろうと しのつ の戯言を流した。
けれど一人だけ。しょうもない話に乗った輩がいる、「しのつ も憶えていたんだ―」その娘は感無量とばかりに嗚咽を溢していた。保護者に引き離されて以来、一通り逢わずにいたからその少女のことを海士睡 しのつ は(高校当時に彼女が隣の学級に転入してくるまで)すっかり忘れていた。
他の学級の女子がわざわざ。転入初日から人の影がない(要は孤独な)しのつ に急接近したのは皆の目に意外に映った、何を隠そう しのつ 自身もであったから常に況して素っ気無くあしらってしまう、可愛いらしい女子を邪険にする しのつ の態度に男子は俄か殺意を抱き(女子は然も有り難と眉間に皺を寄せた)。「しのつ、すっかり大人に為ったね(競争相手がふえるのは嫌だな)…。ねぇ?彼女とか居る」少し上擦った声音で親しい人物の有無を確認するのは一見気のある素振りに見える、しかし「逢瀬さんって新手の変態、なの?」怯えつつ しのつ は目を逸らした。
周囲の反応も皆、漫ろである。
「あー、その勘違いしているみたいだけど。海士睡さ、一応こんな形でも“女子”なんだよね」気の不味い空間に割って入ったのは日焼けの眩しい落花であった。落花 みゆう 18歳で一学年の学級に在籍しているのは訳がある程度にしか聞いた事がない、けれど当人の落ち着きとまんま姉御肌な彼女は面倒見がよく上手い具合に級友達と馴染んでいた。暫し落花の言葉が呑み込めなかったのか「えっ」と言ったきり二の句の告げない転入生を措いて、「まぁその何だ、ご愁傷様」と我関せずと言っても今更な状況で落花はがたがたと雑な音をたてて自席にすわった(御蔭で漸く起動停止していた面々が日常のように騒ぎ始める)。
放課後引き留められた1年A組(海士睡含む)、『外部アンケートが如何の―』と言っていた担任に腹を立てつつ。隣席の三架に言伝を頼もうと起立した しのつ はやけにきりきりと視線を感じ「何」未だ立ち去らない転入生を睨んだ、身長があり・迫力があり・酷薄にみえる海士睡が尚且つ見下ろしているのだから、些か一学生にはすぎた緊張感に苛まれている彼女に男子はちらと同情した。「ミカって、誰?」(女って怖い)
不躾ではあるが短髪を指差すと(殊勝に)大人しくなった転入生、さて好い加減飽いてしまった しのつ は「もう良いでしょ?勘違いしていたなら互いに痛み分けで済ませようぜ」とでも言って、転入生の腕を取った―その瞬間、男子の殺伐さが得にも益した気がする―鞄を背負ったままでは帰り支度にみえると諦めて戻すと、逢瀬何某を振り向いた。