第007話 世界最高のワイン
俺達は昼食を終えると、店の方に行き、仕事をしていく。
依頼されている魔道具を作ったり、店にやってきた客の対応などを2人で分けながらこなしていった。
そして、15時くらいになると、依頼の大半が片付き、客も落ち着きだす。
「てんちょー、お茶ー」
アンジェラがお茶を淹れてくれたので休憩する。
「ありがとう」
礼を言い、一口飲む。
「店長さー、これ何? 座布団?」
アンジェラが先ほど作り終えた正方形の塊を見て、首を傾げた。
「そんな硬い座布団はないだろ。それは持ち運びができるコンロだな」
「コンロ? 火が出るの?」
「いや、温度を上げて温める感じだ。自室でも冷めたコーヒーを温められるし、野営中でも火を使わずに温かいご飯が食べられるぞ」
雨が降っていて焚火が使えなくてもテントの中で温められる。
「ふーん……よくこんなのが思いつくね」
思いつくか……
別に思いついているわけではない。
何かの記憶があり、それを作っているだけだ。
もうおぼろげでしかない記憶でほとんど思い出せないが……
「売れるんだからいいだろ」
「売れればねー。この前のお風呂で泳ぐ魚のおもちゃは売れなかったね」
絶対に良いと思ったんだけどなー……
黄色いアヒルはそこそこ売れたのに……
「失敗があってこそ成功があるんだ」
最初は失敗続きだったのだ。
俺は戦争が終わった後、途方に暮れていた。
かっこつけて報酬をもらわなかったから金はなかったし、よく食べる馬と泣いてばかりのガキを何とかしないといけなかったからだ。
ただ、戦いで金を得る気にはなれなかったので冒険者や傭兵という道はやめた。
幸い、子供の頃から手先が器用だったし、戦時中も壊れた武器や日常品を直していたりした経験があったため、そういう職に就いたのだ。
「まあ、黒字だからいいか。明日はどうすんのー?」
明日……
「仕事だな」
当然である。
明日も客は来るし、物は作らないといけない。
「いや、メアリー。メアリーが明日も行くならまた覗き?」
覗きって印象が悪いな。
「どうだろ……というか、明日も行くのかね?」
「行くんじゃない? 奥には行ってないだろうし、疲れもないでしょ」
それもそうか。
「いや、明日も浅いところだろう。あの感じだったら浅いところは大丈夫だと思う」
「じゃあ、行かないんだ?」
「ああ。こっちも準備をしないとな」
そう言って、ヘルメットを取り出し、改造を始める。
「よくやるわ……」
「なあ、カトリーナもだが、メアリーはどんな感じだ? 俺は今日のあれしか知らん」
「知らんって……店長が教えたんじゃないの? 私もだけど、護身術的なものは店長から教わったよ」
暇な時に近所のガキ共に教えてやったことはある。
ウチはメアリーがいたこともあるが、ガキ共が馬を見にきたりしてよく来ていたのだ。
その際に基本的なことは教えたりはした。
なお、アンジェラは非力だし、センスがまるでなかった。
その分、頭が良かったし、魔法のセンスは十分だったが。
「あいつに教えたのは基礎だけだ。魔法も同じだな。冒険者になってほしくなかったから勉強をさせようと思っていた」
「メアリー、放り出して外で駆けっこしてたね」
他のガキ共もだが、勉強嫌いなんだよな……
結局、最後までテーブルについていたのはアンジェラだけだった。
まあ、アンジェラは駆けっこが嫌だからだろうけど。
「一応、研修とかは受けていたんだろ? どんな感じだ?」
ギルドには研修制度があり、職員やベテランの冒険者がガキ共に勉強会を開いたりする。
「店長は嫌かもだけど、メアリーは評判が良いよ。身軽で何をやらせてもそつなくこなすし、度胸もある。まあ、そもそも魔法が使えるだけで有望株っしょ」
魔法を使えれば職に困ることはないから重点的に教えていた。
「カトリーナもか?」
「教会の子で回復魔法が使えるからね」
それだけで貴重か。
回復魔法は教会が独占している魔法で普通の魔法使いは使えない。
まあ、俺は使えるんだけどな。
違法だが、暗部なんて違法の塊なのだ。
「お前の目から見てどうだ?」
「すぐにCランクくらいにはなるんじゃない? 数ヶ月で並ばれそう」
アンジェラは冒険者になって2年くらいになるが、まだCランクだ。
魔法使いだし、実力はあるのだが、ウチの店と兼ているということもあり、片手間なのでどうしてもランクは上がらない。
「Bランクを目指して頑張ったらどうだ? ついていってやるぞ」
さっきのフォローじゃないぞ。
「別にいい。冒険者も好きだけど、基本的にインドアだからこの店にいる方が良い」
ふーん……
「魔道具作りが好きそうで良かったよ」
「マイナス50てーん。ケーキでも作ってあげようかと思ったけど、今日はなしでーす」
なんでだよ……
その後もヘルメットの改造やマント、服なんかも考えながら過ごしていると、気配がしたのですべての変装道具を空間魔法にしまった。
「ただいまー」
店の扉が開き、メアリーが笑顔で帰ってくる。
「おかえり。今日はどうだった?」
アン、呆れたような顔になるんじゃない。
「楽しかったー。それにゴブリンを倒したよ!」
「良かったな。カトリーナに迷惑をかけてないか?」
「かけるわけないじゃーん」
それはどうだろう?
「まあいい。お疲れさん。もうちょっとしたら店を閉めて、夕食にするから休んでろ」
「はーい。アンジェラちゃんもただいまー」
メアリーがアンジェラにも声をかける。
「はい、おかえり」
「今度、一緒に行こうよー」
「休みの時にね」
「私の剣を見せてあげるよー」
今日見たぞ。
「どうも。頼りにしてるわ」
「わははー。あ、エリック、これあげる」
メアリーが何かの瓶を渡してきた。
「んー? ワインか? 何だ、これ?」
誰かにもらったか?
「今日、初めてお金を稼いだから買ってきた。プレゼント、ふぉーゆー」
ふーん……
「初めて稼いだ金なら自分のために使えよ」
「使ったじゃーん。それがこれ」
あっそ。
「ありがとよ。休む前にラシェルに餌をやってくれ」
「そうするー。ラシェルー、ただいまー」
メアリーが住居スペースに入っていった。
「ワインねー……」
「良かったじゃん」
たいした額のワインじゃないだろうし、美味いもんでも食えばいいのに。
バカなやっちゃ。
「まあ、適当な時に飲むか」
「そう…………私はちょっとメアリーに例の仲間の件を話してくるわ」
アンジェラが立ち上がり、住居スペースに向かった。
「ふん……」
前が見えないわ。
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