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人員点呼・・・前編

二十七年ぶりに見たあの写真は、思ったより色褪せていた。


 体育館の床に整列した小学一年生の集合写真だった。二十二人の生徒、先生二人。背景には「〇〇年度 夏の自然体験キャンプ」と書かれた垂れ幕。


一番後ろの列、左から三番目のあたりに妙な空白がある。誰かが立っていたような跡。でも、姿は写っていない。んっ、"いたはずの誰か"が最初から存在しなかったように細工されているようにも見える。


他の二十一人はちゃんと写っている。笑ったり目を逸らしたり、先生の肩に手を置いて、どこにでもある風景の記念写真のはず・・・。


あの夜の事は思い出したくなかった。思い出そうとすると胸の奥がザワザワするからだ。


♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


キャンプの夜、二十二時を少し過ぎた頃だったと思う。私たちは体育館に敷かれた布団に潜り込んでこそこそしゃべって、懐中電灯を天井に向けて影絵を作っていたりしてたから、先生の"もう、寝なさい"の声が三回くらい聞えた。


 やっと静かになったその後で、ポツリと言った声が聞こえてきた。

 「あれ?」

 「一人いないよね?」小さな声だけどハッキリした声だった。私は布団の中で目を開けた。


 暗闇の中で他の子たちが、ザワザワし始めて、すぐに先生の声が聞こえてきた。

 「大丈夫よ、すぐに戻るから、みんなは早く寝るのよ」


懐中電灯の光が何本か、体育館の外へ伸びていくのが見えた。

ザワザワしていた子供たちは先生に言われた通り、布団に潜り、私も潜った。

でも、なんか眠れなかった記憶だ。


どれくらい時間が経過したのか、外から先生たちの声が聞こえてきた。

 「・・・どこにも見当たらない」

 「名簿は?」/「もお、いいんじゃない」

何か、間違っていることが起こっていると、当時六歳の私は理解した。


翌朝、朝礼で先生が「人員点呼」をした。名前が呼ばれるたびに、”はいっ"と元気な声が返る。

二十二回目名前が呼ばれた「はい」と返ってきた。

 「異常なし」


先生はそう言って、にっこり笑った。誰も何も言わなかった。


♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


空白の場所、すぐ隣に写っている女の子は確か"みゆちゃん"だったと思う。

彼女の左肩が少しだけ内側に傾いている。

 誰かの肩に手を置いて、誰もいなくて途中で止まっているような角度。


あの空白に誰がいたのか?名前は誰なのか?思い出そうとするとズギズキする。"考えちゃいけない"と見えない誰かに押さえつけられているみたいに・・・。

 


 もう一つ覚えていることがある。

それは朝礼の後のみゆちゃんが、『昨日の夜さ、私隣に誰かいた気がするんだよね』と小さな声で私に言ったこと。

私は何も答えられなかった。

 少しだけ、みゆちゃんの目が怯えているように見えた記憶は残っている。




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