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唐突に、  作者: 紅
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物書きの杞憂9

 ディアーリ・ベルチェは瞬間そのを抱き締めていた、『ああ、よかった』と安堵すら抱いたのである。けれど何が良いのだろうか?ディアーリ・ヴェルツエは今、見知らぬ女を抱き締めている。黒い髪に印象はあれ、あまり好みでもない。相手は苦笑しながらヴェルツエを剥がした、バリバリと音が鳴るように感じたが実際は静かなものだ。

 「―んーっと、その顔じゃあ存じ得ないようですね。」まあ仕方ないとか、女が呟いた気がする。堰を一つ、仕切り直すのでもなく唯声の調子を変えた。それだけで何か聞き覚えが有るような気がする。「ディ、アー…リさん、で合ってますよね?俺、久野瀬と言います。早朝7:00頃きっかりに彼方と御会いする機会が有りました、“図書館で”と言えば伝わると思いますが―」声の高さは女のままだが、喋り方は確かにあの“男”のものだ。


 混乱を深めているディアーリに溜飲の下がる思いだが、内心笑っている場合じゃない。ここで話すのも何だから外へと何気なく促す、扉がまた開かないかと思ったが今度は開いた。やはり鍵はこの男に有りそうだ、序に手許に有る本も…。


 林かと思われる景色に見覚えはないが、真正面に建物―恐らく図書館の裏手―が見えた。そうするとここは、馴染み深い近所と言うわけだ。ヴェルツエは考え込む女の持ち物を興味深く覗き込んだ、これって祖父さんの書庫に眠ってた真っ白な本と似ていないか?いや、似ているなんて生温い。瓜二つの相貌だった、ひょいと掻っ攫うと確かめると感触まで一緒だ、けれど―。「ああ、折角の御話なんですから、盗らないで下さいよ」

 久野瀬と名乗った性別不詳の人物が今度は確りと男の声で言い、至極当然のように本を奪い返した。手を差し出されると何故か、逆らってまで本を固持する必要がないのだと使命感のような抗いがたさに心奪われていた。無意識に手渡して所有者のもとへ返すようにしていたのだ。だからと言って、この人に恋焦がれているとか不名誉な話ではない。


 「まあ、読了後は御渡ししても良いですが。代わりに書架に紛れ込ませておいて下さいませんか?あの図書館でみつけたのを、たった今思い出しまして」手を打つような仕草をするが明らかに白々しい。


 しかし、久野瀬とやらが男なのは疑っても仕方ないのか。怪訝に思った「あー、それと別件。ひとつ頼みを、私が女性というのは非常に面倒なので黙認して下さい。戸籍とか手続きは誤魔化せませんが、何かと男装って面白いもので。ちなみに今は変声機マイク仕込んでたので、抱きつかれなかったら白を切るつもりでした!」潔く言い切る内容ではない。

 疲れたヴェルツエは彼女くのせ?が短時間で読み上げた、本を預かり家に帰った。


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