表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

人員点呼・・・後編

 ビデオを見た夜、私はほとんど眠れなかった。あの笑顔、一瞬だけ映った女の子、誰なのかどうしても、思い出せない。


翌朝、母に切り出した。

 「キャンプのビデオ見たんだけど・・・」

一瞬母の顔はくもらせた。

 「あれ、見たのね」

 「誰かいなくなった子いたよね」

母は目を逸らした。

 「いなくなった、なんてことはないんだよ、ただ最初からいなかったのよ」


 「えっ・・・っ、どういゆうこと?」

 「名簿にも、写真にも最初から載ってなかった、でも、あの夜だけはみんなが、『一人足りない』って言いだして、先生たちも一瞬パニックになって・・・すぐに"気のせい"ってことにしたんだよ」


私は青ざめた。

 「それって、意味が理解できない・・・」

母はめんどくさそうに、ため息をついた。

 「私たち大人はあの子が存在していたことにしては、ならないって、決めたのよ、だからみんな、忘れることにしたの、忘れれば、なかったことになるからって・・・っ」


 「うっ・・・っそ、そんなのおかしいよ」

 「おかしいのはわかってる、存在をみとめたら、もっと怖いことが起こるって、みんな感じたのよ」

母は、そこで言葉を切り沈黙の後、更に続けた。

 「みゆちゃんも同じこと言ってたのよ、"隣にいた子が朝になったら、いなくなってた"って、でもみゆちゃんのお母さんが、凄い顔で『そんな子はいない』って、言ったの、それ以来みゆちゃんもその話はしなくなったわ もお、数年前の話なんだからいいでしょっ・・・」


私は震えがとまらなかった。

あの余白は誰かが意図的に消したものじゃなかった。

最初からそこに"いなかったことに"されていた空白だった。


 でも、私にビデオの中の笑顔も見えてしまった。


その夜また声がした。

今度ははっきりと名前を呼ばれた。

 「ねぇ、覚えててくれる?」


怖いというより、寂しそうだった。

 私は布団の中で初めて声に応えた。

 「うん、覚えているよ」

暗闇の中で、微かに笑うような息が聞こえた。

 「ありがとう、じゃぁ、もういいよね」

その瞬間部屋の空気は急に軽くなった。


私は布団に顔を埋め、泣いた。何に対して泣いているのか自分でもわからなかった。

 ただ、大切な何かを、ようやく手放せたような気がした。




それから数日後、もう一度あの集合写真を見直した。

二十二人と先生二人。あの空白

今回は空白じゃなかった。一番後ろの列左から三番目、そこにちゃんと

女の子が立って、髪は肩くらい、大きい目で、笑うと歯茎が見える。

名札にはかすれたマジックで、「さくら」と書いてある。


 さくら・・・その名前を思い出した。さくらはいつも一人でいることが多かった。キャンプの夜、私の隣の布団にいて、消灯の後、こっそり声かけてきた。

 「ねえ、虫つかまえて、持って帰ったら怒られるかなぁ・・・」

 

 「私は虫すっごく怖いんだよねぇ でも、みんなと一緒なら平気かも」


そんな他愛もない会話をしたけど、それが最後の会話になったなんて。



ビデオの一瞬見えた子はさくらだ。さくらの笑顔はどこか寂しそうで、安心した顔にも見えた。


そしてキャンプの研修施設のことを調べた。ネットには何も出てこなかった。事件・行方不明者も、何も。



ただ、ひとつ、古い掲示板に、誰かが投稿した一文を見つけた。

 【〇〇キャンプの夜、誰かが消えたっていう、噂で、結局誰も、消えていなかったことにされたらしい】それだけだった。


その書き込みに返信した。

  "いたよ、さくらちゃん、覚えてるよ"

返信をタップしたとき胸の奥にあった、重い塊がようやく溶けるように消えた。


それ以来、夜中に声がすることがなくなった。


あの夏の夜、確かにさくらはそこにいたことを私は知っている。

 さくらはどこへ行ったんだろう。本当に最初から、いないことにされて、それでよかったんだろうか?


だから、私はあの集合写真を怖いとは思わなくなった。



ただ、毎年夏になると、ふと、夜空を見上げて小さな声で呟く。

 『さくらちゃん、元気?』


そして私はゆっくり目を閉じ眠りにつく。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