第088話 平和な家
「それ、どうなってんだ?」
ローレンスが一瞬で姿が変わった俺を見て、呆れながら聞いてくる。
「そういう魔道具だ」
「妙なものを作るな……」
お前の忍びっぽい姿よりもかっこいいわ。
「うっせー。さっさと帰れ。あ、人に見られるなよ」
「ああ……わかってるよ……ありがとよ」
ローレンスがそう言うと、すっと姿が消えた。
いや、いるのだが、異常なまでに気配が薄れているのだ。
ローレンスはそのまま宿屋の方に帰っていく。
「さて、俺も戻るか」
俺も領主の屋敷に戻るために歩き始めた。
そして、町の中央を抜け、北区を進んでいくと、かがり火で照らされ、明るくなっている領主の屋敷の前までやってくる。
周りには多くの兵士達がおり、門の前にはアーヴィンの姿があった。
「どうだった?」
周りの兵士が俺を見て身構えている中、アーヴィンがいつもの調子で聞いてくる。
「終わった。もうノクスの亡霊は現れないだろう」
「そうか……ご苦労だった。このことは大佐に伝える。それで領主も安心するだろう」
「そうだな。それとフィリップは許してやれ。あいつはただ、森の絵を描きたかっただけだ」
「わかっている。今回の報酬は後日、渡す」
そういや仕事だから報酬があるんだな。
「いらない。私は正義の使者。その金は町のことに使うといい」
かっこいい……!
「そうか。そういうことならそうしよう」
「ここに来る道中で君の友人に会ったぞ。明日、飲みに行こう、だそうだ」
「そうか。では、エリックも誘うとしよう」
「そうしたまえ。では、さらばだ!」
転移を使い、この場から消える。
とはいえ、今回はメアリーがいる可能性があるので家には飛ばず、近くの路地裏だ。
辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、腕輪のスイッチを押して元の姿に戻る。
そして、何食わぬ顔で通りに出ると、そのまま家に帰った。
裏口から家に入ると、まだメアリーとアンジェラが起きており、カードゲームをしていた。
「あ、おかえりー」
「エリック、おそーい。というか、最近、飲みに行きすぎじゃね?」
「ただいま。悪かったよ。そんでもって、明日もだ」
「マジ? 堕落してるなー。酒に溺れたらダメだよ」
メアリーが呆れる。
「ローレンスが来ているんだ。10年ぶりだぞ。話すことが尽きん。それにあいつは近いうちに王都に行くんだよ」
「王都で会えばいいじゃん。私らも行くんだし」
確かにそうだな。
あいつが王都に行ってからどうするかはわからないが、もしかしたら王都で会うかもな。
「それよりもまだ起きてるんだな」
時刻はすでに22時を回っている。
早寝のメアリーはもう寝てる時間だ。
「明日はカトリーナが教会の仕事があるから休みなんだよー」
「そうかい。俺は風呂に入ってくる。明日が休みでもさっさと寝ろよ」
「よーし、あと一戦だ」
俺は風呂場に行くと、湯船に浸かり、今日の疲れを取る。
もっとも、明日は確実に筋肉痛だ。
「はぁ……」
正直、ローレンスからノクスの亡霊が暗躍しているという噂を聞いた時から『それ、お前だろ』と思っていた。
あの戦争の結末を一番納得していなかったのがあいつだから。
「隊長、何してるんだろうな……」
俺も気になってきた。
王都に行ったら訪ねてもいいかもしれない。
その後も色々と考えながら湯に浸かり、風呂から上がる。
すると、リビングにはメアリーがいなかったが、アンジェラはいた。
「先に寝てても良かったぞ」
「起きてる。それよりもどうだったの?」
やはり気になるか。
「終わった」
そう答えて、アンジェラの隣に座る。
「そう……」
「領主宅を襲った犯人はローレンスだ。動機は森を燃やした犯人が領主の息子だから。そして、その息子は冒険者のフィリップだ」
「フィリップ……ジェイクの腰ぎんちゃくの一人ね」
そうそう。
「ローレンスは世直しをしたかったんだと」
「何も言えないわね。私は戦争を経験してないもの」
あの無念さは俺達にしかわからない。
いや、俺達しかわからなくていいのだ。
「アンはそれでいい。それにローレンスもわかってくれる。あいつが求めているのは救いだ」
あいつは代われるものなら喜んでビルやローラン、それにアーヴィンと代わるだろう。
そういう奴だ。
「エリックは救いを求めなかったの?」
「求める必要がなかった。俺にはメアリーがいたし、お前がそばにいてくれた」
それどころじゃなかったので気付いていなかったが、間違いなく、救われた。
いや、2人だけじゃない。
この町の人達のおかげだ。
皆、よそ者の俺達を受け入れてくれて、良くしてくれたんだ。
「ふーん……」
にやにやしてんな……
「もう寝ようぜ。俺も疲れたわ。現役のローレンスとやったから全身がばきばき。明日はこの前の比じゃないくらいに筋肉痛だと思う」
無理な動きをしすぎた。
「それはダメよ。ちゃんと寝る前にマッサージしないと」
「それもそうだな」
太ももを揉んでおく。
「よーし、私がしてあげる!」
アンちゃん、Sにならないで……
「自分でやるからいいよ」
「ちょー良い女はそういうこともできるの! ほら、部屋に行くわよ」
大丈夫かなと思いつつもアンに任せることにした。
ここまでが第2章となります。
これまでブックマークや評価をして頂き、ありがとうございます。
皆様の応援は大変励みになっており、毎日更新することができております。
また明日から第3章を投稿していきますのでよろしくお願いいたします。
また、本作は皆様の応援のおかげで書籍化することとなりました。
ありがとうございます。
今後もよろしくお願いいたします。




