むかしばなし
むかしむかし、このせかいにはいろいろなしゅぞくがくらしていました。
かれらはなかよく、そう、とてもなかよくくらしていました。
でも、それをよくおもわないかみさまがいました。
かみさまはさびしかったのです。わすれられてしまうじぶんが。
やがて、かみさまはさびしさのあまりくるってしまいました。
せかいのあちこちでわるさをしては、それをなかったことにしていました。
かれらはこまりました。かみさまがなにをしても、かれらにはそれがわかりませんでした。
ともだちがいなくなりました。
こいびとがいなくなりました。
たべものがなくなりました。
ちちおやがいなくなりました。
おうさまがいなくなりました。
いなくなったことはわかっても、だれがなにをしたのかはわかりませんでした。
そのうち、あるひとがそとのせかいからひとをよびます。
このせかいのうまれではないそのひとは、わるいかみさまをわすれませんでした。
そのころ、かみさまはさびしかったこともわすれていました。
かみさまとそのひとのたたかいは、いちねんにわたってつづきました。
かれらは、やがてかみさまのことをわすれられないようになりました。
そして、みながきょうりょくして、なんとかそのかみさまをたおしました。
かみさまはいいました。
「このせかいにのろいをのこす。きみたちは、けっしてもとにもどれない」
そしてかみさまはさいごのちからをつかい、せかいにのろいをのこしました。
あるしゅぞくは、かみさまのことをかんぜんにわすれました。
そのしゅぞくはとまどいます。
ともがたたかってしんだ。――なにと?
こいびとがぶきをくれた。――どうして?
たべものはいっぱいなくなった。――だれがたべた?
おもいだせません。まるで、ふしぎなことでした。
そして、そのしゅぞくはふあんにたえきれませんでした。
ほかのしゅぞくをうたがいはじめました。
ほかのしゅぞくがわるいかみさまのことをいくらいっても、かれらはとまりません。
なにもしらないまま、したしいひとがきえてしまうかもしれないきょうふにたえきれませんでした。
かれらとほかのしゅぞくの、ながい、ながいたたかいがはじまりました。
それは、いまだにおわることなく――。
かれらは、うたがいのこころをけしさることができず。
わるいかみさまののろいで、うつくしかったせかいはいろあせたままです。
――忘れ去られた歴史の真実を語る上で貴重かつ神秘に満ちあふれた古の童話より




