四月のQ町と近郊の散歩道──好天と雨天の日景
夕暮れどき辺りに風はなく、O池公園の周囲の木立は直立不動の姿勢、といったおもむきに静止していた。彼らの群影があたりまえにも立ち姿そのままに池面に映っていた。その影の懐には池岸の外灯の明かりが重なり、かすかなさざ波に揺らめいていた。暮れなずむ夕刻の空はいま薄墨色をしていた。刻々の夕闇は、好天に恵まれた今日一日の物色の熱りを冷まし、彼らを安息に導いていくかのようでもあった。物の色はなべてほぼ単色っぽく、ねんごろにまとめられていった。遠く池の背後の山肌の色は、さきほどの薄青からあまねく濃紺に様変わりしていた。
夜雨は本降りになった。Sマーケット広場前から、緩い勾配のもとに見下ろすQ町の幅広の幹線道路を、車のライトが行き交っていた。丈高い街路樹の間に見え隠れして疾走する車体の色は、雨中にあってあいまいにボケて見えていた。その背後に建つ丘のR団地の灯りが、雨霧に霞んではいても夜色の中に群れ集って見えていて、あそこらがQ町のニュータウンエリアだ、と判別できた。
ここ、Sマーケットの店先に雨宿する者が数人いた。店と側道を挟んだ公民館から中年の男女が数人出て来て雨傘をさし、集合住宅地の方へ向かってこぞって足早に歩いて行った。公民館の入り口上の、壁の丸時計が故障していた。今午後七時過ぎ、雨のフィルター越しにみるその短針は、一時ぐらいのところを指していた。雨滴が店前のコンクリートの石畳の上でしげくはね返っていた。二十分くらい経っても雨はこやみなく降り続いていた。
緩い勾配のコンクリート舗装の坂道が、石垣に挟まれて丘の上へと続いていた。見上げる木立の枝葉の隙間から、日没して間もなくの夜空が垣間見えていた。坂道の途中にポツンと一つだけ立つ外灯の明かりが、辺りの暗を仄白く薄消しにしていた。石垣の上のひときわ丈高い紅桜の樹の枝々が、坂道にアーチをかけるように、弓なりに撓み枝垂れていた。四月ももはや中旬、花びらは季節の名残を留めるだけ、といった風情で萎み始めていた。いまは木の下闇の坂道の面に、茶色に乾き切った枯葉と、色香の失せた花びらが重なり混じり合って散らばっていた。坂道の上の方で黒い人影として見えていただけの、黒色のブルゾンを着た若い男が坂道を下って来て、さらに坂下のM町住宅地域への石段をゆっくりと降りて行った。




