第2話 冒険者ギルドでの日雇い労働
門を通り、窓も無い殺風景な詰所に連行された。
門管理の責任者らしき男は、落ち着いた声で
もっともらしい理屈を並べた。
「鑑定不能者は、身元不明と同義だ。
街の安全のため、私物は一時的に全て預かる」
一時的、という言葉は便利だ。
返す気がない略奪でも、形の上は成立する。
下着やハンカチまで、全部没収された。
理由は「隠匿魔具の可能性」。
回収されたスーツはこの世界では珍しいらしく、
伸縮性や編み方を調べられたりした。
責任者の男から代わりに渡されたのは、
擦り切れた中古の服と
ナイフ1本。
「標準的な衣類と武器をやる。厚情に感謝しろ。
今回に限り、入門税も免除する。」
感謝の対象が見当たらないが、口には出さない。
ここでは、感情より結果が優先される。
こちらの名前や出自などは全く聞かれなかった。
興味が無いらしい。
次に、無一文であることが問題になった。
宿に泊まれない。食事も買えない。
門の責任者は、次の“選択肢”を提示した。
「冒険者ギルドに登録するのはどうだ。
冒険者用クエスト以外に日雇い労働も紹介される」
選択肢と言いながら、他は示されない。
半ば追い出されるような雰囲気となり、
ギルドに一人で向かうしかなかった。
ギルドは想像していたよりもはるかに大きく、
そして騒がしかった。人が多いだけではない。
音と匂いと視線が渦巻いている。
視界に入るものたちは一様ではない。
巨大な大斧を背負い、周囲に殺気を撒き散らす者、
包帯を全身に巻き付けた血まみれの者、
昼間から酒を飲み泥酔している者。
掲示板には依頼が隙間なく貼られていた。
確かに討伐や護衛ばかりではなく、
冒険者向け以外もあるようだ。
・荷運び
・清掃
・畑の手伝い
・薬草採取
命を失うリスクが低いことが最優先だと考え、
清掃の依頼書に手を伸ばすと、横からぶつかられた。
よろめいた隙に、紙は別の手に掴まれていた。
文句を言おうとしたが既に相手は人混みに紛れている。
選択肢が減り、単独でもできる薬草採取を選んだ。
判断が甘かったことを後で後悔した。
採取場所は街の外縁。
渡された見本紙と見比べても、草の見分けがつかない。
仕方なく、薬草だけでなくそれに近い雑草もまとめて
採取するという方法を選ぶ。
ギルドで怒られたり、評価が下がるのは
この際しょうがない。薬草が無ければ収入はゼロだ。
草むらに注意を向け続けていた、その時だった。
猪のようなモンスターが飛びかかってきた。
小型だが、突進の勢いと牙の大きさは脅威だった。
腰が抜けて倒れたのが幸いし、1度目の突撃を躱した。
そのモンスターは体勢を整え再度飛びかかろうとした。
2度目は避けられない。背筋が凍り、死を直感する。
視界の端から槍が飛び出て、モンスターが
串刺しにされた。近くの冒険者が助けてくれたようだ。
薬草採取のクエストはすぐに切り上げた。
助けられた冒険者に謝礼を要求され支払ったため、
報酬は銅貨2枚しか残らなかった。
宿屋は1泊銅貨10枚、夕食は銅貨4枚が
相場と聞くから、この報酬では何もできない。
街に戻り、今度は荷運びを選ぶ。
依頼主から延々と罵声を浴びせられながら、
重たい荷物を運んだ。
紫色の太陽が沈む頃には、全身が重かった。
手にした銅貨は、ほぼ宿代で消えた。
必死に働く、何とか生き延びた。得たものは何も無い。
この街で能力のない者が立つ場所は、
思っていたよりずっと狭かった。
最も安い食堂で、ふかした芋と焼いた肉片を食べた。
古ぼけたマントを纏った男に声をかけられた。
身なりは地味だが、目だけが異様に冷静だった。
「君、ギルド帰りだろ。新人?」
返事をする気力もなく、力なく首を縦に振った。
「日雇いは割に合わないよ。君みたいなタイプには」
タイプ、という言葉に引っかかる。
「どうしてですか?」
「日雇いは仕事が空いた日に、自分のスキルを使って、
いかに楽に終わらせるか、だからね。たとえば、
荷運び人は大体身体強化スキルを持っている。」
こちらが感心している様子をじっくりと見られている。
「俺は弁護官で。助手を探している。危険は少ないし、
賃金は日雇いよりはいいよ。どうだい?」
弁護官。聞き覚えのない職だ。
「失敗率99%の仕事だがな」
乾いた笑い。だが、条件は魅力的だった。
命の危険は無く、安全。多くはないが、安定した収入。
選択肢は、また1つしかない。
「……詳細を聞かせてください」
男は頷いた。
この世界で、初めて”理由”を口にする人に出会った。




