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掌の自由  作者: まとの
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虹の島公園

 この町には小さな公園がある。公園をぐるりと囲う壁に描かれているのは、大小様々ないくつもの雲と、そこに架かるいくつもの虹だ。公園の中心には敷地の三分の一は占めているであろう砂場があり、その枠は空色に塗られていた。そしてアクセントとして所どころに虹色の線が引かれている。

 虹の架かる空をモチーフにしたこの公園は、通称「虹の島公園」と呼ばれている。


 その虹の島公園の片隅に、車のタイヤを横倒しにした程度の大きさの水たまりが出来ていた。そこに映るは眩しいほど青い空と七色の虹。公園に描かれている虹ではない。空に架かっている自然現象の虹だ。

 雨上がりの猛暑日。普段ならなんと風流なことだろうと、カキ氷片手にこの地に落ちた空を味わいたいところである。しかし今日のこれを楽しむには、どうやら強靭な心か恐ろしいほどの鈍感さが必要なようだった。

 水たまりに映る虹が、なんときれいな真円を描いているのだ。

 空を仰ぎ見ても、そこには見慣れた虹が大きく半円を描いているだけである。摩訶不思議な現象が起きているのは水たまりの中だけのようだ。背筋が寒くなる。今まで培ってきた知識や常識でこの状況を自身に説明しようと試みるが、どうしても現実的とは言えないものしか思い浮かばない。

 混乱に陥りそうになる中、私はふとある言葉を思い出した。

「虹のふもとには宝物がある」

 他愛もない伝説だ。しかしどうにも頭から離れない。

 虹のふもと。端のない円い虹。もしや、これは……。

 ただの勘に過ぎないが、胸の高鳴りがこれまでに無いほどになる。

 私は思い切って水たまりの中心、虹の輪の真ん中に足を踏み入れることにしてみた。ずぶり、と足首までのめり込む。思わず短い声を上げてしまった。水たまりがこんなに深いはずないのだ。

 慌てて引っこ抜こうとするが、まるで何かに引っ張られているかのように足が動かない。それどころか足はどんどんと水たまりに飲み込まれていく。助けを求めようと辺りを見渡すが、公園には私しか居ない。

 抵抗空しく、私は頭の先まで水に引き込まれてしまった。


 気が付くと、眼下には見たことのない巨大な都市が広がっていた。私の足元には何もない。花びらが舞い落ちるよりも遅く、ゆったりと宙を落下していた。

 材料すら想像できない奇妙な造形の建物。空には幾重にも虹が架かっていた。その上を、サイ程の大きさの不思議な動物が、もうすぐ女性と呼んでも良いであろう少女を乗せて、何組も歩いている。まるで七色の立体交差点のようだ。

 動物は少女の背丈をも越す大きさの筆を口に咥えていた。その毛先は虹に触れ、より鮮やかな七色に塗り替えていく。私は自身が空から落ちているという異常事態をも忘れ、その美しい光景に見入っていた。

 はっとある少女が私に気が付いた。目が合う。そして目に見て取れる程に慌て出した。その様子が面白くクスクスと笑っていると、少女は私に向かって大きく両手を広げた。そして力強く手を合わせ、大きな音を響かせる。

 

 その瞬間、私の意識は闇に呑まれた。


 気付くと、私は砂場の真ん中で大の字になって寝ていた。起き上がると雨に濡れた砂が背中に張り付いて気持ちが悪い。

 水たまりのあった場所に走ると、そこには私の頭上にあるものと、まったく同じ空が映し出されているだけだった。足を踏み入れたら、水が跳ねた。

 白昼夢でも見ていたのだろうか。

 私の足を中心に波紋が広がり、水たまりには何が映し出されているのか判別がつかなくなる。それが落ち着く前にもう片方の足も踏み入れ、そのまま水たまりを脱出し、私は公園を後にした。

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