物書きの杞憂7
『王の墓』
壮麗な儀式を前に、ディアーリは跪いた。胸に一抱えもある、アヴィリの花を離別の手向けにして―。幾人、聞き取れるだけで殆どがすすり泣くしんみりとした会場を、ディアーリは堂々と潔く歩き去った。長い紫髪が棚引くのを朝日が見守っていた…。
「…。」何だ、この歴然とした差は、と扱いが雲泥の理不尽に耐えねばならない己が不憫だ!のた打ち回りたいような、それでいて無様過ぎる行動は控えるべしと奥底で理性が囁くような。兎に角腑に落ちないながらも、一旦、本を脇に避けると時計を確認し、十分ほどの仮眠をと考えたら束の間の就寝だ。しかし半刻間延びしてしまった、『ああ、何だか寝たりないけれど…』とは感じつつ。あまり長時間費やしてしまうと、数えが不安になるのは戴けない。仕方なく、割り切って物語の続きを再会する。
明くる日から、追憶に感けられない己を叱咤し現執政長官は心で彼の王に詫びた。近年より儚くなったアヴェリ姫は終に床から起き上がることも儘ならず、私に彼岸花を託すと呟いた。「私を胸に抱いて欲しいの」と屈託なく笑みを浮かべる、けれど直ぐ咳き込んでしまった。給仕が飛んで来て甲斐甲斐しく世話を焼くも、もう残り幾許もないのは明白であった。
鮮烈な赤は彼の方の姫に似合わないが、彼岸花だけは女史の髪結い紐の襞のようで美しかった。それを手短に言葉もなく、不躾に押し付けてしまったが。彼の王は御赦し下さるような気配がするのだ。意味も無く死人に頼する自分に全くらしくない、と頭を振って雑念を払う。
最後の王族も政争に散った、
これより、元宰相アルトラルの猛進劇がはじまる。議会制を強要し、敷いていた割に地位に就くと不正や賄賂を横行した馬鹿者共を一掃し始める。幾度の苦難のすえに、けれど難なく乗り越えるアルトラルと仲間達。しかし、アルトラルは満足しなかった、彼の王の意志を継いで『私はこの国に繁栄を齎すのだ』享年まで言い続けた。
苦節39歳のとき運命の乙女に出会うも、決別し国民一同に望まれ新たに王位に就いた。




