物書きの杞憂4
王と宰相のこども時代。多少読み難いかと...)
王と宰相は所謂、幼馴染という間柄だ、ずいぶんと歳が離れていたらしいのだけど。王が婆に小言を食らって泣き伏している時、宰相は父親に見張られて国の重役に勤める者の気構えを説かれていた。彼ら二人の幼少期は正反対である、あまったれ負い目のある王子と、卒のない優等生が並ぶとやはりと言うか反りが合わなかったのだ。
ある日、婆に叱られたのでもなければ、転んだのでもない王子が一人カーテンの裏手で泣いている。如何したのかと尋ねても首を振るばかり、さあ困ったぞと大人達は顔を見合わせた。そこに騒ぎと関係なく訪れた宰相が王子を認めて、「ああ」と言った。大人達は何事かと詰め寄ったがそれを避けて、彼らを締め出した。
「今度は如何したのです?」と優しい笑みを浮かべて麗しい少年が宥める。
幼き子は顔をあげて、再び泣き出してしまった。何でも『自分は泣いてばかりだから、ディーを困らせてしまう』とか。噂に聴きはしたがこの王子が泣いてばかりいる御蔭で、同年代の子供では相手を勤められないと父親が言っていたのを思い出す。確かに時期王、されど泣き虫。憶測だが泣くたびに辛辣なことでも言われて、気が滅入ったのだろう。同年の子供に相手を気遣えとか敬えとか、土台無理な話なのである。
溜息をつきたいのを堪えて「ディーはずっと、あなたの御傍におりますよ」と嘯けば花が咲くように…。笑わずに目を見開いていた、せめて泣き止んでくれたのは良いが。何故驚かれたのだろう?か。
「あれも気に入らないのか?」と壮年の男が訊ねた。
「いいえ。気に入りました、ですから傍仕えに欲しいのですが…」無理ですねと言外に匂わす幼児。諦めてはいるらしい様子に男は安堵した「仕方ない、将来は宰相にと目される麒麟児だからな」と独白する。自然笑みが毀れ、つられて幼児も笑った。
無理を通せば、希望を叶えられるのにそれをしないのは自らに課した秩序だ。
「けれど御前の供にする分には自由に使えよう」ええと恭しく頷いて、幼児は退室の許可を願った。
重々しい扉が背後で閉まった。空気の流れが凄まじい静謐な間に、泣き虫王子の己がいるのは随分と複雑な思いだ。誰かに見られるのも気分が悪いので早々に歩き去った、数年後王子の隣には背の高い青年が連れ添うことになる。