物書きの杞憂12
『物語の仕舞』
そして後々、ディアーリが騒ぎ出したためにあの面白い怪文書は封が為されることになった。至極悲しそうにする私に「幾ら可愛いお嫁さんの頼みでも、孫を売るわけには行かないわ」なんて微笑みはしたが、実際御茶にでも誘われれば普通に見せてくれる気がする。
まあ、私も怪文書序章に(自身の)心理描写なんて事細かに書き続けられたら、思わず笑が止まらなくて困るけれど。少しだけ、側面に触れる部分が無くもないが腹黒さがよくよく匂う程度だった。痛くもかゆくも無い、唯これを読まれたら確実に候補に逃げられる気がするんだよな。というわけで渋々、御祖母さんが奥に仕舞うのを了承した。
それにしても「人間不信と娶わせるのは諦めてないんですか?」首を傾げる私。魔女は嫣然とわらった「ディアーリもその気が有りますよ」と“ふふ”と微笑を滲ませるのだけど、確信の無い賭け事はきらいだ。「何処が」私は吐き棄てるように言って椅子に膝を抱えあげた―無論靴は脱いで―こじんまり納まる自分が餓鬼みたいだと思った。
先程から不貞腐れ気味の仔猫が尾を揺らすでもなく、コクコクと頭を揺らしている。
器用なことにそのまま寝入ってしまった。驚いているヴェルツエ、ずっと影から覗いていたのに思わず出て来てしまったのね。私はそっと陶器を下げると、「丁度良かった。ヴェルツエ上で寝かしておやり、細い貴方でもそれくらいは出来るでしょう?」何か言いかけて不満だったのか抑え込んだ孫は、『はあ』と溜息を吐く素振りをして仔猫を恭しく尚且つ丁寧に抱えあげた。
恐らく物語に取り込まれた影響で無意識に今の彼女と、登場人物の王を重ねてしまうのでしょう。それさえ直れば満更でもなさそうなのに、「全くじれったいわ」悪びれる事無くその背に言い放ったのをヴェルツエは無視して階上へ行ってしまった。
可愛げのなくなった子ね、
昔は泣きながら私に許しを請うていたのに―ああ、可愛かった―少し御灸を据えようかしら?でも、まだ早いかしら、でも二人のため、ああでも未だ顔見知り程度じゃあ、でも…。ぐらぐら煮詰まらない思考に右往左往、この魔女は考えた。
そして、近々様子をみて仔猫ちゃんを誘ってみましょう。きっと、ヴェルツエだって飛びつくわ。ふふふ、と一人くるくるまわる姿は誰が如何見ても年若い少女にしか見えなかった。
*ヴェルツエはディアーリの名字、彼女は母方。そして父親の死後に末孫をヴェルツエと呼ぶようになったとか。




