第7話 敏腕記者
法廷を出ると、記者を名乗る女性に呼び止められた。
年齢的には成人のようだが、子どもぐらいの背丈だ。
この世界にもマスコミがいるのか。
「ユウヤ弁護官。凄い戦いでしたね」
賞賛か皮肉か、表情からは判断できなかった。
「どうも」
「今回が初弁護というのは本当ですか?」
「はい、そうです。助手になったばかりです」
その後、矢継ぎ早に質問が投げられた。
適当に答え、その場を切り上げようとした。
「時間が無いので依頼者の所に行っていいですか?」
「私も同行します」
「いえ、次の裁判に向けた面談なのでご遠慮ください」
断った瞬間、殺し文句が出た。
「同行できるなら、擁護記事を今後書けますよ?」
味方は皆無なので、どんな形でも助力は必要だ。
牢屋に行くと、エルディオは横になっていた。
かなり精神的に疲れたのだろう。
連れ立った記者を見ると、驚いた顔をした。
「“密告者”クロエが、何でここに!?」
「知り合いなのか?」
「知り合いじゃない。誰もが知る有名人だ」
クロエは照れた表情を見せた。
確かに、綺麗な顔立ちなので人気者でも納得だ。
エルディオの喋りは止まらない。
「大臣の収賄、舞台女優の不倫、軍団長の痴態など、
数々の大スクープを連発した有名記者だ!」
それを聞いて、2つの疑問が浮かんだ。
「そんな人が、何故この裁判を取材するんですか?」
クロエはこちらの表情をじっと観察していた。
「面白い裁判になるって、聞いてね」
「…? 誰に聞いたんですか?」
思い当たる節が全くない。
「秘密。取材源は明かせません!」
「あと、顔が広く知られているならどうやって
隠密にスクープを調べるんですか?」
「それも秘密。」
「じゃあ、この面会も秘密でいいですよね」
「…分かったわ。後であなた達に有利な情報を
1つ提供するから取材させて!」
「…いいですよ」
こちらには隠す程の情報も無い。
エルディオの方に向き直る。
「裁判の進め方で問題はあったか?」
「殴った事を認めた時、見捨てられたと思った」
確かに、事前に説明していなかった。
「あれぐらいの傷害罪は禁錮1ヶ月か、
ギルドへの奉仕活動3ヶ月ぐらいかな」
クロエが口を挟んだ。予想より重い刑罰だ。
弁明するしかない。
「すまない。被害者側が炎術魔法を使ったという
主張に持っていく為には仕方なかった」
「ああ、分かっている」
「炎術魔法について詳しく教えてほしい。
エルディオだけでなく、被害者が使っていたものも」
「炎術魔法は空気中のマナを炎に変える。
一口に炎と言っても千差万別だ。
被害者のカインの炎の特徴は、その持久性。
自然の炎と違って、対象を1日でも燃やし続ける」
巧拙や大小あれど、炎魔法は全部同じと思っていた。
性質も違うのか。
「俺の炎は青色だ。理由は知らないが。
範囲もそれほど広くない、持続性も無い」
「今日、断罪官の鑑定で表示された焼死体は
見たか?燃え方からどういう炎か分かるか?」
エルディオは下を向き、熟考した。
「カインの炎は、持続性はあるが火力は無い。
あんな風に焼け焦げたりしない」
クロエが再び割り込んだ。
「もし、エルディオの炎だったら?」
「ああいう焼死体になるだろうね」
早めに聞いておいて良かった。次の法廷で
断罪官からはその点を指摘されるだろう。
つまり、こちら側は被害者でもエルディオでもない
第3者の炎魔法による殺人の可能性を、
具体的な根拠を基に提示する必要がある。
「魔法に詳しくないから教えてほしい。
魔法にはどんな種類があるんだ?」
「炎、風、雷、氷、水、木、土、闇、聖、無。
合計10属性だ」
「魔法の属性は1人につき1つ?」
「ああ、それは神が決めた絶対だ。
生まれつき決まっている。」
少し考えてから聞いてみた。
「炎魔法に近い属性はないか?」
エルディオは首を振った。
「10属性は完全に独立している。近い属性は無い」
その時刑務官が怒鳴った。
「面会終了だ!下がれ!!」
エルディオが牢越しに折り畳まれた紙を渡してきた。
「この場所に行け!ーー必ず、助けになるはずだ」
訳も分からず紙を受け取り、
睨む刑務官に頭を下げつつその場を立ち去った。




