第090話 泣いた夜
俺達は屯所に入ると、受付にいるアーヴィンのもとに行く。
「おっ、来たか。ちょっと待ってろよ。俺ももう上がりだから」
アーヴィンはそう言うと、奥に引っ込んでいった。
時計を見ると、まだ定時前だ。
「いいのかね?」
ローレンスが聞いてくる。
「いいんじゃないか。別に誰も何も言わないだろ」
「規律が緩いのかね?」
「ここは平和だからな」
俺達の時は戦時中だったから余計に厳しかったな。
そのまま待っていると、アーヴィンがやってきた。
「よし、行くか。この前の店でいいだろ?」
「ああ」
「あそこは美味かったしな」
俺達は屯所を出ると、来た道を引き返していき、中央にある飲み屋に入る。
「いらっしゃい……って、お前らか」
「売り上げに貢献しに来たぞ」
アーヴィンが軽口を叩く。
「そりゃどうも。奥を使え」
「ああ。エールと摘まめるものを」
「あいよ」
俺達が奥の個室に入ると、すぐにエールが届いたので飲む。
「あー、美味い」
「ホントにな。俺は昨日、重労働だったから特にそう思うわ」
ちらっ。
「悪かったっての。でも、お前、煽りすぎじゃね?」
強者感を出して、逃げられないようにしたんだよ。
「ローレンスー、お前、何してんだ?」
アーヴィンがエールを飲み、呆れる。
もちろん、昨日のことだ。
「わ、わかってるよ」
「何がしたいんだか……お前も正義に目覚めたのか? もしくは、かっこつけ?」
俺のこと言ってる?
「そんなんじゃねーよ。ただ、どうしてもあの戦争の成果が欲しかったんだ。俺はまだやれたし、あのままいけば勝っていたと思っている」
どうかねー?
「勝ってどうするんだよ。そのまま攻め込んで罪のない人達を蹂躙していくか?」
「そんなことはしない」
「そうなるんだよ。残念ながらな。だからあの結果で良かったと思えよ。もし、そうなったら恨まれて、今度はこっちがやられる番だぞ」
血みどろか。
「わかったよ……」
「しかし、ノクスの亡霊ねー……噂のやつはお前ってことでいいか?」
「ほぼ俺だ。そこで話しておきたいことがあるんだが、俺は模倣犯だ」
模倣犯?
「どういうことだ?」
「最初にそういう噂を聞いたんだよ。それでまあ、そういうこともあるかと……」
ホント、バカ。
でも……
「お前だけじゃないってことか?」
「マジ?」
「いや、それはわからん。そもそもなんでノクスの亡霊と呼ばれているかもわからないんだ。名乗ったりしたのかって話だし。俺は当然、名乗ってない」
それはそうだな……
神父さんも把握されていたが、悪役貴族や商人をとっちめた奴がなんでノクスの亡霊と呼ばれているのかが謎だ。
「それ、俺達の仲間じゃないかもな。大抵、そういうのは貶めるためにやる」
俺もそう思う。
「ローレンスー……何をそんなのに手助けしてんだよ。噂が事実になってるだろ」
何してんだか……
「悪かったっての。前に調査をしているって言っただろ? あれは嘘じゃないんだ。王都に行くのもそれが理由の一つだ」
なるほどねー。
「アーヴィン、誰が犯人だと思う?」
アーヴィンに聞いてみる。
「普通に考えたら帝国側か? 俺達を貶めたいのはあっち側だからな……うーん、わからん」
俺もわからん。
「ローレンス、何かわかったら教えてくれ。明日には王都に発つんだろ?」
「え? そうなのか? 急だな」
「俺もさっき聞いた」
まあ、ローレンスがアンジェラとメアリーに別れを告げたのを聞いていたっていうのが正しいけど。
「この場で話そうと思ってたんだよ。やはり俺の旅の終着点は王都なんだ。そこで隊長に会う。それから先はゆっくり考える。あ、お前も王都に行くんだっけ?」
「そういやそう言ってたな」
2人が俺を見てくる。
「俺達は3週間後だ。行ってもローレンスがその場にいるかはわからんな。いや、滞在しとけ」
「そう言われてもどうなるかはその時次第だ。まあ、どうなろうと、一度はここに戻ってくるよ」
ならいいか。
「戻ってくるのはいいが、俺は王都に2、3週間はいるからタイミングを合わせろよ」
すれ違いは避けたい。
「わかったよ。王都に着いたら冒険者ギルドに確認してくれ。もし、まだ王都にいるならそれで連絡が取れる」
冒険者ギルドも便利だな。
「アーヴィン、お前も行くか?」
「なんでだよ。俺は仕事があるっての。隊長に会ったらよろしく言っておいてくれ」
隊長な……
マジで何してんだろ?
