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マギア・フォレンジクス 〜スキルが真実を決める異世界法廷にロジックで抗う〜  作者: 里中 汪


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第6話 初めての弁護

第2法廷は、すでに結論を出し終えている

空気だった。裁くために集まったのではない。

形式上の手続きを終わらせる為に集まった―

そう言った方が正確だ。


被告人は中央に立たされている。

炎の魔術師。青い炎の使い手。

今日は、いつもの軽薄さが消えていた。


観衆の視線が弁護席に向けられる。

そこに立っているのが見慣れない顔だからだ。

弁護官代理。その肩書きがどれほど無力かを

この場の全員が知っている。


審問官が開廷を宣言する。

断罪官が一歩前に出た。

フリューゲルは威厳のある初老の男だった。

百戦錬磨を思わせる雰囲気だ。

「鑑定結果を報告する」


宙に光が浮かぶ。

「被害者は宮廷魔術師の補佐官。

 名前はカイン。25歳。

 死因は焼死。魔力残滓は炎属性。

 右頬に打撃痕があるが、致死性なし。」


一切の感情を挟まない声音。

それが、この世界では「公平」を意味する。


「調査官の報告で、被告人が被害者の部屋に

押し入ったとの目撃証言と、その後口論と

争う物音を聞いたとの報告があります。

断罪官側は、被告人による殺害を主張します。

以上です」


短い。だが、この法廷ではそれで人が裁ける。

審問官が被告人であるエルディオを見る。


「罪状の認否は?」

「……否認します。殺していない」


声は低く、小さかった。

だが、否定の言葉はそれだけだった。


審問官は、すぐに弁護席へ視線を移す。

「弁護官代理。断罪官の主張に異議は?」


一瞬の沈黙。

「あります」

法廷が、ざわついた。

「ただし、鑑定結果そのものにではありません」


断罪官の眉が、わずかに動く。

「鑑定は正しい。ここに疑義はありません」

はっきりと言った。ここは争点ではない。

「死因が焼死であることも、魔力残滓が炎属性

であることも否定しません」


空気が変わる。

エルディオが、驚いたようにこちらを見る。


「では何を争う?」

審問官の声は落ち着いている。

興味よりも、手続きを重視する声だ。


「順番です」

短く答えた。


断罪官が口を挟む。

「何の順番だ」

「起きたことの順番です。事件当日に

何が起きたかを1つずつ明らかにすべきです」


調査官が資料を読み上げる。

「目撃者によると、事件前に被告人と被害者が

部屋に入り、その後、口論が発生。その際、

被告人が被害者に暴行を加えた可能性あり」


議論の主導権は渡さない。

「可能性ではありません」

予想外の言葉を法廷に落とす。

「被告人は、殴っています」


法廷が一瞬静寂に包まれ、

その後大きなざわめきが起こった。

「静粛に!神聖な法廷です!」

審問官が声を上げた。

被告人がこちらを睨む。明確な敵意。


「事実です」

断罪官が一歩前に出る。

「では、罪を認めるんですか」

「傷害については、そうです。

致死行為ではありません」

あえて、区切った。


審問官が指を組む。

「続けろ」

エルディオは、ようやく口を開いた。

「……殴った。確かに」

視線を逸らす。

「だが、その後、相手は反撃の炎魔法を使った」

記録官が公式文書に記載する。

審問官は詰問する。

「その魔法を受けたあと、被告人はどうした」

「逃げた」

被告人は吐き捨てるように言った。

「……怖くなってな」


法廷に失笑が漏れる。軽薄。臆病。

だが、この格好悪い告白は一種の真実味を

帯びていた。


便乗して畳み掛ける。

「ですので、遺体に残る炎属性の魔力残滓は、

被害者自身のものである可能性があります」

前回の裁判傍聴で分かったことは、

こちらから積極的に可能性を提示しなければ

“被告人以外の誰が殺せたか?”という理不尽な

質問を投げられ、不利な立場になることだ。


「……つまり?」

断罪官は話の展開を追えていないようだった。

丁寧に説明する。

「被害者は被告人に炎術魔法で反撃し、それが自身に

飛び火し焼死した可能性がある、と主張します」

断罪官がすぐに反論する。

「被害者は実績のある魔術師だ。

そんなことはありえない!」

「被害者と被告人は双方大量のお酒を飲み、

酩酊状態だったとの証言もあります。」

アルバが現場周辺を調査して得た大事な証言だ。


「ですので、本件は不幸な事故による

死亡という可能性があります」

事象を証明する側ではなく、される側に回ること。

それが今回の裁判で選んだ戦法だった。


法廷が、ざわめく。

被告人が、初めて希望を見る目をした。

最後に付け加える。

「以上、本件はより詳しく調査する必要があります」


エルディオは、炎術師は酩酊していようが

炎の取扱いを間違える訳がないと言っていた。

確かにそうかもしれないが、真実はどうあれ

今はこの主張に頼るしかない。


審問官は断罪官に目を遣った。

「弁護側の主張を否定できる証拠はあるか?」

断罪官は苦々しい表情を浮かべた。

新米の弁護官代理という、最弱の相手に

反撃されるとは夢にも思っていなかったのだろう。


審問官が木槌を打つ。

「本日はここまでとする。次回の裁判までに

調査官と断罪官はより深く調査するように」


判決は出ない。

それだけで、この法廷では異常だ。

被告人が、低く息を吐いた。


この裁判は、否定しないことでしか進めない。

その選択が正しかったかどうかは――

まだ分からない。


だが、初めて。

結果だけで裁く法廷が、理由を求め始めた。

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