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掌の自由  作者: まとの
8/8

お気に入りの下着

 どうにも苦手な下着がある。

 デザインに惹かれて購入したのだが、履き心地が悪いのだ。好きな柄なので、ついタンスから選んで履いてしまうのだが、そのたびに気持ち悪い感触に包まれる。見た目は好きなので脱ぐ気はないが、この肌触りを残念に思いながら一日を過ごす羽目になるのだ。

「君はなんでこんな履き心地なんだい?」

 今日もまた履いてしまった下着に対し、愚痴を吐いてみる。勿論返答など期待していない。単なる独り言である。

「そりゃあ、尻の形が私と合っていないからだよ」

 どこからか声が聞こえた。驚いて周囲を見渡すが、誰の姿も見えない。

「こっちだよ、こっち。あんたが履いている下着だよ」

 下を向くと確かにそこから声が聞こえた。なんと、自分は夢でも見ているのだろうか?

 夢ならこれは面白い。私は下着との会話を試みることにした。

「やあ、下着さん。お尻の形が合ってないとはどういう意味なのかい?」

「そのまんまの意味だね。私と君の尻の相性が悪いのさ」

「どうしたら相性が良くなるんだい?」

「どうもこうも、それは無理な話だね。水と油の話は知ってるだろ?それくらい、これはもう仕方のない話なのさ」

 それは困る。私はこの下着の柄が気に入っているのだ。

「そんなに無理だと言われたら、私はもう君を履くことが出来ないじゃないか。それともこれからも我慢して履けというかい?」

「そこまでして履いてもらうなんて、真っ平ごめんだね」

 そういって下着は言葉を切った。それはつまり……。

「でも、私はあなたを気に入っているだがね」

 私は焦って説得を試みる。下着から小さな失笑が聞こえた気がした。

「自分の何をそんなに気に入ってくれたのか……。けどいいかい?君が私を履いて違和感があるように、私も君に履かれて同じ気分を味わっているんだ」

 その言葉に私は決意を固めた。するすると下着を脱ぐ。

「分かったよ。今までありがとう」

 掲げた下着に対し、深々と一礼する。頭上から「ありがとう」の声と気持ちが伝わってきた。

 私は下着を丁寧に畳み、ゴミ箱に捨てた。

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