「そもそも隊長って王都にいるのか?」
なんか隊長がいる前提で話が進んでいるけど。
「さあ? 王都出身なのは確かだな。それと軍籍を外れているのも間違いない。以前、リストを見る機会があったが、名前がなかった」
辞めたんだろうな。
隊長だって、あの結果は不満だと思うし。
「いなかったらそれはそれで仕方がねーよ。それで諦めもつく」
ローレンスはそう言ってエールを飲む。
「かっこつけてるけど、いないでくれって思ってるだろ」
「お前はそういう奴だ」
うんうん。
「うっせーよ。ちょっと怖いだろ」
色んな意味でな。
「3週間ほど待ってたら俺が一緒に行ってやるぞ。俺は割かし、隊長と良い感じに別れたし」
俺は理解ある大人だったからな。
「…………いや、1人でいい」
考えたねー……
「アーヴィン、やっぱりこいつに誰か紹介してやれよ。こいつ、1人だと心配だわ。こいつは絶対に誰かがそばにいた方が良い」
「そうだな……ウチの経理のノーラなんてどうだ? 彼氏募集中って言ってたぞ」
この前も受付にいたあの子ね。
確かに可愛らしかった。
「誰だ?」
「この前、アーヴィンからの伝言を教えてくれた子がいただろ。あの子」
屯所に行ったら高確率でいるから覚えている。
「あー、あの子か……って、いくつだよ?」
「18歳」
「若すぎるだろ。俺、32歳だぞ」
「そうかぁ? お前もそんなに歳じゃねーよ」
普通、普通。
「エリックと一緒にすんな」
こら。
ウチだって10しか離れてないわ。
「地方じゃ珍しくないけどなぁ……」
そう言いつつ、アーヴィンは1歳上の姉さん女房。
「ローレンス、ギルドのヴィオラはどうだ? 人懐っこいし、おしゃべりだから陰気なお前にぴったり」
人参が嫌いなところも一緒。
「あの子か……」
あれ? 乗り気?
ヴィオラも19歳で若いんだけどな……
「こいつ、こういうところがあるよな」
「あるな……」
「うるせーよ。グラスが空いてるぞ。大将ー! おかわりー!」
俺達はその後も話をしながら飲んでいったが、21時過ぎにはお開きとなった。
少し早いが、仕方がない。
何故なら……
「本当に潰れる奴があるか……」
「ったく……なんで義足の俺がお前を抱えるんだよ」
俺とアーヴィンはローレンスの両脇を抱え、宿屋に向かっている。
「わりぃな……」
ホントだよ。
俺達はローレンスを宿屋まで運んだ。
「ほら、着いたぞ。部屋はどこだ?」
「ここまで来たらもう大丈夫だよ……」
ローレンスがふらついているものの、宿屋の扉に手をかける。
「お前、明日は何時に出るんだ?」
確認。
「さあな。起きたらだ。見送りはいらねーよ。何度も言うが、俺の旅は王都で終わり。またすぐに戻ってくる」
こいつ、ヴィオラのことをちょっと本気にしてない?
まあ、他所様のことだし、ヴィオラに迷惑がかからないなら好きにしたらいいけど。
「じゃあ、ここでお別れだな。元気でやれよ」
まあ、王都でも会えるかもしれないが。
「さっさと隊長に謝って戻ってこい」
「ああ……エリック、アーヴィン、いつもすまねーな……」
何言ってんだ。
「それはお前が盗み食いした時に聞いた」
「連帯責任だったんだぞ」
死ぬかと思うくらいに走らされたわ。
「ははっ、お前らは盗み食いが上手かったもんな」
「絶対にバレないタイミングでやるんだよ」
「下手くそ」
何やってんだ。
「この10年、辛い思い出ばかりを思い出してたが、楽しい思い出も多かったわ」
「当たり前だ」
「アホ」
バーカ。
「エリックは言いすぎじゃね?」
「それぐらい言わせろ。朝起きたら足が痛くて仕方がなかったわ」
もう大丈夫だけど、午前中はずっと痛かった。
「わりぃ、わりぃ。アーヴィン、エリック……また」
「ああ、またな」
「王都で会おうぜ」
「ふっ、お前らに会えて本当に良かったぜ……」
ローレンスは頷くと、宿屋に入っていった。
「あいつ、酔うと、よりかっこつけになるな」
「なんか2度と会えないような雰囲気を出してたな」
俺とアーヴィンは笑いながら中央の広場に戻ると、その場で解散した。
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