花落ち、香る。
前話とあまり関係が無い、脈絡のない物語...
『檻。』
「鳥籠の御姫様は夢を見ました、何処とも知れない遠い空の果てを自由に飛ぶ夢です―」
枷の無い広い空間、上向きに寝そべり翳した手を弟に笑われました。花朽は広げた頁を下に地面の土塊だった所に置き去りにして、暫らく悪戯好きの弟を追いかけ。捕まえて懲らしめることだけに集中し本の在処を忘れてしまいました…。
カルファシアは不遇の長男です、長年子に恵まれなかった両親は血迷ったのか路頭に迷いそうな貧しい家庭の末の子を一人貰い受け。代わりに餓えないだけの衣食住を保証する契約を交わしました。当の両親はカルファシアに何不自由無く物を与え、愛情を与え、その人格に劣らないだけの教養と知識を与えました。しかし、そんな彼等を周囲の者々は放っては置きません。何せ格好の的なんですから、
「やい、カルファシア!!御前もうすぐ荷物に為るんだろ―指を差しながら―何なら俺の家で貰ってやっても良いぜ、」続く言葉(誹り)を彼は言えませんでした。何故なら温厚で人を殴らない筈のカルファシアの、握り締めた拳が赤く滑っていたのですから。囃し立てていたこどもたちは、我先にけが人を置いて駆け出しました。
「な、なんだよ…」威勢がよいのは口先だけ。厭きれた眼差しのカルファシアにも気付かず殴打された男の子はズルズルと後退して行きます。襟首を掴もうと近づいても碌に動けないようでした、慣れない恐怖に腰が抜けたらしく。暴力に訴えてしまった非は認めていましたが彼の様子を見ていると、腑に落ちない気がします。主に不利益を被るに値しない相手を怒りだけで殴ったのは後にも先にもそれっきりでした。
依然抵抗しようにももがくだけの男の子を引き摺って、カルファシアは憂鬱な家路を帰ったのです。
あ、そうそう。カルファシアの家は良心的な御医者の家系で。カルファシアも少しばかり手習いに軽度の裂傷程度ならば手当出来ます。父親に拳骨を食らい、同じく顔を赤く晴らしたカルシファは相手に睨まれながらも手当に勤しむのでした。
後に産まれた子は待望の男児で皆が皆祝福しました。勿論カルファシアも、です。
カルファシアにははじめから判っていたのです。引き取られた数年後、弟が出来る事も―自分の役目の終わりも―端から見据えていたのです。呆気なく幕を引きました、
(2015.06.03 11:22)
カルシファから、カルファシアに変更した。