第8話 護符屋
渡された紙に書かれていたのは、
“ソルシア地区 ウルスラ”だけだった。
クロエにソルシア地区の行き方を聞き、別れた。
法廷から歩いて向かうと30分程かかった。
ソルシア地区は上流階級の住宅街で、
清潔で整然とした街並みだった。
貧民街の屋根裏にある弁護事務所とは大違いだ。
身なりが汚いからか、周囲の人からは嫌悪感を
隠そうともしない侮蔑の眼差しを向けられた。
残る手掛かりは”ウルスラ”という名前しかない。
広場のベンチで座っている男性に話しかけた。
「すみません、ソルシア地区のウルスラさんに
会いたいのですが」
「ウルスラさん?護符屋の?」
護符屋が何か分からないが、場所を聞いた。
広場から少し奥まった通りを進んだところに
店を構えているという。
お礼を言って、教えてもらった通りに進む。
”護符屋”の看板が掛かった店は、
周囲の店とは明確に雰囲気が異なった。
護符と思われるお札が建物に沢山貼られているのだ。
2度ノックした後に扉を開ける。
すると、何か紙らしき物が飛ばされて来た。
「この店は完全予約制よ。出ていって!」
その紙は体にべたりと貼り付き、
一切身動き出来なくなった。
「あなた、誰?」
店主は若い女性だった。
魔術師らしい帽子とローブを身に付けている。
「あの、エルディオからウルスラさんの所に行け、
と言われて来たのですが」
「エルディオ?あの不出来なバカ?
今、捕まっているんじゃないの?」
「そうです。僕、彼の弁護官をしています」
「あ、そういうこと」
体を縛り付けていた何かは急に無くなった。
「あいつは、何を貰いに行けとか言ってた?」
「いえ、時間がなかったので何も言われず…」
ウルスラは少しだけ後ろの棚を振り返った。
「あなたはどんな魔法を使うの?」
「いえ、魔法は一切使えません」
「珍しいね。生活魔法も?」
「はい、使えません」
試した事は無いが、魔法は一切使えないと
神らしきものが断言したのだから間違いないだろう。
「確かに、周りのマナが全く近づこうとしないね。
アイツはそれを心配したのか…」
ウルスラは少し真剣に考える素振りを見せた後、
もう一度質問した。
「アイツ、今どうしてる?能天気にしてる?」
アイツというのはエルディオのことだろう。
「いえ、裁判後は結構落ち込んでいるようでした。
裁判前は結構浮ついた感じもあったのですが」
ウルスラは大きな笑い声を上げた。
「裁判で何があったか教えてくれる?」
今日の法廷での審理をかい摘んで説明した。
「なるほど、理解したわ。エルディオはあなたの身に
危険が及ぶ事をと危惧してるみたいね」
「そうなんですか?」
「あなたが今日の審理で敵に回したのは、断罪官、
調査官、宮廷術師、王国軍。この4つ。自覚ある?」
「全く無いです。何故ですか?断罪官は分かりますが」
「あなたって、何も分かっていないのね…。
法廷での勇敢な弁護は、無知故ってことね。」
「弁護官の助手になったばかりで。教えてください」
「いいわ。その無知がエルディオを延命したんだもの」




