第081話 ランドルさんって良い人
翌日、眠そうなメアリーを起こすと、3人で朝食を食べる。
「メアリー、カトリーナとシャーリーに王都のことを相談する際にちゃんと親御さんの確認も取るように言えよ」
神父さんと肉屋のバリー。
「そこは大丈夫だと思うけどね。結構前から話していることだし」
「それでも確認しとけ。神父さんなんかついてくるとか言うかもしれんぞ」
「わかった。そこはちゃんとやめてねって言っておく。アンジェラちゃんが来なくなっちゃうし」
俺もちょっと遠慮したい。
別に神父様が嫌いというわけではないが、聖職者と一緒の旅はちょっと勘弁願いたい。
「頼むぞ」
「ほーい」
俺達は朝食を食べ終えると、それぞれ準備をした。
そして、メアリーがいつものようにかっこつけて出ていき、俺達も店を開けると、アンジェラから昨日の注文を聞く。
「うーん……水筒は落ち着き始めたが、徐々にコンロの方が増え始めた感じがするな」
昨日は4つの注文があった。
その前の日は午前中だけだったが、2つだ。
数自体は少ないが、ここのところは毎日のように注文がある。
「これも口コミじゃない? 値段が高いから水筒のような勢いはないけど、徐々に浸透していってる感じ」
「外じゃなくて、家か」
「そうね。冒険者からの注文じゃなくて、普通の町民だもん」
まあ、外で火を使わずに料理ができるって軍や冒険者ギルドに営業したが、本来は部屋でコーヒーが冷めないとか、食卓で料理を温かいまま食べられるっていう発想からだしな。
「材料はあるし、コンロを中心に作っていくか」
もし、本当に王都に行くならその分のストックも作っておきたい。
「じゃあ、そうしましょうか。材料は?」
「かなり余っているから大丈夫だ」
王都に行くならその時に買っても良いな。
俺もアンジェラもメアリーも空間魔法が使えるし、馬車も借りればラシェルの馬力ならいくらでも運べるだろう。
「よし、やりましょう」
俺達はせっせとコンロを作っていく。
すると、扉が開き、客が来た。
「お邪魔します」
客はハットを取り、一礼してくる。
「あ、ランドルさん」
アンジェラが言うようにランドルさんだ。
「ご無沙汰しています。昨日、来たんですが、娘さんしかいませんでした」
「いやー、悪いな。昨日は妻の冒険者活動に付き合っていたんだよ」
まだ妻じゃないけど、この人にはアンジェラがそう言ってある。
「いえいえ、アポなしのこちらが悪いんですよ。それにちょっと寄っただけですので」
「ありがたいことだ。水筒の方はどうだ? 手紙では好調って言ってただけど」
「それはもう……おかげさまで今年一のヒット商品になりそうです。ウハウハですね」
それは良かった。
「他の商会は?」
「真似をしているところもちらほらあります。ただ、先にブランド化し、水筒といえば、ウチの商会というイメージを植え付けましたので問題ありません」
さすがは大手さんだな。
すごいわ。
「いやー、それは良かった。あんな大金をもらっておいて、売れなかったらどうしようと思わないでもなかった」
「いえいえ、あなたは本当に良いものを作ってくださいました。大変感謝しております」
こっちも感謝しかない。
「こちらこそありがとうございます。それで今日は?」
「他の商品を見てみたいと思いましてね。持ち運び用コンロなど独自の商品を作っているのでしょう?」
そういやちょっと興味を持ってたな。
「今ちょうど作っているところだな。アンジェラ」
「うん」
アンジェラが倉庫に行き、すでにできているコンロを持ってきて、カウンターに置いた。
「ほう……」
ランドルさんがコンロを見ていく。
「その丸いところが熱くなるんだ。フライパンでもなんでも置けば温かくなるし、火力も調整できる。料理や飲み物を温めることもできるし、普通に炒め物ができるくらいの火力にもなる」
「なるほど……確かにコンロですね。それも持ち運びができるのは大きいです」
そうそう。
「価格は5万ミルド。材料費を考えると、それくらいにはなる」
「売り上げはどうですか?」
「軍からかなりの数の注文があった。まあ、若干、コネもあるが、それでも火を使わないっていうのが軍にはウケている。あとは冒険者にもと考えたんだが、そっちは微妙だ。ただ、このところは町人からの注文がちょいちょいあって、増加傾向にある」
結構、儲かってる。
数が売れなくても1個当たりの収入が大きいからだ。
「ふむふむ。確かに軍は良さそうですね」
「ああ。火を使えば煙が出るし、目立つ。しかし、これはそれがないうえに雨が降ろうと風が吹こうとテントの中で温かい料理が食べられるんだ」
まあ、ここが冒険者にウケなかった点だろう。
あいつらは敵に知られるという心配もないし、そもそも天候の悪い日は休みだ。
「画期的かもしれませんな。こう言ったらなんですが、10年前だったらかなりの発注を見込めました」
今は戦争が終わっているし、特に争いもないからな。
「軍の知り合いが言うには演習で使ってみたそうだが、評判は良い」
「ふむふむ……それで町民にも売れ出しているとのことでしたな?」
「ああ。最初は家で使うことを想定していたからな。部屋でコーヒーを飲む時に温かさをキープできるし、飲みとかで話をしながらゆっくり料理を食べる時に料理が冷めない」
「パーティーにも使える……ふむ、悪くない」
ランドルさんが手を顎にやり、考え込む。
「ただ、難点があって、これは5万ミルドとちょっと高価だ。それでいて、水筒ほど簡単な作りをしていない」
「そこは確かにありますな。私が思いますにこの町で売ってもおそらく、そこまでは伸びますまい。これはちょっとした贅沢品ですから」
まあ、バカ売れはしないだろうなとは思っている。
「王都なら売れるか?」
「貴族を始めとする金持ち連中には売れます。それとやはり軍ですかな? 平和な世とはいえ、軍はなくなりません」
確かにな。
「王都か……」
「エリックさん、これは少し保留にさせていただきませんか? 少し、需要があるか調べてみます。その後、このコンロの売り方について相談させてください」
「頼む」
頷く以外に選択肢はない。
そもそもウチはこの町の魔導屋であり、王都で売り場を持ってない。
「他にも見たいですな」
「ええ。あ、その前にちょっといいか?」
せっかくだから聞いてみよう。
「何でしょう?」
「実はウチの住居スペースを改修することになったんだよ。それでその期間が2、3週間あって家を出ないといけない。それで家族と相談したら王都にでも行かないかって話になったんだ」
「おー、よろしいのでは? せっかくなんでご夫婦で我が家に遊びに来てくださいよ。歓迎します。それに王都であれば宿屋や飲食店も紹介できますよ」
良い人。
顔も広そうだし、すごい人だ。
「ありがとうございます。それでちょっと大手さんの店を見てみたいなって思っていたんだよ。あ、あと、アクセサリー何かの店も紹介して欲しいなって。実は俺も出身は王都なんだが、もう10年以上も帰ってないのでわからないんだ」
アクセサリーの店はアンジェラが絶対に行きたがるところだ。
そして、そういう店はぼったくりや偽物の店が多い。
「そういうことでしたらいくらでも。その時にゆっくりと話がしたいですな。もし、来る時がわかればまた手紙で連絡をしてください」
「ええ。お願いします」
その後、ランドルさんに俺が発明した商品を見てもらっていった。
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