人員点呼・・・前編
二十七年ぶりに見たあの写真は、思ったより色褪せていた。
体育館の床に整列した小学一年生の集合写真だった。二十二人の生徒、先生二人。背景には「〇〇年度 夏の自然体験キャンプ」と書かれた垂れ幕。
一番後ろの列、左から三番目のあたりに妙な空白がある。誰かが立っていたような跡。でも、姿は写っていない。んっ、"いたはずの誰か"が最初から存在しなかったように細工されているようにも見える。
他の二十一人はちゃんと写っている。笑ったり目を逸らしたり、先生の肩に手を置いて、どこにでもある風景の記念写真のはず・・・。
あの夜の事は思い出したくなかった。思い出そうとすると胸の奥がザワザワするからだ。
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キャンプの夜、二十二時を少し過ぎた頃だったと思う。私たちは体育館に敷かれた布団に潜り込んでこそこそしゃべって、懐中電灯を天井に向けて影絵を作っていたりしてたから、先生の"もう、寝なさい"の声が三回くらい聞えた。
やっと静かになったその後で、ポツリと言った声が聞こえてきた。
「あれ?」
「一人いないよね?」小さな声だけどハッキリした声だった。私は布団の中で目を開けた。
暗闇の中で他の子たちが、ザワザワし始めて、すぐに先生の声が聞こえてきた。
「大丈夫よ、すぐに戻るから、みんなは早く寝るのよ」
懐中電灯の光が何本か、体育館の外へ伸びていくのが見えた。
ザワザワしていた子供たちは先生に言われた通り、布団に潜り、私も潜った。
でも、なんか眠れなかった記憶だ。
どれくらい時間が経過したのか、外から先生たちの声が聞こえてきた。
「・・・どこにも見当たらない」
「名簿は?」/「もお、いいんじゃない」
何か、間違っていることが起こっていると、当時六歳の私は理解した。
翌朝、朝礼で先生が「人員点呼」をした。名前が呼ばれるたびに、”はいっ"と元気な声が返る。
二十二回目名前が呼ばれた「はい」と返ってきた。
「異常なし」
先生はそう言って、にっこり笑った。誰も何も言わなかった。
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空白の場所、すぐ隣に写っている女の子は確か"みゆちゃん"だったと思う。
彼女の左肩が少しだけ内側に傾いている。
誰かの肩に手を置いて、誰もいなくて途中で止まっているような角度。
あの空白に誰がいたのか?名前は誰なのか?思い出そうとするとズギズキする。"考えちゃいけない"と見えない誰かに押さえつけられているみたいに・・・。
もう一つ覚えていることがある。
それは朝礼の後のみゆちゃんが、『昨日の夜さ、私隣に誰かいた気がするんだよね』と小さな声で私に言ったこと。
私は何も答えられなかった。
少しだけ、みゆちゃんの目が怯えているように見えた記憶は残っている。




