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雨後のF丘道の暮色

 丘道の起点になる野菜畑の一角に植わる柿の木が、鈴生りの実を付けていた。畑の側に二台の乗用車が駐車していた。一台は無人、もう一台には、夕陽の残光にボヤっとまぶされたフロントガラス越しに、運転席の人影が一人ぼんやりと見えていた。スクラップ工場の構内に、家電の廃品や鉄屑がうずたかく積まれていた。その真ん中に平屋の工場よりもずっと高く、大型のクレーン車が、空に腕を差し伸ばしたままで置いてあった。昼過ぎまでの長雨はすでに止み、空には夕月が出ていた。工場のブロック塀に向かって老男が立ち小便をしていた。かたわらに銀色の自転車が立てかけてあった。


 雑木林を縫うようにしてL町へと続く坂道を上りつめ、さらに二十分ほども歩くと、ゆるい下り坂となり林は途切れた。夕暮れが濃く深くなっていった。道の片側に小規模の総合病院の建物が、段差をもって何棟か建ち並んでいた。坂上から坂下の門灯まで、コンクリートの打ちっ放しの灰色の塀がずっと続いていた。

 夜目に、老男と老女とおぼしき二人連れが病院の門から出てきて、坂道を下って行った。門の手前まで来て、中年の女が一人視界をよぎった。門灯の明かりの中に、女の茶髪と紺のジャケットの身なりが見て取れた。女は道を横切って反対側の駐車場へ向かって歩いて行こうとしていた。女は片手にトートバッグを提げ、空いた手でジャケットの両襟を喉元で摘んで俯き加減に歩いていた。胸の想いを頭に上らせずに、あるいは逆に頭の思惑を胸に下ろさずに喉元に留めおく、そんな佇まいに見えた。女はここに診察室から折り返して来たのかもしれないし、あるいは病室からなのかもしれなかった。

 女の入って行った狭い駐車場の場内灯の下に、間を置いて三台の車が横並びに駐車していた。その車を越して見る隣接した農家の庭に植わる桜の樹の枝々と、太柱の感じに束なった観賞用の細い業平竹の物影が見えていた。さらに農家の屋根越しに見る雑木林は、今はもう目を閉じたように樹間の木洩れ陽を失い黒々と鎮もっていた。


 坂道を下り切った所の道端に自販機が一台あった。缶紅茶を飲んだ。廃業して久しい、といったふうの酒屋の錆びついたシャッターに、顔写真が全面に刷られた政党の広報ポスターが一枚貼ってあった。陰影を欠いたのっぺらぼうな中年男の笑み顔が、店先の薄明かりの中に浮かんでいた。

 辺りの低い家並みから突出して建つ、横に二部屋並びで五階建ての、おそらくワンルームであろうマンションの前にスクーターが止まり、ヘルメットを脱いだ若い男が駐輪場にそれを納めた。それからしばらくして、中年の女がマンションの玄関のドアを開いて足早に中へ入って行った。そのドアから真上にたどる最上部の、たぶん、屋上への昇降階段のあるフロアの外壁に、ポツンと施されてある半円のガラス窓の桟が、車輪を半分にカットして残るスポークの模様をしていた。そのスポーク模様の呼起するいくつかの連想の終着点は、たとえば馬車か牛車の、雨後の街道を通った後のわだち──。


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