第079話 宅飲み
酒を買うと、アーヴィンの家にやってくる。
アーヴィンの家は平屋であり、そこそこ大きい。
「ふう……」
ローレンスが一息ついた。
「大丈夫だっての」
「そうは言うがな……いや、行こう。ここは逃げるところじゃない」
「そうそう」
ローレンスの覚悟が決まったようなのでノックする。
『はーい?』
ケリーさんの声だ。
「エリックだ」
そう答えると、扉が開き、茶髪の女性が出てきた。
ケリーさんである。
「あら、エリックさん、いらっしゃい。主人から聞いてますよ」
「邪魔して悪いな。それとこいつがローレンスだ」
紹介すると、ローレンスが一歩前に出る。
「ご無沙汰しています。もう10年以上になりますが、王都でお話しさせていただいたアーヴィンの同僚のローレンスです」
ローレンスが頭を下げた。
「ええ。覚えていますよ。お変わりがないようで」
「いえ、ケリーさんの方こそ、変わらず、お綺麗です」
こいつ、こんなことが言えるんだな。
「あらあら、ありがとうございます」
「それとアーヴィンのことは申し訳ありませんでした」
ローレンスが先ほどよりも深く頭を下げる。
そして、そのままの体勢で頭を上げない。
「お気になさらずに。主人が元気ですし、今も普通に働いています。それに戦争に行って、命があるだけで十分ですよ」
ケリーさんは気にしてないように笑う。
「ローレンス」
「ああ」
ローレンスが頭を上げた。
「暗い話はなしにしましょう。どうぞ、どうぞ」
ケリーさんが招いてくれたので中に入る。
そして、リビングに通されると、すでに料理が並んでいた。
「ケリーさん、パトリックは?」
息子のパトリックの姿が見えない。
「あの子は友人の家ですよ。なんか泊まるらしいです」
「へー……兵士になるって聞いたけど?」
「そっちの道に行きたいらしいですね。まあ、給料も悪くないし、良いことだと思います」
パトリックは武器屋で働いている。
確かにそこで働くより、給料は良いだろうな。
「親父と同じところか。俺だったら嫌だな」
ウチみたいな家業があるなら別だけど。
「どうでしょうねー。あ、どうぞ、座ってください」
ケリーさんに勧められたので席につく。
すると、ケリーさんが俺達の分のエールを持ってきてくれた。
「どうも」
「ありがとうございます」
「いえいえ、先に始めてください」
そう言われたのでローレンスと乾杯し、一口飲む。
「アーヴィンが帰ってくる前に飲みすぎるなよ」
「あいつがいなかったら自分のペースで飲めるわ」
まあな。
「ケリーさん、これ」
空間魔法からワインを取り出し、テーブルに置く。
「わざわざありがとうございます。後で出します」
「ケリーさんも飲むか?」
「後でいただきますよ。それよりもエリックさん。アンジェラちゃんと結婚するんですって?」
んー?
「誰に聞いた?」
メアリーとさっき聞き耳を立てていたヴィオラしか知らんぞ。
「アンジェラちゃん本人」
なら仕方がないか。
「まあ、そうですね」
「ようやく決心したわけですね」
「いや、そういう話自体は結構前からしてたぞ」
2、3年前から……
本格的に話をしたのはメアリーが冒険者になる前日だけど。
「ずーっとこそこそ付き合ってましたもんね」
こそこそはしてない。
「俺の中でメアリーが15歳になり、アンジェラが20歳になる今年が良いタイミングかなーと思っていただけだ」
「それでも待つ方は大変ですよ」
「そうは言うけど、あいつ、まだ20歳だぞ」
たまに15歳くらいで結婚する人もいるが、普通は20歳から25歳くらいだ。
職によっては30歳でも遅いということはない。
「あの子は大人びてましたからね」
初めて会った時は小さい少女だった。
それから2、3年で一気に成長し、15歳の時はもう今のアンジェラだった。
なお、ファッションと中身はずっとあんな感じ。
「あまり周りには言わないでね」
「言いませんって。ただ、アンジェラちゃんは知りませんよ。あの子は昔から周りを牽制する子でしたからね」
まあね。
今でもたまにしてる。
「今、メアリーと色々話していると思う。俺、追い出されたんだよ」
「あの2人は大丈夫ですよ。メアリーちゃんはアンジェラちゃんを慕っていましたから」
言葉遣いなんかは完璧に影響を受けている。
「お前、マジで結婚するんだな」
話を聞いていたローレンスが真面目な顔でつぶやく。
「別に変じゃないだろ」
「そりゃそうだけど、アーヴィンよりお前が変わったって思うわ」
「色々あったんだよ」
店のことやメアリーのこと、さらにはアンジェラ。
『帰ったぞー。エリックー、ローレンスー、いるかー?』
アーヴィンの声が聞こえてくると、扉が開いた。
「いるぞ」
「先に始めてるぞ」
「おー、飲め飲め。俺もくれ」
アーヴィンが頼むと、ケリーさんがエールを持ってきてくれる。
「潰れないでね」
「大丈夫。愛してるぞー」
潰れたら運んでくれって聞こえるな。
「はいはい。料理も食べてくださいね」
ケリーさんにそう言われたので乾杯をし、料理を食べながら酒を飲んでいく。
「こういう家庭料理も良いな。俺は外食オンリーだし、そう思うわ」
ローレンスは酒よりも食が進んでいる。
「ウチのカミさんは料理が上手いんだ」
「お前、下手くそだったもんな」
うん。
アーヴィンは下手。
味付けがすごい雑なのだ。
「お前らも下手だろ」
「お前よりはマシ」
「俺はそこそこできるぞ。メアリーが美味い美味いって食ってた」
まあ、あの子は好き嫌いもないし、何でも食べるんだけど。
「そうかい……あ、今日は悪かったな。誘っておいて遅れちまった」
アーヴィンが謝る。
「いや、まだ17時だし、通常業務を考えたら早いだろ。俺達が早かっただけだ」
確かにそうだ。
というか、飲みの開始が早いわ。
「アーヴィン、何があったんだ? 領主の息子が襲われたって聞いたが」
「あー、それな。あんま言えない」
まあ、そうだろうな。
「俺らの生活に影響はないよな?」
「俺も町から出られなくなるとかないよな? 近いうちに王都に行きたいんだが……」
さすがにローレンスも気になるか。
「あー、そういうことはないから安心してくれ。それと領主の息子さんも無事だし、ちょっと町の警備の兵が増えるかもしれないが、その程度だ」
じゃあ、大丈夫か。
「それなら良かった。それよりもアーヴィン。こいつ、アンジェラちゃんと結婚するらしいぜ」
あ、こいつに口止めしてなかった。
「あー、ようやくか……よし、今日も色々と聞くか」
うぜー……
「ケリーさん、アーヴィンから何て言われて結婚したんだ?」
「おい、こら……」
「苦労をかけるかもしれないけど、絶対に後悔はさせないから結婚してくれ、ですね」
「おい……」
ひゅー。
「あ、こっちの方が面白そうだ」
俺達は2人の過去話を肴に飲み続けた。
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