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掌の自由  作者: まとの
2/8

アヒルの行進

 その日は天気と気分が良かったので、普段から人気のない河原を歌いながら散歩してみた。曲目は昔によくテレビコマーシャルで流れていたアヒルの歌だ。

 道端で見つけた猫じゃらしを片手に気持ちよく歩いていると、背中からグワッという鳴き声が聞こえてきた。歌を中断して振り返る。すると一匹のアヒルが尻を振りながら逃げていくところだった。

私の歌に誘われて来たのだろうか。まさかな。

 気を取り直し、再度一番始めから歌い始める。

 グワッ。

 アヒルの鳴き声だ。

 グワッ、グワッ。

 しかも今度は一匹ではない。私は歌い続けながら、振り返ってみた。三匹のアヒルが尻を振りながら逃げていった。

 振り返ると逃げるのか?

 私は前に向き直り、そのまま歌と歩を進める。

 グワッグワッグワッ。

 背後を見たりしない。

 グワッグワッグワッグワッグワッグワッグワッ。鳴き声は増えていく一方だ。

 グワッグワッグワッグワッグワッグワッグワッグワッグワッグワッグワッグワッ……。

 だんだんと恐ろしくなってきた私は、既に自分の意思では背中の様子を伺うことが出来なくなっていた。何十羽、いやもしかしたら何百羽のアヒルが私の後ろを行進しているのだろう。歌はもうじき終わる。そうしたらこのアヒル達は振り返った時と同じように逃げ去ってくれるのだろうか。

 強く目を閉じ、私は最後の一小節を歌い終えた。同時に歩みも止める。

 アヒルの声も、共に聞こえなくなった。川のせせらぎだけが音を奏でている。ああ、振り返りたくない。しかし、いつまでもこうしている訳にもいかない。

 大きく息を吸い込んでから、意を決して振り返る。するとそこには、まるで端の見えない長すぎる白い絨毯のようなアヒルの隊列が出来上がっていた。一体どこからこんなにもやって来たというのだろう。そして今度は逃げないのだ。いや、私の視界に入っていない遠くのアヒル達は、既に逃げ始めているのかもしれない。しかし少なくとも私が見える範囲にいる彼らは、じっとこちらを見つめているのだ。

 その不気味な光景に、私は背を向け一目散に逃げ出そうとした。しかしそれは出来なかった。足を一歩後ろに踏み出すと、数え切れぬほどのアヒル達が一斉に一声だけ鳴いたのだ。そして次々と大空へ飛び立っていった。

 耳を塞ぎたくなるほどの羽音は、何故か私には温かい拍手に聞こえた。

 そうか。彼らは先ほどまで私と共に歌い行進をした、観客であり音楽隊だったのだ。

 それに気付いた私は、空に向け大きな拍手を返した。

 仲間達よ、素晴らしい演奏だったぞ。

 最後の一羽が見えなくなるまで、私達は互いを賞賛し続けた。


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