物書きの杞憂6
あははは―…、甲高い笑い声は狭い部屋によく響いた。
一週間ほどを時計が数えた。けれど、一向に彼ディアーリは起床しそうにない。無理に起こして後々≪のちのち≫の惨事に見舞われたら目も当てられないので、私は出来うる限り静かに黙して読書に勤しむ。空腹も睡魔も忘れた、と言うよりはこの異常な空間にそれらは付随しないことが判明した。凡そここでは人間味を一部棄てられるらしいと気付いた私、先学習したから一人笑いは辞めておこう。けれど、少し、楽しい気分は収まらない。
この本。とっとと飽きるかとの思いが払拭出来なかった、しかし読み始めると食指が動く。時計の針だけは確認しつつ、だから日付の越えるだけを確認する作業だ。何より悲劇の王の部分、題名だけは私の見せ場に思えた。けれど、静謐なディアーリの心情描写は読者の胸を抉ってなお、病み付きになる中毒性を上奏していた。
単純に私の性格がわるいとか、腹黒いとか、まあ思う。
よく他人(一部)にそう評されていたし、気付かないやつは色々と…、幸せな頭だなとだけ褒めておく。ちなみにディアーリは、不可思議なひとで素性も知らなければ、挨拶程度交わす御近所の御兄さんという認識だけであった。そう私も、彼に仔細を述べたこともないし殆赤の他人だ。
何故、選ばれたのかは今のところ予期にしない。あ、それと付け足す項目が一つ。ディアーリと面対するのは私が暇を持て余す午前中。早朝も良い時分に、明け方の来訪だ。勿論、図書館に。この地域の司書は実に勤勉で―早朝から詰めている場合がある―土日と水曜を抜かす以外、朝早くに開いてくれるのだ。嬉しいことこの上なし、私も人の混雑は不得手だから手っ取り早いだろう?余談として、以前 受付職員に記録媒体を作って貰おうとして驚かれたことがある。身分証として提示したものに不備はない、それでは何故か?と思うだろう。こう見えて私、性別が“女”でね。
初対面の方とか、声も掛けない顔見知りには断然“男”だと思われるらしいんだ。
中々、男栄えする造作の身分に面白いとは思うけれど。一々驚愕を顔に書かなくて良いじゃないか、少し、ほんの少しだけ何かが擦り切れる気持ちがする。何て感傷は似合わないって自負がある私はそれくらい平気さ、慣れすぎて平坦な反応しか返せなくなったけれど。まあ、それも御愛嬌の内さ!
唯、納得行かないのが述中、作者か何か何者か。王の役者が男になってるのは嫌味か?




