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唐突に、  作者: 紅
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物書きの杞憂3


 現執政長官(元宰相)アルトラルは溜息をついた。主が王制を崩してから幾年がたち、ゆるやかに国民たちはそれに馴染むけれど、未だ遣る瀬無く思う者や納得出来ていない者は多い。過半数は国民(市民)がにぎり民主世論に移行したわが国には王政を復古させるすべが無い。別に王達が愚かで嫌気が差したのでもない、ただ今の王子―…、いや王が突然の廃止を求めたのだ。一人きり決めたのでもなければ、有力諸氏を招き討論を重ねた結果それを勝ち取った。ここで勝ち取ると表現するのも―王一人が廃止を訴え―諸氏は反対意志を掲げていたからだ。誰も王制に不満を抱いてはいなかった、海外にくらべ安穏とし過激な差別等を行わない国に不満を抱けるのは余程少数だ。

 それも“現国王”がであったから、皆目から鱗を零さんばかりだった。最悪なことに宰相不在の時期に起こった椿事であった為、至急駆けつけた私に事の顛末を楽しそうに語る王を止められなかった。何としてでも止めるべきであった私は憤懣たる思いで俯いた、無念が過ぎて痛みに変わるのをこのとき理解した。握り締めた掌が衣装を巻き込んで動かなくなっていた、泣き笑いのような表情で「そんなに嫌かい?」と王だった男は固まった手を解きに掛かった。


 それからは互いに忙殺され会うことも儘為らなかった、必要の無くなった王の処遇に複雑な顔をしたものの。結局、王だった頃と変わりないまま、城に措かれた。警備も裕福に着飾った人員もすべて撤退した城に。


 数ヶ月が経ちやっと彼の方と、面会する自由を与えられた。頻繁に会うことは憚られるものの、それでも如何にか一年単位で会いに行っている。そして当惑した、見事に窶れていたからだ―美しくもないが整った落ち着いた顔つきに稀に見る黒髪、未婚の王族と有数の娘たちが持て囃していたのを知っている。―細かった外見がさらに際立ち、頬も何処となく扱けているのだ。一体何が有ったのかを、問うよりも手土産の籠を徐に台所と思しき場所へ持ち込み、いそいそとその皮を剥き始めた。

 宰相なんてものに従事していた手前、果物の皮等剥いたこともない。けれど、存外するすると滑って一括りの皮は床に落ちる。唖然と口を開き、目を瞠っている王に無礼千万ではあるが―半開きの口の隙間から切り分けた果実ソレを押し入れた―林檎をゆっくり咀嚼し始めるさまは栗鼠のようである。シャリシャリと無言の間に響く、間抜けた音。如何にもこの王は放って置けないと心に留めたのだった。


 苦労性の宰相は、それから何かにつけて王の世話を焼くようになった。


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