第072話 ありがたいお説教
定食屋を出ると、店に戻る。
店ではアンジェラが暇そうに頬杖をついていた。
「ただいま」
「おかえりー。早かったわね」
「昼飯食ったらローレンスが観光に行った。客は?」
「ぼちぼち。水筒を買いに来たし、修理の依頼があったわね。簡単なやつだったし、こっちでやった」
アンジェラも手慣れてるしな。
「なら良かったわ」
「あ、お茶を淹れるわ。休憩にしましょう」
「悪いな」
看板を【外出中】にすると、奥の住居スペースに入った。
そして、アンジェラがお茶を淹れてくれたので一緒に飲む。
「そっちは? 火事の現場を見に行ったんでしょ?」
「ああ。想像以上に奥だったし、想像以上に燃え広がっていたな」
「へー……それでどんな感じ? エリック達がわざわざ見に行ったってことは何かあると思ったんでしょ」
俺というよりローレンスだな。
「うーん……多分、事故は事故だと思う。事件性はなさそうだな。軍が言ってたまんまだ」
さすがにスタンピードを狙った犯行ではない。
「そうなんだ……まあ、それで安心と思っていいかもね」
「そうだな。途中でメアリー達と会ったわ」
「どうだった?」
アンジェラが笑う。
「飯食ってた。ベティさんの感じだと迷惑はかけてないようだな。神父さんがシャーリーにお祈りをちゃんとしろって説教を始めたから慌てて逃げた」
「その場に居なくて良かったわ。確実に矛先がこちらに来る」
そうなるだろうなー。
アンジェラはお祈りどころか教会にも行かないし、ギャルギャルしてるから神父さんのありがたいお説教が止まらないのだ。
「アンジェラ、明日は休みにして川の方に行ってみるか」
「うん。ここのところずっと忙しかったしね」
ホントにだわ。
今日も午後から休みでいいや。
その後、話をしたりしながらアンジェラと2人で過ごしていく。
そして、16時くらいになると、アンジェラが買い物に出かけたので店の方に行き、片付けを始める。
すると、メアリーが帰ってきた
「ただいまー。奇跡のEランク冒険者が帰ったよー」
何の奇跡だよ。
「おかえり」
「アンジェラちゃんはー?」
「買い物。ラシェルの世話をしてこい……ん?」
メアリーの後ろに神父さんがいる。
「ほいほーい」
「待て、メアリー」
リビングに向かおうとしたメアリーを止めた。
「んー? なーに? ただいまのちゅーはアンジェラちゃんにしてあげなよ」
なんでお前にただいまのちゅーをしないといけないんだよ。
「いや、お前、良くないものをもらって来たか? 悪霊とか……」
「君、とんでもないことを言うね」
「んー? 悪霊? あー、神父様か」
「メアリーはメアリーで否定しなさい」
なんでいるんだろ?
「なんか話があるらしいよ。とことことついてきた」
「私は犬かな?」
神父さんがツッコミになってる。
「わかった。手を洗えよ」
「当たり前じゃん。ラシェルー、ただいまー。リンゴと人参、どっちがいいー?」
メアリーは住居スペースに入っていった。
「神父さん、どうしたんです?」
「一つ言っておくが、あまり神職の人間を悪霊呼ばわりしない方が良いよ。下手をすると、剣を抜く」
娘のストーカーと悩んだんだけどな。
「ただの冗談ですよ。それよりも何か用件が? 明日は休みにするつもりなので修理等なら今からでもやりますけど」
「いや、仕事関係ではない。今日のローレンス君だったかな? 彼のことだ」
あー、それか。
「友人ですね」
「そうかね……同僚かい?」
「ええ」
「黒影団か……」
神父さんが悩みだす。
「どうしました?」
「いや、なんでこのタイミングかなと思ってね。君がこの町に来てから誰も訪ねて来なかったでしょ」
まあ、それは神父様も思うか。
「ローレンスは旅をしていたんです。その終点が王都らしいんですよ」
「そうか……君らはあの戦争に納得してないんだったかな?」
「ええ。今でも納得はしてないです。ですが、俺もアーヴィンもそれよりも大事なことがありますので」
俺はこの店の店長だし、メアリーとアンがいる。
戦争を引きずることはない。
というか、それどころではないのだ。
「君達はそうだろうね」
「神父さん、ノクスの亡霊って知ってますか?」
「知っているよ。ノクス戦争の結末に納得できず、国に帰らなかったとされる暗部だ。まあ、君達のことだね」
悪霊ではなく、亡霊。
「確かに間違ってはいませんが、死んだ戦友の遺族やアーヴィンに報酬をやってくれと言って去ったかっこいい感じのやつですよ?」
「それは立派だ。でも、君はそうするべきじゃなかったね」
あの時はメアリーがいなかったから仕方がない。
帰り道で拾ったんだ。
「まあ、色々ありましたからね」
結果、アーヴィンを頼った。
「あのローレンス君は納得できたのかね?」
「折り合いはついたっぽいですね。まあ、あいつも32歳なんで」
納得するのに10年もかかったみたいだが。
「そうか……ノクスの亡霊は残念ながらあまり良い噂を聞かないんだよ。大衆は面白がっているくらいだが、最近は変な噂を耳にする」
あー……
「暗躍しているとかですか?」
「知っているのかね? 意外だ」
「ローレンスに聞きました。ローレンスはその調査を兼ねて、この町に来たんですよ。今日、森で会ったのはその件で奥の火事を見に行った帰りです」
「なるほど。ローレンス君も自分達がそんな噂を立てられるのが嫌なのだろうな」
俺も嫌だ。
死ぬ気で戦い、仲間を失ったのに戦果はなし。
それどころか、変な噂まで立てられるのは納得できない。
「だと思います。ただ、火事は関係なさそうでした」
「ふむ……」
「あの、ちなみに、噂ってどんなのがあるんですか?」
「とある町では悪徳貴族が天罰を食らったらしい。またとある町では買占めをし、町民を困らせた商人が捕まったらしい」
ふーん……
「正義の味方みたいですね」
「謎の黒い仮面を被っていないことを祈るよ」
俺は他所の町に行くほど暇じゃねーよ。
「違うと思いますよ」
「だろうね。まあ、そういう噂があったから気になっただけだ。また、何かあったら教えてくれ」
「闇の三人衆の出番ですね」
「やめてくれ……」
神父さんが苦笑いを浮かべて、首を横に振る。
「ただいまー。げっ!」
アンジェラが帰ってきたが、神父さんを見て、嫌な顔になった。
「アンジェラか。夕食の買い出しかい?」
『げっ!』はかなり失礼だが、神父さんはいつものことなのでスルーだ。
「ええ。神父様はどうしたんですか?」
「ちょっとエリックと話があっただけだよ。アンジェラ、もう20歳になったね?」
「そうですけど……」
説教は嫌って顔に書いてあるな。
「エリック、あまり待たせると良くない噂が立つよ? さっさと教会に来なさい」
あ、俺への説教だった。
「色々ありまして……」
家のこととか。
「ふう……まあ、君はちゃんと考えているだろう。では、私はこれで失礼する。メアリーはちゃんとしていたから安心しなさい」
神父様はそう言って帰っていった。
「何の話をしてたの?」
アンジェラが聞いてくる。
「いや、ローレンスのことだったんだが……まあいいや。店を閉めてしまうわ」
「じゃあ、ご飯作ってるね」
アンジェラがそう言って、奥に入っていったのでさっさと店を片付け、閉めることにした。
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