第3話 失敗率99%の仕事
弁護官であるその男は、アルバと名乗った。
一般市民には家名がないようだ。
こちらもユウヤと名乗った。
アルバは弁護官の実情を説明してくれた。
「弁護官という仕事は誰にも尊敬されない。
冒険者はもちろん、荷運び人よりも社会的には下だ。
無能だからじゃない。形式上存在する職業で
実際には誰にも必要とされていないからだ。」
その言葉に、疑問が浮かぶ。
なぜ社会的に地位が低いにも関わらず、
収入がいい話が転がっているのか。答えは単純だった。
「勝てないからだ。誰もやりたがらない。
酒場では毎日負け犬と揶揄される」
男は笑って言った。それは納得できる理由だった。
市場原理として正しい。
「あと、リスクもない訳ではない。追々説明するが」
裁判所に連れて行かれたのは、翌日の午後だった。
弁護官の補助員としての登録は、
名前と住所を書くだけだった。
アルバに言われて、住所は同じ場所を写し書きした。
入門時のような鑑定も無ければ面接も無かった。
掲示板に貼られた統計表を眺めると、ガレウス王国の
司法が大まかに理解できた。有罪率は99%。
残りの1%は、証拠不足か単なる手続きミスであり、
被告・弁護官側が勝ちをもぎ取る事はほぼない。
数字は正直だ。感情よりも信用できる。
ちょうどその時裁判が始まるという法廷に入った。
被告人は若い男だった。罪状は殺人。
被害者の死因は鑑定で確定している。
断罪官が淡々と結果を読み上げる。
審問官は頷くだけだった。
弁護官は目を伏せて欠伸を噛み殺していた。
「では問う」
審問官が被告人を見る。
「お前以外に、この結果を起こせた者は誰だ?」
被告人は答えられなかった。
それだけで、法廷の空気が変わる。
この問いは、奇妙だ。犯人を探す質問ではない。
可能性を提示できなければ、有罪になる質問だ。
転生前の司法ではあり得ない、理不尽な質問に思える。
心眼の結界が作動する。
「分かりません…」
被告人の絞り出した返答に嘘はないが、救いもない。
審問官が咳払いをし、法廷全体に響く声量で告げた。
「被告人は有罪。無期奴隷懲役刑とする。」
刑務官がうな垂れる被告人を乱暴に連行していった。
法廷を出て少し離れると、アルバは肩をすくめた。
「仕方ない。結果は揃ってた。極刑でないだけ良かった」
その言葉に違和感が残る。
結果は確かに揃っている。
だが、原因はどこにもなかった。
鑑定は正しい。
だが、それだけで人は裁かれていいのか。
そんな疑問を抱いた瞬間、この世界で生き残るには、
その疑問を武器にするしかないと悟る。
弁護官という職業は、この世界で唯一、
「なぜ」を口にできる立場なのだから。




