第11話 事故調査
翌朝、けたたましい鈴の音で目が覚めた。
反射的に護符を掴み、息を殺して身構えた。
梯子を登って来たのは、階下に住むアンガスだった。
自称冒険者だが、実際は日雇い労働と半々らしい。
アンガスはベッドの下に潜んでいた事に驚いたようだ。
「そんな所でどうした!?」
「…夜ここに誰か襲って来る気がして」
「ハハッ、裁判で派手に暴れたって聞いたぞ」
「暴れたつもりはないですよ。何かありました?」
「いや、以前アルバから頼まれていた物があって、
遅くなったけど渡しに来たんだ」
「何の依頼ですか?」
「特注の外套さ。遠方の大都市でしか手に入らない」
アンガスの右手に折り畳まれた外套があった。
高級品にはお世辞にも見えず、縫製も粗い。
「どこが特注なんですか?」
「この街灯は表が茶色で、裏が黒色だろ?
引っくり返して着られる。何の為か知らんがな」
この世界にも、リバーシブルという発想はあるらしい。
何故アルバは、この外套を必要としたのか。
ファッションに気を使うタイプでは無いはずだ。
「価格は?」
「銀貨3枚だ。前払いだったから、渡すだけだ。
ああなっちまった以上、本人は当分着られんからな…」
「ありがとう。アルバから借りておきます」
「次の裁判はいつだ?」
「明日です」
「忙しいな」
「ええ、これから調査に行ってきます」
「くれぐれも気を付けてな。夜は俺も警戒するから、
ベッドで寝な。体を壊すぞ」
「はい、ありがとうございます」
崩れかけた集合住宅だが、住人の心までは荒んでいない。
門番やその責任者よりも、ずっと人間味がある。
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アルバが事故に巻き込まれた場所は、殺人事件現場と
エルディオのいる留置所のちょうど中間だった。
移動する途中で事故に遭ったのだろう。
近くに看板の文字が剥げた、寂れた肉屋があった。
簡素だが、お手製のサンドイッチらしき物も並んでいる。
「これ、1つ下さい」
「毎度あり!銅貨2枚ね」
懐は痛むが、調査の為には必要な出費だ。
他に客はいないので、じっくり話が聞けそうだ。
「この辺で、先日魔道具の事故があったと聞きましたが、
どんな事故でした?」
「ああ、すごい音がして、燃え上がったんだよな」
「何の魔道具だったんですか?」
「街灯さ。この地区は雷の魔道具が設置されていて
夜の明かりが付いてんだ」
聞いた瞬間、2つの事件が重なった。
「雷ですか?炎じゃなくて?」
「おう、ここらはそうだぜ」
「雷でどうやって明かりがつくんですか?」
「理屈は知らん。電球?に雷を流すと光るんだと」
電気のメカニズムは転生前の世界と似ていた。
「その炎上事故が起こる前に何かありましたか?」
「あ、従業員が何か変な事があったって言ってたな。
誰かのイタズラで黒い粉が屋根から撒かれた、とか」
「その粉って、今も残っていますか?」
「誰も掃除しないからな。あるんじゃねえか」
「事故の炎は、普通と何か違いましたか?」
「そう聞かれると…、確かに普通の火事と違ったな。
急に炎がボワーッと上がった。炎がメラメラと
燃え広がるって感じじゃなかった。
あとは、事故時は通行人はが多かったけど、被害は
3人だけだったな。普通もっと広がりそうだけどな」
「貴重な証言ありがとうございます」
「君は調査官では無いよな?体弱そうだし」
「はい、違います。弁護官です」
「へー、弁護官も調査するんだな。
色々教えてやったからまた買いに来いよ」
「はい、給料が入ったら、必ず」
事故現場に戻ると、確かに黒い粉というか滓が
酷く散らばっていた。手持ちの袋に少量回収した。
燃え上がった炎で死んだ。
原因は炎。そう“見える”事件・事故。
ここでようやく、事件と事故が線で繋がった。




