第062話 バカって言うなー。私をダシにいちゃつくなー
仕事をしていくと、夕方になり、アンジェラが料理を作り出す。
俺が店の片付けをし、閉店準備をしていた。
「ただいまー」
メアリーが元気に帰ってきた。
「おかえり。ベティさんの護衛の仕事はどうだった?」
「ばっちしー。何も問題ないし、おばさんもありがとうって言ってた」
あのまま見ていた通りに終えたか。
「良かったな。ラシェルの世話をしてから着替えろ。今日もアンジェラが泊まってくれるんだとよ」
「今日も? 連続は珍しいね」
というか、連泊することなんてない。
「頼んだんだ」
「あ、そう。もういっそ、ずっといてもらえばいいのに」
「物置の改修も荷物の整理もまだだ」
物置になっている部屋の改修と屋根の修理は同時にやろうと思っている。
「ふーん……いつすんの?」
「それなー……屋根の修理に2、3週間かかるし、その間は外泊しないといけない。ちょっと相談だな」
店の方は大丈夫だからそこで寝泊まりしても良いが、女の子のメアリーはそういうわけにいかない。
「宿屋か誰かの家に泊まるかなぁ……まあ、今度、相談しよっか」
「ああ。そうだな」
頷くと、メアリーが住居スペースに入っていったので俺もさっさと整理をし、店の看板を【準備中】にした。
そして、3人で夕食を食べ、順番に風呂に入ると、メアリーからもらったワインをアンジェラと2人で飲む。
「メアリー、美味いぞ」
「そう? お酒の味はよくわかんないけど、美味しいなら良かった」
ソファーで寝転んでいるメアリーが本を読みながら答える。
「お前、明日も仕事か?」
「いや、明日はギルドで勉強会。ギルドには色んな資料があるからそれを見ながら今後のことを相談する感じ」
勉強会……勉強嫌いなメアリーが……
「また違う仕事を受けるのか?」
「自分らに合った仕事を探すのが良いんだってさ。専門じゃないけど、1つ得意分野があると安定するってヴィオラちゃんが言ってた」
それはわかるな。
「なるほどな。俺が思うにお前らは女3人だから女性の護衛とかが良いと思うぞ」
「それもありだねー。まあ、明日はその辺の相談」
良いと思う。
「わかった。明日なんだがな、俺はちょっと夜に出るから」
「何? 商業ギルドの飲み会? それともアーヴィンさん?」
惜しい。
「旧友が訪ねてきたんだ。それでアーヴィンと3人で飲む」
「旧友ねー……晩御飯、どうしようかな? アンジェラちゃーん、一緒に食べよー」
「良いわよ。多分、明日も泊まるし」
え? そうなの?
「明日も泊まんの? エリックいないよ?」
「帰りを待つのが良い女なの」
プレッシャーでは?
いや、そんなに遅くまでは飲まないと思うけど。
「私、寝るなー」
「お子ちゃまね」
「そうかなー? 夜は寝るもんだよ」
メアリーはよく寝るもんな。
「明日も早いんでしょ? お子ちゃまはさっさと寝なさい。ここからは大人の時間だから」
「アンジェラちゃんはいちいちエロいんだよなぁ……ふわーあ」
あくびをしたメアリーが起き上がり、自分の部屋に向かう。
「メアリー、ワイン、美味しいわよ」
「嘘つけ。嫌いなくせに。私がCランクになったらえっちぃパンツを買ってあげる」
「持ってるからいらない。アクセを買ってちょうだい。シルバーでじゃらじゃらしたやつね」
好きだねー。
「それこそいっぱい持ってんじゃん」
ギャル卒してもアンジェラのファッションは変わっていない。
「いくらあってもいいの」
「ふーん。じゃあ、考えておく。おやすみー」
「はい、おやすみ」
メアリーが部屋に入った。
すると、アンジェラがワインをぐいっと飲む。
「無理しなくていいぞ」
付き合ってくれとは言ったが、無理に飲まなくていい。
「昔ほど嫌いじゃないわよ。前は全然だったけど、今は嗜む程度には飲める」
「ならいいけど」
そう言うと、俺もワインを飲んだ。
「美味しい?」
「はっきり言えば、普通のワインだ。別に高いわけでもないし、その辺に売っているワインだな。でも、これ以上の酒はない」
これほどまでに酔いが早くなるワインはない。
「メアリーがくれたものだものね」
アンジェラが空いたグラスにワインを注いでくれる。
「アンジェラ、メアリーはな、俺の子じゃないんだ」
「知ってる。でも、あれはどう見てもエリックの子よ」
まあ、メアリーが養子なのは誰しもが知っていることだ。
「あいつ、拾ったんだよ」
「知り合いの子じゃなかったっけ?」
そういう説明をしている。
「戦争が終わった直後に馬車を見つけてな……そこにいたのがメアリーだ。母親もいたが、死ぬ直前だった」
「そうなんだ……」
「母親にメアリーを町に送り届けるように頼まれた」
「それで引き取ったの? 優しいわね」
いや……
「奴隷商に売り飛ばそうと思ったな」
ラシェルも売る気だった。
「ひっどいわね」
「ああ。ひどい。ただ、金もないし、頼れそうな知り合いもいない。子供をどうすればいいのかわからなかったんだ」
俺自身が孤児であり、スラムで生きてきた人間だ。
誰かに育てられたという記憶もないし、どうすればいいのかわかるはずもない。
「でも、引き取ったんでしょ?」
「ああ。はっきり言えばきまぐれだな。戦争があんなことになり、自棄になっていたこともある。母親が死んで哀れに思ったこともある。そんな色々な想いが脳内を巡り、結果、ここに来たわけだ。もし、あの時に戻ったとしても同じように俺が何とかしようと思ったのかはわからない」
多分、10回に8回は見捨てたと思う。
俺はそんな善人じゃないし、あの時は自分のことでいっぱいいっぱいだったんだ。
「エリック、昼も自分が冒険者になってたらどうなったかって言ってたでしょ?」
隣に座っているアンジェラが俺の手に自分の手をそっと重ねた。
「ああ」
「多分、エリックのそのたらればはこのことを言っているんだと思う。もし、自分がメアリーを見捨ててたらどうなっていたんだろうって」
「そうだと思う」
俺はいまだになんでメアリーを育てたのかわからないんだ。
何の関係もない他国の貴族の子……あの母親にもメアリーを育ててくれとは頼まれていない。
「それも冒険者云々と一緒で考えても仕方がないことよ。罪悪感を覚えなくてもいい。あなたはちゃんとメアリーを育てたし、メアリーはバカだけど、明るい良い子に育ったわよ。それだけが事実だし、それ以上はないわ」
そうか……
「この10年、メアリーと一緒で楽しかったよ」
「でしょうね」
「アンジェラが言う通り、バカだけど、良い子に育ってくれただけで満足だと思う」
俺は多分、戦争があんな形で終わり、目標を失っていたんだと思う。
だからこそ、逆に俺がメアリーに助けを求めたのかもしれない。
「そうよ。それだけで十分。ほら、ワイン」
アンジェラがワインを注いでくれる。
「そうだな。アンジェラ、いつもいてくれてありがとう」
「当然でしょ。私、ちょー良い女だもん」
いや、本当にな。
メアリーが冒険者になった時も付き合ってくれたし。
次は……あいつが嫁入りする時だろうか?
まったく想像ができないな。
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