仲冬のQ町と近郊の散歩道──女人景三態
川辺の道に沿って丈高い竹林や雑木林がずっと連なり続いていた。川幅は目測で二十メートルくらいあった。水は仲冬の空と雲を映しながら、川底の石ころを浸すぐらいに浅く流れていた。地肌むきだしの両端に、枯れた草や薄が密生していた。下方の浅瀬に白鷺が一羽立っているのが小さく見えていた。おかっぱの髪を栗色に染めて、臙脂色のウインドブレーカーを着た若い女が、ゴミ拾いのトングとビニール袋を手にして、対岸沿いの草むらのゴミを拾いながら歩いて行った。
川と道を挟んで広がる、いまは作物のない畑地に、大きめの柿の木が二本だけ、離ればなれに植わっていた。時節柄、いまは曲がりくねった枝だけの樹影が、乾き切った土表に色濃く落ちていた。そのずっと向こう、山裾の雑木林の奥に建つ一軒の農家らしき屋根越しに、何を燃やすのか、細い白煙が一筋、中空に立ち昇り続けているのが、遠目にも見て取れた。
仲冬十二月の午後遅くの空は、均一な薄灰一色に霞んでいて、日差しはなかった。青いコートを着た茶髪の中年の女がひとり、休日のRマーケット広場の灰皿スタンドのかたわらに立ち、煙草を吸っていた。女は左腕を直角に曲げて胸に当て、その掌で右腕の肘を支え、立てて伸ばした右手の中指と薬指の間に煙草を挟んで、吸うと吐くを繰り返していた。女が一服するたびに、女の紅色の唇が、伸ばした五本の指に覆われてはまた現れる、というふうだった。何を想ってか、女が上目遣いにちょっと小首を傾げるようにして大きく煙を吐くと、それが微風に揺らめきつつ、女の顔を巻きながら飛散していった。女は煙草を指でトントンとしてではなく、掌の内側のフィルターを親指で跳ね上げるようにしてこずいて、灰皿スタンドへ灰を落とした。一連の女の喫煙所作は、年季を感じさせて、とてもサマになっていた。女はベンチに腰掛ける者たちと正対して立っていた。で、彼らの中には女をマジマジと見る者もいた。が、女は「ここは公共の喫煙場所、誰に遠慮気兼ねもなく吸って吐くところ」と、そんな感じで、まったく人目を意に介さないふうに見えた。女の背後に、マーケットの壁に嵌め込まれた赤地に黄色いmの、マクドナルドのロゴマークのプレートが見えていた。その壁の向こうは、ちょうど店内の厨房にあたっていた。
女は一服し終えると、足早にマーケットの出入り口のほうへ歩いて行った。自動ドアが開き、女と入れ違いに幼児の手を引いた老男、それから、中学生くらいの少女が出て来て、白いマフラーを首に巻いた。
K町の緩い坂道の両側に立ち並ぶ丈高い街路樹の葉叢を、ちょっと強めの仲冬の夜風がさざなみ立たせていた。郊外へと向かう道路を行き交う車はまばらだった。その坂道の中ほどにある路地のバス停の待ち合い座席の一つに、若い女が腰掛けてバスを待っていた。女ひとりだけが、そこにいた。女は十二月の夜寒の指示に応じるかのように、グレーのダウンジャケットの衿に深々と頬をうずめて、スマホに見入っていた。そして、ジャケットの袖先を伸ばして両手をすっぽりと包み、わずかにのぞかせた指先でスマホの画面にタッチしていた。
坂道の中途から振りかえって見ると、女は先ほど見たのとまったく同じ姿カタチで、そこにあった。女の背後に置かれた自販機とバス停の小灯りと、さらには女の顔を照らすスマホの画面の明るみとが、懇ろに一場に溶け込んで、赤茶っぽい色合いにボーっと凝集されて見えていた。そこにバスを待つ女は、ひとりいた。




