第15話 ハーフゴブリン
第2法廷に入る前、調査官と鉢合わせた。
前回の法廷で証言した男だ。
咄嗟に挨拶したが、黙殺された。
通り過ぎかけた男が、不意に振り返った。
「ハーフゴブリン!?」
素っ頓狂な声を聞くのは今日2度目だ。
男は剣の柄に手をかけた。
ケイも、先程渡したナイフを構えた。
「法廷で刃傷沙汰は、調査団としてまずいのでは?」
男は舌打ちし、手を下ろした。
理由は分からないが、裁判所では武装が可能だ。
「まさかこんな所にハーフゴブリンがいるとは…」
「ハーフゴブリンって何ですか?」
「君、何も知らないで連れているのか?
ゴブリンは集落を侵略し、女性を拉致し
子どもを産ませる。その結果がコレだ」
顎でケイを指した。命の恩人を物扱いされた事に
苛立ちを感じる。確かに、ケイは顎や耳の尖り方が
人間と違う。肌も紫がかっている。
「ゴブリンと人間が結婚した可能性もあるのでは?」
「そんな訳ないだろう。ゴブリンを討伐する時、
ハーフゴブリンは全て殺す。人間じゃないからな」
ケイを怯え切った目で、男を見ていた。
ケイがスラムにいる理由も、周囲の冷たい態度も、
これで合点がいった。人間社会からの強烈な迫害だ。
「…教えていただきありがとうございます。
ですが、ケイは弁護官である僕の助手です。
種族はハーフゴブリンでも、僕は信頼しています」
「ハーフゴブリンは人間よりゴブリンの影響が強く、
残虐だ。これまで数々の事件を起こしている」
「人間も数々の事件を起こしていますよ」
男は苦々しい表情のまま、その場を立ち去った。
ケイを怯え切った目で、こちらを見た。
「ごめんな、変な奴と話すことになって。
法廷にはあんな奴が多いのかもしれないな」
「ううん、どこでもあんな奴ばかりだよ」
スキルも貰えず転生させられ、周りの助けもなく
不遇だと思っていたが、ケイに比べれば何でもない。
自分の甘さが恥ずかしい。
「人間の言葉はどこで学んだの?凄く上手いね」
ケイはキョトンと不思議そうな顔をした。
「あたしは人間の言葉はあんまり喋れないよ。
ユウヤこそ、どこでゴブリンの言葉を学んだの?」
話が噛み合わない。お互いの理解に齟齬がある。
神らしき者に言われた事を思い出すと、
”言語理解のスキルを与える”と言っていた。
つまり、人間以外の言語も理解し、話せるようだ。
「ああ、ごめん。間違ってた。
俺は色んな言語を話せるんだ。…スキルでね。」
「凄いスキルだね。羨ましい!」
このスキルがなければケイと意思疎通できなかった。
この1点だけは、神らしき者に感謝する。
法廷に入ると、既に断罪官は着席していた。
名前は確か、フリューゲル。
開廷までまだ時間はあるが、観覧席は既に満員だ。
フリューゲルは、ケイを見て驚きの表情を浮かべた。
「なんだ?そいつは?」
今後も説明を求められると思うと、うんざりした。
「弁護助手です。登録は受理されています」
「馬鹿らしい。君は法曹界の鼻つまみ者だな」
ケイに会う前から色んな組織を敵に回しているから、
何の問題もない。
「そうですね。その鼻つまみ者に負けると、
あなたも断罪官の組織内でそうなるでしょうね」
観覧席がざわめく。フリューゲルが歯軋りした。
ケンカを売ってきたのは向こうだ。
その時、厳かな雰囲気で審問官が入室した。
エルディオも刑務官を伴って、被告人席に座った。
陰謀渦巻く殺人事件の再審が、いま幕を開ける。




